単純な生活

映画・音楽・読書について、だらだらと書いている

『メトロポリス』を観る。そして、流れなくなったサティ。

 

▶ 『メトロポリス』を観る。

1927年制作のドイツ映画。

サイレント映画の古典的名作。

 

 

観たのは、10年ほど前にアルゼンチンでほぼ完全なプリントが発見され、それを元に復元されたヴァージョンである(2010年版)。

以前のものより25分ちかく長いようだが、これでもまだ欠落があるらしい。

ディスクには、小松弘氏(映画史研究家)の詳しい解説書がついていて、監督フリッツ・ラングと「メトロポリス」が出来た時代のこととが詳しく書かれている。

 

わたしが、はじめて『メトロポリス』を観たのは、1984年に出たジョルジオ・モロダー版である。

この映画の大ファンだった音楽プロデューサーのモロダーが、世界中にちらばる『メトロポリス』のフィルムをかき集めて再編集し、とうじ流行のサウンドをつけたもので、長さはおよそ90分。

評論家筋には大不評だったが、わたしは面白いと思った。

後に紀ノ国屋書店から出た版も観てみたが、モロダー版より画質はかなり良くなっていたものの、なんだか間延びして長く感じられた。

 


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内容は、格差社会を描いたディストピアものである。

支配階級と労働者階級の闘争、それに翻弄されるマリアの愛と絶望、理想都市メトロポリスそのものを破壊しようと企むアンドロイドの存在…。

含まれるテーマを考えると、いまこそ観られるべき作品かもしれない。

 

映像の凄さは、圧巻のひとことにつきる。

とくに「SF映画史上最も美しいロボット」と言われる、アンドロイド・マリアの気品ある姿が素晴らしい(スターウォーズC3POの元になった)。

未来都市メトロポリスの姿は、手塚治虫の漫画に出てくる未来都市とそっくりだ(もちろん手塚治虫が影響を受けたんだろう)。

役者の演技が、超オーバーアクションなのが少し気になるが、それもサイレント映画の味なので笑って許す。

 

 

 

小川典子のピアノでサティを聴く。

 

Satie: Piano Music, Vol. 1

Satie: Piano Music, Vol. 1

  • 小川 典子
  • クラシック
  • ¥1528

 

かつては、少しこじゃれたカフェに入ると、よくサティがかかってたりしていた。

いつからかサティは流れなくなった。

と言うか、サティを流すような店がなくなったと言うべきか。

たしかに、スタバやサンマルクにサティは似合わない。

 


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どうした小川典子 “笑”。

 

 

 

▶ブログのタイトルをつけるのが、かなりめんどくさい。

どうでも良い気もするし、どうでも良くない気もする。

とりあえず、最初の一文と最後の方の文章を適当につなげているが…。

 

 

ゴダールの『はなればなれに』。そして、ジジイは、そっとため息をつく。

 

▶ 『はなればなれに』(Bande à partを観る。

1964年制作のフランス映画。

 

 

監督は、ジャン=リュック・ゴダール

ゴダールを観るときは、いつもちょっと身構えてしまうのだけど、なんでだろう。

 

パリの英語学校で出会った3人の男女(男2+女1)。

ちょいワルのアルチュール(クロード・ブラッスール)とフランツ(サミー・フレー)、北欧から叔母の住むパリにやってきたオディール(アンナ・カリーナ)。

オディールの叔母の家に大金があることを知ったアルチュールとフランツは、気のすすまないオディールを巻き込んで、金を盗む計画をたてる。

ちょっとコメディタッチのサスペンス映画。

 

カフェでのダンスシーンが有名。

 


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ときおり音楽をぶった切って、ゴダールのナレーションが入る。

観てる者を確信犯的に混乱させようとする。

それにしても、アンナ・カリーナの美しさ&可愛さときたら!

