単純な生活 / 気がつけば本を読んでいる

読書日記、ときどきブックガイド、的な。

ずっと聴いていたい

 

今朝も、朝5時半に家を出る。

明の明星が、ちょっと怖いくらいに明るい。

 

 

出勤の電車のなかで、森下典子の『こいしいたべもの』(文藝春秋 / 文庫)を読む。

こいしいたべもの (文春文庫)

こいしいたべもの (文春文庫)

 

 

タイトル通り、たべものに関するエッセイ集。

グルメなたべものはひとつも出てこない。父親が大好きだった焼きビーフンとか、鎌倉の鳩サブレとか、読書に夢中になりながら食べた柿の種とか、徹夜明けのペヤングとか。

イラストも著者なのだが、これがめちゃくちゃ巧い。エッセイの添え物の域を超えていて、イラストだけをパラパラ見ていても楽しい。

 

徹夜明けの「ペヤング」はうまかった。解放感と空腹には、ソース焼きそばの、あの味と香りでなければならなかった。麺のウェーブに絡んだ甘辛いソースの味が、青のりの風味が、空腹にガツンと応えてくれた。 ~「夜明けのペヤング

 

 心地よい歯触りと、程よい辛さに取り憑かれ、手が止まらない。やがて私は「柿の種」を抱えて縁側に腹ばいになり、缶に手を突っ込みながら読書するようになった。

(中略)

 物語が佳境にさしかかると、柿の種を一粒ずつ食べていられず、ザラザラと口に流し込んだ。一度に何十粒もの柿の種を噛む音が、頭の中で、

 ザクザクザクザク……

 と、盛大に鳴って、額にうっすら汗がにじんだ。 ~「読書のおとも」

 

たべものは容易に記憶と結びつく。

著者は、ペヤングで若い頃の徹夜仕事を思い出し、柿の種で幼い頃の読書習慣を思い出し、焼きビーフンで亡き父のことを思い出す。

それを読みながら、わたしたちもまた何かを思い出している。薄っすらではあっても、書かれているたべものについての自分の記憶を呼び覚ましているのだ。

森下典子のエッセイが優しく感じられるのは、幸福な瞬間を思い出させてくれてるからに違いない。

 

 

 

 

読書のおともは……

Jazz Pa Svenska

Jazz Pa Svenska

 

 ヤン・ヨハンソンは、37歳の若さで亡くなったスウェーデンのジャズ・ピアニスト。

あまりに良くて、たびたび読書の手がとまる。

 


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