タイトル : 三時十分発ユマ行き
著者 : エルモア・レナード
収録短編集 : 『オンブレ』
訳者 : 村上春樹
出版社 : 新潮社 / 文庫
エルモア・レナードはアメリカのミステリー作家。1984年に『ラブラバ』でエドガー賞(最優秀長篇賞)を受賞した他、多くのヒット作がある。日本での人気は本国に比べるといまいちだったが、根強いファンがいる。
「三時十分発ユマ行き」は、これまでに2度映画化された西部劇の名作。
では、あらすじを。
(と言っても、あまりにシンプルなので、設定を説明しただけで終わってしまうのだが)
★★★
早朝の静かな霧の中、ビスビーの保安官補ポール・スキャレンは、囚人のジム・キッドを連れてコンテンションの町に入った。この町からジムを列車に乗せて、ユマまで護送しなければならないのだ。ユマには刑務所があり、ジムはそこに収監されるのである。
ユマ行きの列車は、3時10分に出る。
ふたりは、コマーシャル通りに面したリパブリック・ホテルの207号室に入る。
しかし、1時間もしないうちに、キッドの仲間たちが現れた。キッドを取り返しに来たのだ。
二時十五分にスキャレンは時計に目をやった。そして椅子を後ろに引いて立ち上がった。ショットガンを腕に抱えていた。一時間も経たないうちに二人はホテルを出て、コマーシャル通りからストックマン通りへと歩いて行くことだろう。そしてストックマン通りをまっすぐ鉄道駅へと向かう。全部で三ブロックだ。その三ブロックを無事に歩ききって、ジム・キッドを列車に乗せたかった……しかし不安だった。
一味が通りで待ち構えていたら、おれはうまく対処できるだろうか? (中略)そして彼は自らに問いかけ続けた。これは果たして命を懸けるだけの価値のあることなのだろうか?
3時5分前に、スキャレンはキッドを前に立たせて外に出る。
二人はカフェの前を通り過ぎ、左に曲がってストックマン通りに入った。前方には人気のない道路がまっすぐ続き、先に行くにつれて細くなって見えた。突き当りが鉄道駅だ。
仲間の姿は見えないが、確実に待ち伏せしている。
はたして、スキャレンはキッドを連れてユマ行きの列車に辿り着けるのか……?
★★★
◆収録短編集 『オンブレ』 について
西部劇作家として出発したエルモア・レナードの代表作2編、「オンブレ」と「三時十分発ユマ行き」を収める。
「オンブレ」は、幼少期をアパッチに育てられた伝説の男ジョン・ラッセルと、悪党たちとの闘いを描いた傑作。
訳と解説は、村上春樹。
◆こちらもおすすめ
◇『ラブラバ / エルモア・レナード』(早川書房 / ポケミス)
アメリカ探偵作家クラブ賞受賞。
80年代のレナード作品には1冊のはずれもないが、その中でもこれはベストの1冊。個性豊かな悪人たち、ラスト100頁あたりまで何が起こっているのかさっぱりわからないストーリー(それでも読ませてしまう)、微妙にわき道にそれる登場人物たちの会話、などなど、レナード作品の楽しさが詰まっている。
一匹狼の賞金稼ぎ、謎のサムライ、したたかな小娘がアリゾナの荒野を旅する。西部劇マニアの逢坂剛が、西部劇の面白さを現代に甦らせた作品。
シリーズ化されて3作目まで出ている。設定されている時代は1875(明治8)年で、3作目でその時代設定が重要な意味を帯びてくる。
◇『アパルーサの決闘 / ロバート・B・パーカー』(早川書房)
- 作者: ロバート・B.パーカー,Robert B. Parker,山本博
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2007/06/01
- メディア: 単行本
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炭鉱町、そこを牛耳っている男とその仲間たち、娼婦、性悪女、酒場での喧嘩、インディアン、追跡、町はずれでの決闘…。西部劇の要素を存分に詰め込んだ作品。
雇われガンマン、ヴァージル・コールとエヴェレット・ハッチが活躍する物語はシリーズ化され、3作まで書かれている。
◇『駅馬車 <西部小説ベスト8> / アーネスト・ヘイコックス』(早川書房 / 文庫)
日本ではあまり読まれない西部劇小説のアンソロジー。
収録作品は、「駅馬車 / A・ヘイコックス」「埃りまみれの伝説 / H・G・エバーツ」「あの世から来た男 / M・カンター」「硝煙の街 / F・グルーバー」「ビリイ・ザ・キッドの幽霊 / E・コール」「死人街道 / A・ヘイコックス」「無法者志願 / F・R・バクリー」「ユマへの駅馬車 / M・デヴリーズ」の8編。
ヘイコックスの「駅馬車」は、ジョン・ウェイン主演の名画「駅馬車」の原作。映画よりあっさりしている。
おすすめは、「ビリイ・ザ・キッドの幽霊」。わずか8ページの作品だが、深い余韻を残す。