単純な生活

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変態ちっくな傑作、草野唯雄の『甦った脳髄』を読む

 

草野唯雄(ソウノ・タダオ 1915 – 2008)の『甦った脳髄』を読む。

 

甦った脳髄 (角川文庫 (5642))
 

 

1976年の作品。

よくもまあ、こんな凄い話しを思いついたものだと感心するような傑作である。

ストーリーの核になる部分は、名作『アルジャーノンに花束を』にそっくりなのだが、読後感というか、作品が目指す先が真逆なのだ。

 

T大学理学部宇宙物理学教室の瀬下主任教授が急逝し、教授の遺言により、その遺体は解剖生理学教室に寄贈されることになった。

その知らせを聞いたとき、阿賀助教授の心ににある考えが芽生える。

 

T大学、解剖生理学教室の阿賀助教授のひとり息子一郎は、知的障害者だった。

幼いころにかかった脳脊髄膜炎の後遺症で、知能指数は4、5歳児の幼児程度で止まったままなのである。

その息子の知能を、せめて人並みに上げてやりたい。

阿賀助教授はそう考えた。

利用するのは、不破博士の研究である。

不破博士は、人を含めて動物の記憶と言うものは、化学物質として脳から抽出することができ、さらにそれを注射などによって他者へ移植することができると考え、すでに動物実験を開始していたのである。

阿賀助教授は、まだ動物実験の段階のその技術を使って、亡くなった瀬下教授の記憶を、息子の一郎に移植しようと考えたのだ。

 

「しかし、きみ……」思ったとおり、博士は逡巡した。

「わたしの実験は、まだやっとネズミを卒業した段階だ。それを一足とびに人間で実験するというのは、あまりに無謀すぎはせんかね」

(中略)

「ぼくが、先生の理論と実験の成果に百パーセントの信頼をおいているからこそ、こうしてお願いしているんです。+5と-4を合わせると+1が残るでしょう。息子をその+1、つまり普通程度の知能をもった人間に変えて下さい、とお願いしているだけなんです」

 

阿賀助教授の必死の嘆願に、瀬下博士も根負けし、他言無用を条件に阿賀一郎への実験を承諾する。

そして、実験は成功する…。

一郎の知能は徐々に上がり始めるが、それとともに、性格も変わり始める。

やがて、地獄のような一夜が訪れる…。

 

『アルジャーノン…』の美しい世界がだいなし(笑)。

 

 

 

 ▶ドリー・ヘミングウェイ主演の『チワワは見ていた』を観る。

 

 

監督は、ショーン・ベイカー(才能あるわー)。

主演は、文豪ヘミングウェイの曾孫、ドリー・ヘミングウェイ(脚が長い~)。

 

ひょんな偶然から始まった21歳のポルノ女優と85歳の未亡人の友情を描く。

と書けば、こころ温まる映画のようだが、そういう安易な想像を、この映画は拒む。

まず、85歳の未亡人がなかなか心を開かない。

ポルノ女優の方も未亡人には言えない秘密を抱えている。

なので、ふたりの関係は常に緊張をはらんでいて、ぎくしゃくしている。

その様子をカメラが静かに追う。

ラスト、ある事件があって初めて未亡人が心を開く。

美しい友情の始まりを予感させて映画は終わるのだが、このラストがちょっとわかりづらいかも知れない。

ワタシは、良いラストだと思った。

 

それにしても、邦題(笑)。

 

 

 

▶暑いのでクーラーをいれた。

今年、初クーラー。

夏の暑い盛りにマスクはきついだろうなあ。

いまから憂鬱。