そりゃあ、ゴダールも惚れますわね(とうじアンナはゴダールの妻)。

 

こちらは、フランスのサイトで見つけた撮影風景の映像。

www.ina.fr

バックに流れているのは、映画で流れていたミシェル・ルグランのオリジナル曲ではなく、ジョン・リー・フッカーのブルース。

 

映画の冒頭でフランツが『シェルブールの雨傘』のテーマ曲を口ずさむ。

シェルブール…」の音楽はミシェル・ルグランが担当していて、監督はジャック・ドゥミで、ジャック・ドゥミの妻がおなじく映画監督のアニエス・ヴァルダで、アニエス・ヴァルダの代表作のひとつ『5時から7時までのクレオ』にはアンナ・カレーナと、たしかゴダールも出演している。

よーするに、ヌーヴェルヴァーグの人たちは仲が良かったわけだね。

それを知った上で、アニエス・ヴァルダの遺作『顔たち、ところどころ』(2017)を観ると、ラストのヴァルダの涙と哀切さが胸に迫る。

ミラボー橋の下をセーヌは流れるのだ。

 

ストーリーは陳腐でたいしたことはない。

この映画の魅力は、パリの美しい風景であり、ストーリーとは関係なく挟み込まれるディティールの楽しさだ(ダンスシーンもストーリーとはあまり関係ない)。

なんかタランティーノ的、って言うか、タランティーノゴダール的なのか?

タランティーノは、この映画が大好きで、自分の制作会社の名前を「バンド・アパート」にしているし。

 

ゴダールの映画は、敬遠されがちだけど、この『はなればなれに』は想像している100倍はチャーミングな映画なので、ぜひ!

 

 

 

小川典子の『Takemitsu - The Complete Solo Piano Music』(1996)を聴く。

 

 

武満徹のピアノ作品集。

良いですねぇ。

できれば雨の日に聴きたい(まあ、晴れの日でも良いけど)。

 

 

 

▶ さいきん、映画関係のブログをいくつか読んでいて気になった言葉…。

「モノクロの映画なので、つまらないんじゃないかと心配だったけど、大丈夫でした」とか、「モノクロ映画だけど、面白かった」とか、「モノクロなので、眠くなるんじゃないかと思ったが、そうでもなかった」とか、“モノクロ映画” 対するマイナス・イメージって何なのか?

モノクロってだけで、その作品を敬遠している人が、けっこういるってことだろうか?

市民ケーン」も「天井桟敷の人々」も「七人の侍」も「東京物語」も、モノクロだから観ていないってことだろうか?

 

わたしは、画面の美しさはカラーよりモノクロの方が、サイズ的にはシネスコ(横長)よりはスタンダード(昔のテレビ画面)の方が美しいと思っている。

色がどうこうって言うより、構図的にかっちり決まっている感じがして好き。

まあ、このへんは結局好き嫌いになるわけだけど。

 

「モノクロ映画 = 古くてつまらない映画」という間違ったイメージを多くのひとが持っているのだろうか?

だとしたら、もったいないことだ。

面白い映画がたくさんあるのになあ…。

と、ジジイは、そっとため息をつく。

 

 

 

 

 

岡本喜八がマイブームなのであるよ。そしてブックオフで2冊。

 

▶『侍』を観る。

1965年制作の岡本喜八監督作品。

 

 

先日観た同監督の『斬る』とは違って、こちらは重厚な時代劇。

主演は三船敏郎

そのほかに、小林桂樹伊藤雄之助松本幸四郎、新珠美千代、東野栄治郎、志村喬など、脇役が豪華だ。

この頃の日本映画を観るたびに、俳優陣の層の厚さに驚く。

脇役の役者たちのほとんどが、主役をはれる人たちなのである。

いまの日本映画とのいちばんの違いは、(監督の質とかではなく)この俳優たちの層の厚さの違いなのではないか、と思う。

 

舞台は、幕末。

江戸城桜田門の外、時の大老井伊直弼を討とうとする水戸藩士の集団のなかに、新納鶴千代(三船敏郎)という、ひとりの浪人者が混じっている。

井伊直弼暗殺の手柄を立て、水戸藩にとりたててもらおうと言う腹づもりなのだ。

しかし、井伊はなかなか姿を現さない。

ひょっとしたら、水戸藩士たちの動静が井伊側に漏れているのではないか?

