タイトル : 報復の仕来り
著者 : 佐藤巌太郎
収録短編集 : 『会津執権の栄誉』
出版社 : 文藝春秋
佐藤巌太郎は、1962年生まれの新人作家。このデビュー作でいきなり直木賞候補になった。
“新人離れした”という常套句が、そのまま当てはまるような完成度である。
では、あらすじを。
★★★
時代は、戦国時代末期。豊臣秀吉による天下統一直前の頃。
《会津四群を支配する芦名家の屋台骨が揺らいでいた。
十九代当主の亀王丸の死後、芦名家嫡流の男系は絶え、家督争いで揉めた。芦名重臣の集まった評議では、常陸の佐竹義重の次男、義広を当主に迎えることになった。義広はまだ若く、佐竹家の家老連中が後見につくことになって以来、佐竹家家臣団と芦名家譜代の家臣団との間に確執が生まれている。》
そんな状況下で、事件は起きた。
佐竹家家臣団の有力者大繩讃岐の足軽大将である藤倉三郎治が、何者かに斬殺されたのである。
追いはぎにやられたのだろうと言う噂がたっているが、これは芦名家が飛ばした流言にすぎない。藤倉三郎治は、武勇の誉れ高い男で、追いはぎなどにむざむざとやられるような男ではないのだ。
《新当主の側近家老の家臣が城下で斬られたのである。名門佐竹家の面目にかけて、斬った相手を探し始めた。その様子を見て、芦名家古株の重臣たちも、さすがに知らぬ顔はできない。斬った者の首を差し出して、大繩の怒りを収める算段をつけた。
「やったのは玄蕃(げんば)に決まっておる。諍いがあったというではないか。そなたが行って詮議して参れ」》
上役から命を受けたのは、芦名派の馬廻役、桑原新次郎。
犯人と目された松尾玄蕃は、芦名直参の家系の組頭格。伊達との戦で、三人の兜首をあげた猛者で、先代の時代には、組頭以下をまとめる侍大将の器と目されていた。
そして、桑原新次郎とは同い年の幼馴染でもあった。
新次郎は、玄蕃を訪ねる。
《「おまえが来るとは想像していなかったぞ」
さして驚いた風も見せずに、一瞥した玄蕃はそう言った。
「だが、誰かが来るだろうとは想像していたのか」
玄蕃は新次郎の目を見据えると、抑揚のない表情を見せて事もなげにつぶやいた。
「あやつを斬ったからな。そりゃあ、誰かは来るだろうさ」》
その言葉に、新次郎が気色ばんで、「では、藤倉三郎治を斬ったのは自分だと認めるのか」と詰め寄ると、「いや、認めぬ」と言う。
「わしが斬ったという証を見せろ」と言うのだ。
目撃者探しに奔走する新次郎だったが、ひとりも見つからない。
そんなとき、野村銀之助と名乗る薄汚れた牢人者が新次郎を訪ねて来る。
玄蕃と三郎治の斬り合いを目撃したと言うのである。話をきいてみると、三郎治の刀傷の状況などから、証言に間違いはないように思える。
が、新次郎は、若い牢人者に微かな違和感を覚えるのだった…。何かが、どこかがおかしい…。
驚愕のラストにたどり着くまでに、伏線がきっちりと張られていて見事。
★★★
◆収録短編集 『会津執権の栄誉』 について
会津の芦名家を舞台にして、戦国末期からその没落までを語る連作短編集。
収録作品は、「湖の武将」「報復の仕来り」「芦名の陣立て」「退路の果ての橋」「会津執権の栄誉」「政宗の代償」の全6編。いずれも完成度が高く、読みごたえがある。
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伊達政宗はともかく、金上盛備を主役に据えた小説は珍しい。