▶ヘミングウェイの『殺し屋』を読む。
最初に読んだのは、中学のときで、江戸川乱歩編の『世界短編傑作集』に収録されていた。
この傑作を、中坊のワタシは生意気にも「たいして面白くないな」と思ったのである。
ラストがよくわからなかったのである。
ヘンリーの店のドアが開き、ふたりの男が入ってきた。ふたりはカウンターにすわった。
「何にします?」 ジョージが尋ねた。
「さあな」 ひとりが言った。「おまえは何が食いたいんだ、アル?」
「さあな」 アルと呼ばれた男が答えた。「何が食いたいかわからねえ」
入ってきたふたりは、殺し屋である。アルとマックス。
店には従業員が3人。ニック・アダムス、ジョージ、コックのサム。
ふたりは、始終むだ口をたたきあいながら、コックのサムとウェイターのニック・アダムスを縛り上げて調理場に隠す。
残されたジョージには、客が来たら何か理由をつけて追い返せと命じる。
「おれたちはあるスウェーデン人を殺すんだ。オール・アンダーソンっていうスウェーデン人を知ってるな?」
「ああ」
「そいつは毎晩ここに食事をしにやってくる。そうじゃないか?」
「時々くる」
「おれたちは何もかも知ってるんだ、兄さん」マックスが言った。
かれらは、アンダーソンが来るのを、じっと待つ。
「あんたたちは何のためにオール・アンダーソンを殺すんだ? あの人があんたらに何かしたのか?」
「いや、やつがおれたちに何かするような機会なんてなかったよ。おれたちを見たことさえないだろう」
「たった一回だけ見ることになるな」 アルが調理場から言った。
「じゃ、何のためにあんたたちはオール・アンダーソンを殺すんだ」ジョージが尋ねた。
「おれたちは友達のために殺すんだよ。ただ頼みをきいてやるだけだ、兄さん」
しかし、アンダーソンは現れない。
殺し屋ふたりは、店を出て行く。
ニック・アダムスは、殺し屋のことを知らせるために、アンダーソンのもとへ走るのだが…。
と、ここまでは中坊のワタシにも理解できた。
わからなかったのは、ニックから知らせを受けたアンダーソンがとった行動なのである。
ネタバレになるので書かないが、ええっ? アンダーソンさん、なんで? と思ったのである。
年齢を重ねたいまならわかる。
痛いほどわかる。
ヘミングウェイが、この怖いくらいの傑作を書いたのは、28歳のときである。
一晩で書き上げたらしい。
この老成した感じはただ者ではないな(まあ、天才作家だからね)。
▶ キム・リッチーの『Long Way Back』を聴く。
ワタシの、好きな女性アーティスト・ベスト3に入る。
新作。
ミドルテンポの曲が並ぶ。
やはり声が良いなあ。