疑心暗鬼にかられたかれらは、首領星野(伊藤雄之助)の命のもと、謎の浪人の身辺をしらべ始める…。

 

新納鶴千代が哀しすぎる。

かれの出生の秘密、新珠美千代扮する菊姫との身分違いの悲恋、そして井伊直弼を殺して立派な侍になろうとするが、井伊直弼を倒すことによってかんじんの侍の時代が終わってしまうという悲劇…。

ラストの桜田門外での泥臭い殺陣が素晴らしい。

この殺陣を観るためだけに、この作品を観てもよいくらいだ。

 

 

 

▶ Robbie Dupree の『Robbie Dupree』(1980)を聴く。

 

Robbie DuPree

Robbie DuPree

  • ロビー・デュプリー
  • ロック
  • ¥1120

 

デビュー・アルバム。

シングルカットされた「Steal Away」が大ヒット。

でも、まぁいわゆる一発屋ですよね。

このあと同じアルバムから「Hot Rod Hearts」って曲がそこそこヒットするが、その後は、これといったヒット曲はない。

でも、ショービスの世界で、しぶとく生き残ってはいる。

 


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この2枚目シンガーが、後にこういう爺さんになる(腹出てるやん)。

 


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さいきん1980年代(つまり、わたしが20歳代の頃)の音楽を聴きなおしている。

とうじはAORと呼ばれる音楽がヒットしていて、この「Steal Away」もそういう曲のひとつだった。

久しぶりに聴くと、なかなか良いじゃないかと思うが、いちど聴いたらあと20年くらいは聴かなくても良いかな、とも思う(とっくに死んどる)。

耳に気持ちよく、すーっと流れて、なんの引っかかりもないんだよねぇ。

まあ、とうじはそれが良かったのだが…。

 

 

 

▶ ちかくのブックオフで2冊ゲット。

 

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『さらば愛しきサスペンス映画 / 逢坂剛川本三郎』(2012年 七つ森書館

『世界100物語 第5巻 / サマセット・モーム編』(1997年 河出書房新社

どちらも500円で、状態も良い。

 

『世界100物語』は、サマセット・モームが選んだ100編の名作短編小説をテーマごとにまとめたもので、全8巻。

あと第6巻を手に入れればコンプリートである。

以前、『世界文学100選』という(A5版くらいのサイズで緑色の函に入っていた)5冊本として出ていたのだが(そのときはテーマごとの分類ではなく、年代順だったと記憶する)、なにしろ活字が小さく、老眼と乱視がひどくなってからは読み返すこともできない有様なので、かなり昔に処分してしまったのである。

で今、新しい版を古本屋で見つけては、買いなおしているのだ。

 

ちなみに、『世界文学100選』(全5巻)は、いまは入手が難しく、そこそこの値段がついている。

辻邦夫という作家の最初の仕事が、この選集に収められた作品の翻訳なので(ほうんとうかな?)、それを知っている古本屋さんは高値をつける。

 

 

本の本 #5 / 読書エッセイ Part2

 

▶読書エッセイを6冊紹介。

いずれもサクッと読めるが、読み応えがある。

 

 

01. 『読書の極意と掟 / 筒井康隆』(講談社 / 文庫)

読書の極意と掟 (講談社文庫)

読書の極意と掟 (講談社文庫)

 

 

以前、朝日新聞出版から出ていた『漂流  本から本へ』を改題したもの。

田河水泡の『のらくろ』からハイデガーの『存在と時間』まで、全66冊を、自らの人生を振り返りながら語る、自伝的な読書エッセイである。

意外なことにSFは6冊しか取り上げられていない。

 

とにかく楽しい本だ。

筒井康隆ファンでなくても、夢中になって読める1冊である。

 

 

 

02. 『私はこうして読書をたのしんだ / 池内紀』(中央公論社

 

 

池内紀は、つかみが巧い。

 

 手にステッキ、足にはキッドの深護謨(ゴム)靴。そんないで立ちで百閒(ひゃっけん)先生は旅に出た。

 靴のほうはくわしく書いてある。昭和十四年に誂えて造った上等品で、キッド革の深護謨型。深護謨というのになじみがない人は、「昔の枢密顧問官が穿いた様な靴」だと思えばよろしい。枢密顧問官といわれても困るが、倫敦市長がはくような立派な靴だということはよくわかる。ただし、星霜十幾年、横に穴があいたので、大きなつぎが当たっている。

 ステッキについてはどうか。

 これがよくわからない。 ~「阿房列車に乗って / 内田百閒」の項

 

