単純な生活

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『大地のうた』(1955)を観る

 

▶『大地のうた』(1955)を観る。

インド映画の父、サタジット・レイ監督の長編デビュー作。

監督34歳のときの作品である。

モノクロ。125分。

ベンガル地方のとある村に暮らす貧しい一家の物語。

優しく知的だが少々生活力に欠ける父親、貧しさに終始苛立っている美しい母親、病弱な娘ドゥルガ、その弟オプー。

映画は貧しさに喘ぎながら生きる一家の日常を淡々と映していく。

 

インド映画の多くは貧困を描いてきた。

大ヒットしたコメディ映画「きっとうまくいく」も、Netflixオリジナルの「ホワイトタイガー」も、最近作の「無職の大卒」も、みな根底には貧困というテーマがあった。

その始まりはこの映画あたりにあるのかも知れない。

「大地のうた」では、一家の貧困ぶりが徹底的に描かれる。

が、同時に描かれる自然の描写があまりに美しく(ラヴィ・シャンカールの音楽も良い!)、貧しさよりも、そういう自然の中で暮らすことの豊かさの方を強く感じてしまう。

とくに、ドゥルガとオプーが無邪気に遊ぶシーンは、すべてのショットがため息が出るほど素晴らしい。

 


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ドゥルガとオプーが、ススキの海の間から機関車を見る有名なシーン。

映画を観ることの愉悦が詰まっている。

 

映画の終盤、貧困故の悲劇が一家を襲い、父親の慟哭が観ている者の胸に突き刺さる。

一家は、先祖伝来の土地を捨て、わずかばかりの家財道具とともに街(バラナシ)を目指して旅に出る…。

 

★★★

 

少年オプーの成長を追った“オプー3部作”の第1作目。

この後、「大河のうた」「大樹のうた」と続く。

 

ストーリーじたいに激しい起伏があるわけではないので、退屈と言えば退屈である。

若い頃映画館で観て、なんどかウトウトした記憶がある。

今回は、全編125分いちども眠くなることなく、かなり面白く観ることができた。

年齢を重ねると、退屈なくらいがちょうど良くなったりするのだ。

ジェットコースター・ムービーは、ちと疲れる(途中で飽きるし)。