▶5時頃起き、しばらく机の前でぼんやり過ごす。
年をとると、ぼんやり過ごすことが多くなる。
べつに何かを考えているわけではなく、ただ無為の時間をぼんやりと過ごす。
あるいは時の流れを茫然と見つめている。
老いとともに始まるこういう時間の過ごし方について、井伏鱒二が、どこかで何か書いてたと思うのだが、どこで何を書いていたかは思いだせない。
井伏鱒二だったかどうかも、じつは怪しい。
▶今朝の朝食は、コロッケそば。
この珍妙なメニューに出会ったのは、東京に出てきて間もない頃だったと記憶する(関西にはほぼない)。
たしか秋葉原の立食いそば屋で食べたのだ。
てっきりコロッケは別皿で、それをつまみながらそばを食べるのだと思ったら、濃い出汁の上にコロッケがどんと乗っかってるではないか。
なんじゃこれ、と凄くびっくりしたな。
おそるおそる食べてみると、けっこういける。
後半、コロッケにツユが沁みてグズグズになったところを、麺と一緒に食べると、じつに美味い。
それ以来、立食いそば屋に入ると、2回に1回はコロッケそばを頼むようになった。
(もう1回は、ちくわ天そばか、かき揚げ天そば)
コロッケそばって、立食いそば屋にしか置いてないなぁ。
ふつうのそば屋でコロッケそばのメニューを見たことがない。
なぜだろう?
コロッケそばをバカにしてんのか“笑”?
いま書きながら気づいたのだが、わたしはどんな高級なそば屋よりも、じつは立食いそば屋の方が好きみたいだ。
神田藪蕎麦のクソ高い天ぷらそばより、小諸そばとかで食べるかき揚げ天そばの方が、食べたあとの満足度が高い。
なぜだろう?
根が貧乏人ってことですかね。
コロッケそばが関東にあって関西にないのは、ツユの濃さと関係しているのだろう。
関東の濃いツユあってこそのコロッケそばのような気がする。
試しに、関西風の薄味うどんにコロッケを乗せて食べてみたことがあるが、イマイチだった。
薄味のツユの中でコロッケがぐずぐずに崩れても、あまり美味しくないのだ。
ツユがコロッケの油っぽさに負けてしまうと言うか…。
なので、当分の間は(おそらくは未来永劫)コロッケ蕎麦が関西のおそば屋さんのメニューに載ることはないと思う。
なんだか、まとまりのない文章だな。
コロッケそばだけに、ぐずぐずに崩れたと言うことで(うまくない)。
▶サタジット・レイ監督の『大樹のうた』(1958)を観る。
オプー3部作の完結編。
大学を卒業して都会で独り暮らしのオプー。
良い職にはつけず、かなりの貧乏暮し。
そこへ学生時代の友人が訪ねてきて、俺の田舎に遊びに来いと言う。
友人の誘いにのって旅に出るオプー。
辿り着いた友人の実家では、妹の結婚式が行われようとしていた。
が、やって来た新郎は明らかに気のふれた男で、それを見た母親は怒り出し「こんな男のところに娘を嫁がせるわけにはいかない!」と、娘の結婚式をとりやめる騒ぎに。
予定していた結婚式をとりやめると、その家族には呪いがかかるという言い伝えがあるらしく、集まっていた一族は頭を抱える。
そこで偶然居合わせたオプーに注目が集まり、友人から「花婿になってくれないか?」と突然のオファー(インド、めちゃくちゃやな“笑”)。
悩んだ末に花婿になるオプー(引き受けるんかい!)。
美人で可愛い妻を連れて都会に戻って来たオプー。
ままごとのような新婚生活。
自分の生活力の無さに嫌気がさしているオプーだったが、しっかりとやることはやっているので、新妻は妊娠する。
男の子が誕生するが、その出産により愛した妻が死んでしまう…。
悲嘆にくれ、何も手に着かない日々をおくることになるオプー。
オプーよ、売れない小説を書いたり、下手くそな笛を吹いたりしている暇があったら、マジで厄払いに行った方が良いぞ。
しかし、オプーは、生まれて来た我が子を愛することができない。
この子のせいで妻が死んだのかと思うと、どうしても愛することができないのだ。
5年もの間、いちども我が子の顔を見ることなく、オプーは哀しみを抱えたまま孤独に過ごす。
祖父の元で寂しく暮らす我が子を突然訪ねるオプー(けっこう勝手な奴)。
「おまえの父だ」と名乗るのだが、子供はなついてくれない(石を投げられる始末)。
まあ、自業自得である。
おもちゃを買ってあげたり、お話をしたりと、いろいろ試すが子供は心を開いてくれない。
諦めて子供の元を去ろうとするオプーだったが、振り向くと我が子がついてきている。
このあたり、ちょっと「ペーパームーン」な感じで良い。
「カルカッタに行けば父さんに会える?」
「会えるとも」
「おじさんは誰?」(まだ父とは認めていない)
「…君の友達だ…」
我が子を抱き上げ、歩き出すオプー。
巨匠サトジット・レイ監督は、シリーズ1作目「大地のうた」の崇高さはどこへやら、ここではこれでもかとメロドラマを描いてみせる。
2作目の「大河のうた」がヒットしなかったので、「わかりました!売れ線で行けば良いんでしょ!」と逆ギレした可能性もあるな“笑”。
メロドラマに寄せた分わかりやすく、それなりに面白くなっている。
3部作のシメとしては良いのではないか。
映画史に残る傑作の「大地のうた」と比べるのは酷かな。