 このあと、ステッキについての考察が続き、そのステッキをキーワードにして、内田百閒の魅力がよどみなく語られていく。

まず“魅力的な事実”を語る。

あるいは、ひとつの“事実”を魅力的に語る。

これが、池内紀の技である。

 

ひとつの“事実”を語るためには、それ以上の“事実”を知っていなければならない。

多くの“事実”のなかから、その作家を表現できるような魅力的な“事実”を見つけなければならない。

時間のかかる作業だと思うが、その時間を著者は楽しんでいる。

読者は、著者が手間暇かけて選んだ美味しいところを、ただ楽しめば良いだけなのである。

 

取り上げている作家は、小川未明野尻抱影、内田百閒、白井喬二佐藤春夫石川淳神西清……など、著者好みの少し渋い作家が並ぶ。

 

 私はまわりの世間よりも、書物を通じてずっと多くの友情を見つけてきた。本を読んでいるかぎり、人間に孤独などないのである。 ~あとがき

 

 

 

03. 『子供より古書が大事と思いたい / 鹿島茂』(青土社

子供より古書が大事と思いたい

子供より古書が大事と思いたい

  • 作者:茂, 鹿島
  • 発売日: 2019/07/24
  • メディア: 単行本
 

 

稀覯本マニアの著者による、開き直りの書である。

 

私が本を集めるのではない。絶滅の危機に瀕している本が私に集められるのを待っているのだ。とするならば、私は古書のエコロジストであり、できるかぎり多くのロマンチック本を救い出して保護してやらなければならない。これほど重大な使命を天から授けられた以上は、家族の生活が多少犠牲になるのもやむをえまい。

~14p

 

ロマンチック本というのは、著者が蒐集の対象としている19世紀フランスで出版された挿絵本のことである。

ある日、ロマンチック本の美しさに憑りつかれた著者は、あっという間に熱烈な愛書家へと変貌するのだ。

家族は、たまったものではない。

 

著者がパリに住んでいた頃のこと。

パリにある古本屋をあらかた見てしまった著者は、地方への探書の旅を計画する。もちろん家族には、その目論見は隠したまま、一家4人はホンダのシビックに乗ってフランスの田舎町へと出発する。

トゥールという町で事件は起こる。

とある古書店で、著者は、『十九世紀ラルース』という、ずっと探していた本を見つけてしまうのである。しかも値段は想定額よりずっと安い。

ただし、17巻本である。

しかも、重い。1巻4.5キロ×17=76.5キロである。

古書店主は、持ち帰るなら売ってやると言う。

買ってしまうのだ、これを。

重さも問題だが、それより車にスペースがない。

親子4人が乗っている上に、旅行の荷物もある。

 

困ったのは、これを積み込む空間である。トランク・ルームには五冊までしか押し込むことはできない。とすると、残りは、子供二人が座っている後部座席ということになるのだが、やってみると、九冊のラルースが完全に一人分の座席を占有した上、残りの三冊がもう一人分の座席にもはみだしている。さて、弱った。二人の子供を乗せる空間がなくなってしまった。(中略)しかたがない、こうなったら、下の子供を女房に抱かせて助手席に乗せ、上の子供は、ラルースの上に座らせておくことにしよう。不自由だろうが、これ以外の解決策はない。

~161p

 

 家族にいたく同情してしまう。

同情しつつ、つい笑ってしまうのだが。

 

稀覯本を手に入れるための借金の話など、狂気としか思えないエピソードが満載である。

愛書家、恐るべし。

 

 

 

 04. 『吉野朔美は本が大好き / 吉野朔美』(本の雑誌社

吉野朔実は本が大好き (吉野朔実劇場 ALL IN ONE)

吉野朔実は本が大好き (吉野朔実劇場 ALL IN ONE)

 

 

2016年4月に急逝した吉野朔美が「本の雑誌」に連載していたコミック・エッセイを1冊にまとめたもの。

元々単行本で8冊出ていたものを1冊にまとめたものなので、なかなか分厚い。650頁ある。

 電車で読むのには不向き。ベストな読書環境は寝床でしょう。

 1編読むと、次が読みたくなって、それを読んだら次が読みたくなって…、けっきょく寝不足になるのは確実だけど。

 

本好きが集まってワイワイやってる感じも良い。

急逝が惜しまれる。

 

 

 

05. 『二度読んだ本を三度読む / 柳 広司』(岩波書店 / 新書)

