▶『500ページの夢の束』を観る。
2017年制作のアメリカ映画。
主人公は、ウェンディ、21歳、自閉症。
母親が亡くなったあと、姉と離れて施設で暮らしている。
毎日、決められた行動をとる。
決まった行動以外は、彼女にとっては極度のストレスとなる。
昼間は、シナボン(シナモンロール専門店、日本にもあるね)で働き、夜は脚本を書いている。
「スタートレック」の新作だ。
書き上げたら、「スタートレック・新作脚本コンクール」に応募する予定。
受賞して、賞金が入ったら、そのお金で家を買って姉と暮らすのだ。
それが、彼女の秘かな夢であり、計画である。
さて、脚本(500ページの大作)を書き上げてはみたものの、郵送していたのでは締め切りに間に合わないことがわかる。
ウェンディは直接手渡しに行くことに決める。
施設とシナボンの往復以外ほとんどしたことがない彼女が、遠くLAまで行くことを決心する。
勝手にトコトコついてきたチワワ犬のピートをバッグに入れて、ウェンディの旅が始まる…。
ハリウッドは、数百キロ先である。
バスに乗ることすら、彼女にとっては大変なことだ。
まったく乗ったことがないLA行のバス。
チケットを買うことすら、運転手に教えてもらわないとわからないのだ。
しかし、ウェンディは歩みを止めようとはしない。
様々な困難に遭遇しながら、一歩ずつ夢に近づいて行く。
ウェンディは、スタートレックのガチのファン、いわゆるトレッキアンである。
スタートレックに関する知識がハンパないのだ。
ざっくりと説明しておくと、スタートレックは1966年にアメリカでTV放映が開始されたSFドラマ。
惑星連邦宇宙艦隊に所属する宇宙船エンタープライズ号の冒険を描く。
いまなお新作が作られ続けている人気シリーズである。
スタートレックには、ミスター・スポックという特異なキャラクターが登場する。
バルカン星人と地球人のハーフである。
バルカン星人は、感情を持たない。
“感情”こそが災いのもとであるとして、これを抑え込みコントロールすることに成功した種族なのである。
常に論理性を重んじるため、感情でものごとを判断しがちな人間とは、ときに軋轢を生じる。
ユーモアも解さないし、怒りも恐怖も感じない。
ただし、スポックは地球人とのハーフであるため、自己の中の“感情”に悩むことにもなる。
ウェンディの書き上げた脚本の主人公は、このスポックである。
彼女の脚本では、ラスト、スポックは“感情”を理解することになっている。
ユーモアもわかるようになる。
これは、ウェンディの願いでもあるのだろう。
施設の長であるスコッティと息子のサムが、失踪したウェンディのあとを追う。
その車中でのふたりの会話。
スコッティ「コンテストの脚本を届けにLAに向かったらしい」
サム「それで脚本の出来は?」
スコッティ「分からなくて」
サム「何がだよ」
スコッティ「OK。そもそもスターウォーズの“カーク”って何者?」
サム「(呆れ果てた表情で)車をぶつけて、一緒に死のう」
スコッティ「サム!」
サム「まず、(スターウォーズじゃなく)“スター・トレック” ね。ジェームズ・T・カークはエンタープライズ号の船長」
スコッティ「彼らが乗っている宇宙船ね」
サム「そのとおり、よくできましたママ」
スコッティ「……何にそこまで惹かれるの?」
サム「登場人物かな」
スコッティ「つまり…」
サム「たとえば、スポックは人間と異星人のハーフで “感情” に手を焼いている」
驚いた表情のスコッティ。
ここでウェンディとスポックが結びつく。
スポックの悩みは、ウェンディの悩みでもあるのだ。
はたして、彼女は、自らの夢を託した脚本を、無事届けることができるのか?
主演のダコタ・ファニングが魅力的。
チワワ犬のピートも可愛い。
悪人も少し出てくるが、ほぼ善い人ばかり。
ラストも、とうぜんバッドエンディングではなく、気持良く終わる。
好きだわ、こういう映画。
では、長寿と繁栄を。
▶ Rickie Lee Jones の『Rickie Lee Jones』(1979)を聴く。
日本版のCDだと、ジャケット写真が反転していて、リッキーは右を向いている。
謎だ。
それにしても、かっこいい。
トム・ウェイツが惚れるのもわかります。
さいきんのリッキー姐さん。
▶緊急事態宣言は出されたけど、街は普通に賑わっている。
電車も、べつに空いてないし。
みんな、なるようになれって感じなのかな。