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短編小説パラダイス #20 / フィッツ=ジェイムズ・オブライエンの『あれは何だったのか?』

 

タイトル : あれは何だったのか?

著者 : フィッツ=ジェイムズ・オブライエン

収録短編集 : 『不思議屋 / ダイヤモンドのレンズ』

訳者 : 南條竹則

出版社 : 光文社 / 古典新訳文庫

不思議屋/ダイヤモンドのレンズ (光文社古典新訳文庫)

不思議屋/ダイヤモンドのレンズ (光文社古典新訳文庫)

 

 

フィッツ=ジェイムズ・オブライエンは、1828年に生まれ、1862年に33歳の若さで亡くなったアメリカの作家。ポーが亡くなったときに21歳なので、まさに同時代の人である。

ポーの後継者と言われる人だが、ポーほど多くのジャンルを書いているわけではなく、主にファンタジーとSFが中心である。

 

「あれは何だったのか」は、オブライエンの代表作のひとつ。

超自然的な謎を、現代科学で解き明かそうとするスタンスがいかにもオブライエンである。

 

幽霊屋敷の噂や、降霊会、霊魂など、怪奇小説によく出てくる単語が、この作品にも出てくるが、古臭い怪奇小説が放つ黴臭さは、ここにはない。

TVシリーズ『Xファイル』や『フリンジ』、あるいは『ミステリーゾーン』を見ているときの楽しさと、同じ楽しさがある。

センス・オブ・ワンダー率100%の傑作。

 

では、あらすじを。

 

 

 

★★★

 

 

19世紀半ばのニューヨーク、幽霊が出ると噂の屋敷に住む作家のハリーは、ある夜、ベッドで寝ているときに、得体のしれない《何か》に襲われる。

 

 何かが天井からドサッと落ちて来て、次の瞬間、二つの骨張った手が私の喉をつかみ、絞め殺そうとするのを感じたのだ。

 

暗闇での激しい格闘の末、その《何か》を捕まえたハリーは、明かりをつけて愕然とする。

そこには誰もいなかったのだ。

ハリーの手は、確実に襲撃者をつかんでいるにもかかわらず、そこには何も見えないのである。

 

 あいつは呼吸をしていた。温かい息が私の頬にかかるの感じた。あいつは猛烈に暴れた。両手があった。その両手は私につかみかかった。あいつの肌は私の肌のように滑らかだった。あいつはそこにいて、私にぴったりと押しつけられ、石のように手ごたえがあり――しかし、目にはまったく見えなかった!

 

友人の助けを借りて、《何か》を縛りあげたハリーは、この目に見えない謎の生物を調べ始めるのだった…。

 

ここからがオブライエンの真骨頂である。

《何か》は明らかにオカルトなのだが、そのオカルトをハリーたちは科学によってねじ伏せようと悪戦苦闘するのである。

はたしてハリーたちの奮闘は成功するのか……?

 

 

★★★

 

 

◆ 収録短編集 『不思議屋 / ダイヤモンドのレンズ』 について

不思議屋/ダイヤモンドのレンズ (光文社古典新訳文庫)

不思議屋/ダイヤモンドのレンズ (光文社古典新訳文庫)

 

 

「ダイヤモンドのレンズ」「チューリップの鉢」「あれは何だったのか?」「なくした部屋」「墓を愛した少年」「不思議屋」「手品師ピョウ・ルーが持っているドラゴンの牙」「ハンフリー公の晩餐」の8編を収録。

収録作のうち、「墓を愛した少年」は、小粒だが哀切極まりない名品。

 

 

◆ こちらも、おすすめ

◇『金剛石のレンズ / フィッツ=ジェイムズ・オブライエン / 大瀧啓裕・編訳』(創元推理文庫

金剛石のレンズ (創元推理文庫)

金剛石のレンズ (創元推理文庫)

 

 

「金剛石のレンズ」「チューリップの鉢」「あれは何だったのか」「失われた部屋」「墓を愛した少年」「世界を見る」「鐘つきジューバル」「パールの母」「ボヘミアン」「絶対の秘密」「いかにして重力を克服したか」「手妻使いパイオウ・ルウの所有する龍の牙」「ワンダースミス」「手から口へ」の14編を収録。

 

訳者である大瀧啓裕による解説がひじょうに詳しく充実している。

 

 

◇『ポー短編集 Ⅲ / 巽孝之・編』(新潮文庫

大渦巻への落下・灯台: ポー短編集III SF&ファンタジー編 (新潮文庫)

大渦巻への落下・灯台: ポー短編集III SF&ファンタジー編 (新潮文庫)

 

 

新潮文庫の『ポー短編集』は、Ⅰがゴシック編、Ⅱがミステリ編、ⅢがSF&ファンタジー編。

すべて 巽孝之による新訳。

オブライエンが受け継いだのは、Ⅲだろう。