二度読んだ本を三度読む (岩波新書)

二度読んだ本を三度読む (岩波新書)

  • 作者:広司, 柳
  • 発売日: 2019/04/20
  • メディア: 新書
 

 

赤い表紙のにくい奴、岩波新書の“読書本”にはアタリが多い。

とくに小説家の書いたものは、ほぼアタリと言ってよい。

これもアタリの1冊。

 

二度読んだ本は少ないが、三度読んだ本は意外に多い。

気を衒(てら)っているわけではない。

本を二度読むのは、それが自分にとって二度読むに値する本だと思ったからだ。世の中にはたくさんの本が溢れていて、たいていの本は一度読んで「ああ、面白かった」と言ってそれきりになる。もしくは「つまらない」と言って途中で読むのを止めてしまう。二度読むに値する本に出会う確率は極めて低い。だから、二度読んだ本は必ず三度読む。

~あとがき

 

“必ず三度読む”というのが何気に凄い。

二度はわかるが、必ず三度と言うのは、なかなかの強者である。

 

とりあげている本は、「月と六ペンス / S・モーム」「それから / 夏目漱石」「怪談 / 小泉八雲」「シャーロック・ホームズの冒険 / C・ドイル」「ガリヴァー旅行記 / J・スウィフト」「山月記 / 中島敦」「カラマーゾフの兄弟 / ドストエフスキー」「細雪 / 谷崎潤一郎」「紙屋町さくらホテル / 井上ひさし」「夜間飛行 / サン=テグジュペリ」「動物農場 / G・オーウェル」「ろまん燈籠 / 太宰治」「龍馬がゆく / 司馬遼太郎」「スローカーブを、もう一球 / 山際淳司」「ソクラテスの弁明 / プラトン」「兎の眼 / 灰谷健次郎」「キング・リア / W・シェイクスピア」「イギリス人の患者 / M・オンダーチェ」の全18冊。

 

文章はやわらかく、そこはかとない笑いも潜ませつつ(適度に毒もある)、すいすい読ませる。

なによりも、著者の文章からは、取り上げた作品に対する愛と同時に、本を読む人たちに対する愛を感じる。

 

 

 

06. 『ぜんぶ本の話 / 池澤夏樹池澤春菜』(毎日新聞出版

 

ぜんぶ本の話

ぜんぶ本の話

 

 

池澤夏樹池澤春菜は父娘である。

父親は、作家であり優れた書評家でもある。

娘もその筋(SF界隈)では、かなりの有名人。

なにしろ2020年から日本SF作家協会の第20代会長をつとめているのだ(初代の星新一から始まり、矢野徹小松左京筒井康隆…などビッグネームが並ぶ)。

 

そのふたりが、幼い頃からの本の想い出などを語り合った対談集である。

職業的読書人でもあるふたりなので、話題にのぼる本がハンパなく多い。

しかもひとりが1冊の本を話題に出すと、もうひとりもそれを読んでいるという状態が最初から最後まで続くのだ。

 

 父のことはずっと言ってなかったのだ。もちろん聞かれたら否定はしないけれど、自分からは言わないようにしていた。それでもやっぱり心ないことをずいぶん言われた。その度に憤ったり、諦めたり、ネガティブになったり、なかなか忙しかった。だからもし十年前だったら、この本のお話も断っていたかもしれない。

 それを今受けることができるようになったのは、わたしが図太くなったのか、自分の立ち位置に自信が持てたのか。いろいろ理由はあるけど、一番大きいのは、最高の本読み仲間が父だからだ。父と思い切り本の話をしてみたかったのだ。

~まえがき

 

 変な本を作ってしまった。

 作ったというより喋ったなのだが、その相手というのが、(なんとなく恥ずかしいことに)我が長女である。

 自分の子だから育てたには違いないのだが、どうも子供というものは勝手にむくむく育ったものであって、そこに手を貸したという実感が薄い。

(略)

 しかし、知的に育てた覚えはないのだ。

 なんだか身辺をうろうろしている子がいて、そのあたりにあった本を持って行っては読んでいる。その姿が視野の隅にちらほらする。そのうち大人になってしまった。いっぱしの口を聞くようになった。

 まあそういうことだ。

~あとがき

 

