単純な生活 / 気がつけば本を読んでいる

読書日記、ときどきブックガイド、的な。

短編小説パラダイス #16 / テッド・チャンの『商人と錬金術師の門』

 

タイトル : 商人と錬金術師の門

著者 : テッド・チャン

収録短編集 : 『ここがウィネトカなら、きみはジュディ / 時間SF傑作選』

訳者 : 大森望

出版社 : 早川書房 / 文庫

ここがウィネトカなら、きみはジュディ 時間SF傑作選 (SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー)

ここがウィネトカなら、きみはジュディ 時間SF傑作選 (SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー)

 

 

テッド・チャンは現代SF界最高の作家のひとり。

1967年ニューヨーク生まれの中国系アメリカ人。デビュー作の「バビロンの塔」でいきなりネビュラ賞ヒューゴー賞と並ぶSF界のビッグ・タイトル)を受賞。

きわめて寡作で、デビューしてから28年間で、発表した中短編がわずかに13編である。

さいきんでは、代表作のひとつ「あなたの人生の物語」(ヒューゴー賞/ネビュラ賞受賞)が映画化されて話題になった。

「商人と錬金術師の門」は、2007年発表の作品で、これもヒューゴー賞ネビュラ賞を受賞している。

 

では、あらすじを。

 

★★★

 

 

はるか昔、中東バグダッドでのこと。

裕福な織物商であるフワード・イブン・アッバスは、ある日ひとりの老人と出会う。市場の一等地に店をかまえる老人は、名をバシャラートと言い、店の中には、これまで目にしたこともないような驚くべき品々が所狭しと並べられていた。銀を象嵌した七枚の皿を擁する天体観測器、正時に鐘を鳴らす水時計、風が吹くと歌う真鍮製の小夜鳴き鳥、などなど…。すべて、老人の工房で作られたものだと言う。

しかし、本当に凄い発明品は店の奥に隠されていたのである…。

 

わたしが導かれたのは、胸の高さまである頑丈そうな台座の前でした。台座の上には金属製の太い輪が直立した状態で据えられていました。輪の内径は、さしわたしが両手をいっぱいに伸ばしたほどあり、へりの部分はたいそう太くて,屈強な男でも運ぶのに骨が折れそうでした。金属は夜の闇のように黒く、しかしつるつるに磨き上げられているため、もしべつの色であれば鏡になっただろうと思うほどでした。

 

黒い輪は、“歳月の門”と名付けられた一種のタイムマシンだった。

輪を、片方からくぐると20年後の未来に行くことができ、別の方向からくぐると20年後の過去に行くことができるのである。

しかし、“歳月の門”は、人を未来へも過去へも運ぶことができるが、人は未来も過去も変えることができないと言うことをアッバスは知る。

それでも、アッバスは門をくぐることを決心する。彼には、過去に戻って、どうしても確かめたいことがあったのだ。そして、出来ることなら、過去のある出来事を変えようと考えていたのである。

はたしてアッバスは過去の何を確かめ、何を変えようとしていたのか?

そして、彼の企ては成功するのか?

 

時間旅行の物語であると同時に、類まれなラブストーリーでもある傑作。

 

 

★★★

 

 

◆収録短編集 『ここがウィネトカなら、きみはジュディ』 について

ここがウィネトカなら、きみはジュディ 時間SF傑作選 (SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー)

ここがウィネトカなら、きみはジュディ 時間SF傑作選 (SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー)

 

 

大森望編集による時間SF傑作選。

テッド・チャンの「 商人と錬金術師の門」のほか、プリーストの名作「限りなき夏」、人生の長い時間をスキップしながら生きる男女の愛を描いたF・M・バズビイの傑作「ここがウィネトカなら、きみはジュディ」、月曜日から火曜日を飛び越えて、いきなり水曜日に来てしまった男の顛末を描くスタージョンの異色作「昨日は月曜日だった」など、時間SFの傑作を13編収録したアンソロジー

 

 

◆こちらもおすすめ

◇『あなたの人生の物語 / テッド・チャン』(早川SF文庫)

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

 

 

現在刊行されているテッド・チャン唯一の短篇集。

収録作品は、「バビロンの塔」「理解」「ゼロで割る」「あなたの人生の物語」「七十二文字」「人類科学の進化」「地獄とは神の不在なり」「顔の美醜について―ドキュメンタリー」の全8編。

映画化もされた「あなたの人生の物語」が、やはり群を抜いて面白い。

 

 

◇『SFマガジン700(海外編) / 山岸真・編』(早川書房 / 文庫)

 

日本のSFシーンをリードしてきたSFマガジンが創刊700号を迎えたことを記念して刊行されたアンソロジー

収録作品は、「遭難者 / A・C・クラーク」「危険の報酬 / ロバート・シェクリイ」「夜明けとともに霧は沈み / ジョージ・R・R・マーティン」「ホール・マン / ラリイ・ニーヴン」「江戸の花 / ブルース・スターリング」「いっしょに生きよう / ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア」「耳を澄まして / イアン・マクドナルド」「対称 / グレッグ・イーガン」「孤独 / アーシュラ・K・ル・グィン」「ポータルズ・ノンストップ / コニー・ウィルス」「小さき供物 / パオロ・バチガルビ」「息吹 / テッド・チャン」の全12編。

 

テッド・チャンの「息吹」は、基本はハードSFなのだが、それを優しい言葉で包み込んだ、いかにもテッド・チャンらしい作品。