単純な生活

映画・音楽・読書について、だらだらと書いている

ジョイスが「完璧」と称賛したのも当然と思える傑作と下ネタ連発映画

 

ヘミングウェイの『清潔で明るい場所』を読む。

ヘミングウェイ短篇集 (ちくま文庫)

ヘミングウェイ短篇集 (ちくま文庫)

 

 

深夜、閉店まぎわのカフェ。

主な登場人物はわずか3人。

 

ブランデーを飲みながら、なかなか帰らない常連の老人。

老人が帰ったら店を閉めようと思っている若いウェイター。

まだ店は閉めたくないと思っている、少し年上のウェイター。

この3人だけ。

文庫本で10頁ほど。

描写のほとんどは、ウェイター2人の会話である。

 

「先週、あの人は自殺しようとしたらしい」

「なんでだ」

「絶望したんだ」

「何に?」

「何かにってわけじゃない」

「何かに絶望したんじゃないってどうして分かるんだ」

「あの人は金をもっている」

 

事件は何も起きず、したがってここに「お話し」はない。

深夜のカフェでの、1時間にも満たない描写だけである。

しかし、すぐれた写真が一瞬のスナップ・ショットで多くのことを語るように、ヘミングウェイは、驚くほど多くのことを、私たちに伝えてくる。

 

「もう一杯」老人は言った。

「だめだ、終わり」ウエイターは、テーブルの縁を布巾で拭きながら言った。

 老人は立ちあがってゆっくりと皿を数え、ポケットから革の硬貨入れを取りだして飲んだ分を払った。チップを半ペセタ置いた。

 ウエイターは老人が通りを去って行くのを黙って眺めていた。老人はとても歳をとっていたし、足許が覚束なかった。しかしどこか毅然としたところがあった。

 

カトリックの国である。

自殺はけして許されることではない。

自殺を試み、失敗し、それでもなお生き続ける老人の姿…。

 

読み終わったあと、、3人それぞれの人生と、そこに漂う虚無感がしっかりと心に残る。

ジェイムズ・ジョイスが「完璧」と称賛したのも当然と思える傑作。

 

 

 

ケヴィン・スミス監督の『クラークス』を観る。

クラークス [DVD]

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  • 発売日: 2001/02/26
  • メディア: DVD
 

 

定点観測映画とでも言うのか、カメラは主人公がバイトするコンビニの中からほとんど動かない。

たまにシーンが変わったと思ったら、隣のレンタル・ビデオ屋である。

で、21歳のダンテ・ヒックスと悪友ランダルの、だらだらとした日常が映し出されるのだ。

いやあ、くだらなくて面白い。

ネタのほとんどが下ネタなんだが。

ケヴィン・スミスの監督デビュー作。

コミック本を売ったお金で作ったらしい(なのでモノクロ)。

シリーズ化されてるようなので、次も観てみよう。

 

 

 

▶ちかくの和菓子屋でマスクを売っている(笑)。

1箱(50枚入り)が3千円。

店頭には「マスクあります!」の幟(のぼり)がはためいている。

繰り返すが、和菓子屋である。

こんなシュールな時代を生きることになろうとは…。