パパは、照れながらもちょっと嬉しそうだ(笑)。

 

本は8章に分かれている。

第8章の「読書家三代」では、池澤夏樹が珍しく父である福永武彦について語っていて、読み応えがある。

 

メモを片手に読むのがおすすめ。

 

 

 

▶以上、6冊。

どの本も、読んでいるとなんだか職人の手わざを眺めているような気分になる。

良い気分なのである。

できれば、ずっと読んでいたい。

そんな本ばかりなのだ。

青くて、可憐な花が咲いた

 

岡本喜八監督の『斬る』を観る。

 1968年制作。

 

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主演は、仲代達矢高橋悦史

他に、中村敦夫、土屋嘉男、星由里子、岸田森神山繁東野英治郎など豪華。

まさに、絵に描いたような“痛快娯楽時代劇”だ。

 

冒頭、空っ風の吹き荒ぶ上州の宿場町に、薄汚れた浪人者(高橋悦史)が現れる。

めちゃくちゃ腹を空かせていて、いまにもぶっ倒れそうだ。

そこへ、おなじくよれよれのやくざ者(仲代達矢)が登場。

道を走り回る痩せこけた鶏をめぐって(とって食べようと言うのだ)、喧嘩になる。

この冒頭のシーンで、すでにわたしは、ふたりのことが好きになっている “笑”。

 

で、このふたりが、藩政を正すために城代家老を討って山の砦に立て籠もった七人の侍を助けることになるのである。

ストーリーの骨格は、黒澤明の「椿三十郎」とおなじですね。

 

山本周五郎の「砦山の十七日」という短編が原作だが、原作には仲代達矢の役も、高橋悦史の役も出てこない。

城代家老を斬って小さな小屋に立て籠もった男たちの心理が細かく描かれる、痛快娯楽とは真逆の重苦しい作品である。

『斬る』で描かれる、敵(神山繁)との死闘などもない。

そこに仲代と高橋を放り込んだのは、凄いアイデアだなあ。

観始めたら面白くて、114分、あっという間に終わる。

 

ラストも良い。

なんだか続編ができそうな感じなんだけどなぁ…残念なことに、これで終わりなんだよねぇ。

 

 

 

Clannad の『In A Lifetime』(2020)を聴く。

 

In a Lifetime

In a Lifetime

 

クラナドは、アイルランドのバンド。

トラッドを基調としながらもポップで親しみやすいサウンド

 


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 リードボーカルのモイア姐さんは、エンヤの実姉である(クラナドには、かつてエンヤも在籍していた)。

が、そのことより、モイア姉さんの高校の時の同級生が、U2のボノだって事実に、わたしは軽く驚く。

どんなクラスだよ。

 

 

 

ローズマリーの花が咲いた。

 

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青くて可憐。

 

おとぎ話としてのニューヨーク、そして大きすぎる箱

 

Amazon Original の『モダン・ラブ』を観る。

1話30分、全8話のシリーズもの。

面白くて一気に観てしまった。

 

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 オープニングが素晴らしい。

 


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舞台はニューヨーク。

しかも、犯罪もコロナも差別問題もないかのような、美しいニューヨークだ。

なので、これはファンタジーなのである。

安心して楽しめるおとぎ話なのである。

最終話では、名曲「ニューヨーク・ニューヨーク」が流れ、それまでのエピソードの登場人物がすべて出てくる。

思わず「ヤッホー」って叫びたくなる(ヤッホー?)。

 

俳優陣は皆素晴らしいが(とくに第1話のクリスティン・ミリオティは、すっごく可愛い)、なんと言ってもアン・ハサウェイだな。

圧倒的に華がある。

だてにハリウッド・スターやってないねぇ。

 

 

 

 ▶ Balmorhea(バルモレイ)の『Stranger』(2012)を聴く。

テキサス州出身のバンド。

ロブ・ロウとマイケル・A・ミュラーのデュオとして始まり、やがて6人組のユニットになり、今年またデュオに戻っている。

ポスト・クラシカルのトップランナーである。

 

Stranger

Stranger

 


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Official Video が映画っぽくて良いなあ…。

 


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今年、クラシック・レーベルのドイツ・グラモフォンから新作を出した。

 

The Wind

The Wind

  • バルモレイ
  • クラシック・クロスオーバー
  • ¥1935

 

ジャケットの右上にある黄色いロゴに胸熱。

 

 

 

▶ ゴミ箱に被せるために、中くらいのレジ袋をアマゾンで購入した。

それが今日届いたのだが…。

 

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箱、デカすぎないか?

