単純な生活 / 気がつけば本を読んでいる

読書日記、ときどきブックガイド、的な。

短編小説パラダイス #13 / エドガー・アラン・ポーの『アッシャー家の崩壊』

 

タイトル : アッシャー家の崩壊

著者 : エドガー・アラン・ポー

収録短篇集 : 『黒猫・アッシャー家の崩壊 / ポー短編集Ⅰ ゴシック編』

訳者 : 巽 孝之

出版社 : 新潮社 / 文庫

黒猫・アッシャー家の崩壊―ポー短編集〈1〉ゴシック編 (新潮文庫)

黒猫・アッシャー家の崩壊―ポー短編集〈1〉ゴシック編 (新潮文庫)

 

 

ポーの代表作のひとつ。

数多く書かれたホラー小説の頂点に今なお位置する傑作。

 

では、あらすじを。

 

 

 

★★★

 

 

季節は秋。《わたし》は、旧友ロデリック・アッシャーの、手紙による懇願を受けて、沼のほとりに建つアッシャー家の屋敷を訪ねた。

ロデリックの手紙には、肉体上の病が深刻であること、精神障害に押しつぶされそうになっていること、そして彼の最大の親友であるとともに唯一の友であった《わたし》に会いたくてたまらないことなどが書かれていた。

しかし、屋敷を目にした《わたし》の心は重く沈み込んでしまう。

 

いったいこの気分は何だ、とわたしは立ち止まって考える。アッシャー家の屋敷のことを考えるほどにやりきれなくなるこの気分何なのだ?それは、いかなる手立てによろうとも解き明かせない謎。そればかりか、考え込むうちに押し寄せてくるまぼろしのごとき想念すらも、摑みきれないときている。

 

 言い知れぬ不安を感じながら屋敷に入った《わたし》は、ロデリックと再会する。

 久しぶりに会った旧友は、病のためかやつれ果てていた。言動もおかしい。

 

ロデリックは異常なまでの恐怖に組み敷かれた奴隷であった。「ぼくは死ぬんだ」と彼は呟く。「この悲劇の館で死んでいくんだ。それ以外の死に方はない。(中略)これほどに消耗しきった状態、悲嘆すべき状態に陥ったことで、遅かれ早かれ、このおぞましき『恐怖』という名の妖怪との戦いに敗れ、人生も理性も失ってしまうだろう」

 

ロデリックにはマデラインという双子の妹がいた。が、彼女もまた深刻な病におかされており、死期が近いのであった。ロデリックの病状悪化には、妹のことも関係していたのである。

 

ともあれ、《わたし》は友の憂鬱症を癒すことに努める。ロデリックの愛読書を朗読したり、ふたりで絵を描いたり、友の奏でるギターに耳をかたむけたり、多くの時間を病んだ旧友とともに過ごす。

しかし、双子の妹が亡くなると、ロデリックの病状は一気に悪化する。

 

悲嘆に明け暮れる日々を過ごしたのちに、わが友の精神錯乱にもはっきりとした変化が表れている。それまでのようすとはまるっきりちがう。かつての暮らし方をかえりみなくなったのか、それとも忘れ去ってしまったのか、彼は部屋から部屋へと急ぎ足で歩き回るのだが、しかしその足取りはふぞろいなばかりか、目的があるようにも思われない。その蒼白なる表情ときたら、そんなことが可能かどうかわからないが、ますますおぞましい色合いを帯びていたが、とはいえその瞳の輝きのほうはといえば、影も形もなかった。…

 

何かを恐れ、恐怖に震え続けるロデリック。なすすべもなく見守るだけの《わたし》。

そして、ついに、月が皓皓と輝く夜、アッシャー家に最後のときが訪れるのである…。

 

ラストシーンは、ゴシック小説史に残る名シーンである。

アッシャー家が崩壊する音は、いまなお数多くのホラー小説の中で聞くことができる。

まさに傑作中の傑作。

 

 

★★★

 

 

収録短編集 『黒猫・アッシャー家の崩壊 / ポー短編集Ⅰ ゴシック編』 について

黒猫・アッシャー家の崩壊―ポー短編集〈1〉ゴシック編 (新潮文庫)

黒猫・アッシャー家の崩壊―ポー短編集〈1〉ゴシック編 (新潮文庫)

 

 

「黒猫」「赤き死の仮面」「ライジーア」「落とし穴と振り子」「ウィリアム・ウィルソン」「アッシャー家の崩壊」の全6編を収録。いずれも必読の傑作。

 

 

こちらもおすすめ

『モルグ街の殺人・黄金虫 / ポー短編集Ⅱ ミステリ編』(新潮文庫

モルグ街の殺人・黄金虫―ポー短編集〈2〉ミステリ編 (新潮文庫)

モルグ街の殺人・黄金虫―ポー短編集〈2〉ミステリ編 (新潮文庫)

 

 

巽孝之新訳のシリーズ2冊目。

「モルグ街の殺人」「盗まれた手紙」「群衆の人」「お前が犯人だ」「ホップフロッグ」「黄金虫」の6編を収録。

なかでも「群衆の人」が凄い。

 

 

『大渦巻への落下・灯台 / ポー短編集 Ⅲ SF&ファンタジー編』(新潮文庫

大渦巻への落下・灯台: ポー短編集III SF&ファンタジー編 (新潮文庫)

大渦巻への落下・灯台: ポー短編集III SF&ファンタジー編 (新潮文庫)

 

 

 「大渦巻への落下」「使い切った男」「タール博士とフェザー教授の療法」「メルツェルのチェス・プレイヤー」「メロンタ・タウタ」「アルンハイムの地所」「灯台」の7編を収録。

 巽孝之新訳によるシリーズ3冊目。

 

 「灯台」はポーの遺作(未完)。

 

★★★

 

ポーの作品については、上記の3冊を読めば、名作のほとんどは読んだことになる。

さらに興味のわいた人には、創元推理文庫に入っている『ポオ小説全集(全4冊)』というのがあるが、文庫版は活字がちいさく、老眼の目にはいささかしんどいので注意。

 

ポオ小説全集 1 (創元推理文庫 522-1)

ポオ小説全集 1 (創元推理文庫 522-1)