この写真ではわからないが、箱の厚みが3センチほどある。

 てっきりレター・パックくらいの大きさでポスト投函かなと思っていたので、この大きさの箱が届いて、何事かと思った。

スカッとする映画とモヤッとする映画、そして、もうダービーかよ!

 

▶『ランペイジ 巨大獣大乱闘』(2018)

 2018年制作のアメリカ映画。

 

ランペイジ 巨獣大乱闘(字幕版)

ランペイジ 巨獣大乱闘(字幕版)

  • 発売日: 2018/07/20
  • メディア: Prime Video
 

 

遺伝子操作により巨大化した野生動物たちが大暴れ。

狼(悪い奴)、ワニ(すごく悪い奴)、白いゴリラ(良い奴)が、戦車や戦闘機もガンガン破壊して暴れまくる。

人類代表としては、ドウェィン・ジョンソン(すごく良い奴)が頑張る。

拳銃で腹を撃たれても、「大丈夫だ、急所ははずれた!」と言って、巨大獣相手に孤軍奮闘だ!

ストーリーとか、登場人物の行動とか雑だけど、とにかく巨大獣たちが派手に暴れるので、まあスカッとはする。

 


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 ▶続いて、『思いやりのススメ』を観る。

2016年制作のアメリカ映画。

 

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Netflix オリジナル。

筋ジス患者の少年(クレイグ・ロバーツ)と新米介護士ポール・ラッド)のロードムービー

途中で、家出少女(セレーナ・ゴメス)がヒッチハイクで乗りこんで来る。

みんなで「世界一深い穴」という怪しげな観光名所へ向かうのだ。

うーん、これと言って感想が思い浮かばない。

登場人物はそれぞれ悩みや問題を抱えていて、最後にはそこから解放されて、新しい一歩を踏み出すわけだけど、なぜそうなったのかが、いまいち分からないんだよねぇ。

悪い映画ではないんだが…。

途中でレナード・コーエンの「I Am Your Man」と言う名曲が流れる。

映画のテーマにぴったりの歌詞なのに、なぜ訳さないのか?

それにしても、邦題がひどい “笑”。

繰り返すけど、悪い映画ではない。

なんか、もやもやするだけだ。

 


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▶ Carlos Aguirre の『Caminos』(2006)を聴く。

 

Caminos

Caminos

 

カルロス・アギーレはアルゼンチンのミュージシャン。

現代フォルクローレの世界では最重要の人物らしい(よくは知らない)。

このアルバムは、ソロピアノ集。

どこかECMの香りもあって好き。

 


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▶デイヴィッド・ゴードンの『用心棒』を読む。

 

 

ベストセラーになった『二流小説家』の著者によるシリーズ・キャラクターものの第1作。

主人公ジョー・ブロディは、ハーバード大学中退、元陸軍特殊部隊、愛読書はドストエフスキーという異色の用心棒。

いまはマフィアが経営するストリップクラブで働いている。

で、そんなかれが、あれこれあって大きなテロ犯罪に巻き込まれていく…。

 

なかなか面白い。

アクションシーンが派手にあるわけではないが、脇役がみな面白く、サイドストーリーの書き込みも十分で、読んでいて気持ち良い。

ジョーを追いかけるバツイチの女性FBI捜査官ドナとのからみも、ちょっとラブコメの匂いがして良い(わたしは、ラブコメ好きなのだ)。

 

この映画を思いだした。

 

アウト・オブ・サイト [Blu-ray]

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  • 発売日: 2012/06/20
  • メディア: Blu-ray
 

 

ジョージ・クルーニーが凄腕の強盗で、かれと絡むFBI捜査官がジェニファー・ロペス

ジョーとドナを、脳内でふたりに変換しならが読んだ。

 

 

 

▶競馬好きは、1年に2度驚く。

6月が近づくと「もうダービーかよ!」と驚き、年末になると「もう有馬記念かよ!」と驚く。

で、いまわたしは「もうダービーかよ!」と驚いている。

こうやって、日々は過ぎていく。