▶5時に目覚める。
寒い。
おまけに雨だ。
腰が痛い。
変なふうに腰を捻らないように、そろりそろりと起き上がり、なんとか台所へ。
珈琲を淹れ、テーブルに座り、いつものようにしばらくぼんやりと過ごす。
腰を傷めてからは、軽い気持ちで映画館には行けなくなった。
あの座り心地の悪い椅子に2時間ちかく座り続けるのは、わたしにとって苦行以外のなにものでもない。
観終わったあと1週間は確実に寝込むことになる。
そこまでして観たい映画など、いまのわたしには存在しない。
なによりも腰の安寧がいちばんなのだ。
映画館の椅子で思いだしたのだが、むかし新宿コマ劇場の隣(歌舞伎町1丁目)に「シネマスクエアとうきゅう」という素敵な映画館があって(1981年オープン、2014年末で閉館)、そこの椅子が、とにかく素晴らしかった。
幅も十分に広く、座り心地も柔らかい。
背もたれが軽く後ろに倒されていて、うかうかしてるとそのまま寝てしまうほど気持ちが良かった。
上映される映画のほとんどが文芸の香り高い作品ばかりだったので、じっさい寝息をたてている人もけっこういた。
ヘルツォークの『フィッツカラルド』を観たとき、わたしの目の前にすわったひとが上映開始5分後に寝息をたて始めたのには驚いた(帰りにしっかりパンフを買っていて、なんかおかしかった)。
▶顔を真っ赤にしながら思い切って書くが、「シネマスクエアとうきゅう」は、わたしにとって青春の場所だった。
シネスクで観た映画の多くによって、わたしの映画的嗜好が形作られて現在に到るわけである。
ネットでシネスクについて調べていたら、上映作品リストをアップしているひとがいた(ありがたい)。
珈琲を飲みながら、ゆっくりと見ていく。
わたしは3本目の『デュエリスト』(リドリー・スコット監督のデビュー作)から通いはじめて、トラン・アン・ユン監督の『青いパパイヤの香り』まではぜんぶ観てるなぁ。
そのあとは観てない作品が徐々に増えていく。
68番目に『Aサインデイズ』とあるが…わたしの記憶のなかでは違う映画館で観たことになっている…たぶんわたしの記憶違いだな(良い作品だった)。
ひと作品ごとに思い出があり、作品名を見るだけでどう言う映画だったが思い出せる。
さいきん観た映画などすぐに忘れてしまうのだが…。
リストを見ながら遠い記憶に浸っていると、妻が起きてきて「なにニヤニヤしてるの?」と言う。
ふむ。思わずニヤニヤしてしまっていたか。
なんだか恥ずかしくなり、「いや別に」とごまかして、いつものように蕎麦をすすった。
妻とシネスクに行ったことはない。
▶Caravan Palaceの『<|°_°|>』を聴く。
フランスのエレクトロスウィング・バンド。
MVも楽しい。
猫さんたち、可愛くて強い。
かれらのチャンネルでたくさん観ることができる。
▶バスター・キートンの傑作『大列車追跡 (The General)』(1926)を観る。
久しぶりに観たけど、やっぱ凄いな。
バースター・キートンの動きは、すべてがコミカルで、しかもすべてがノースタント。
天才ですね。
後半は、逃げる列車vs追跡する列車のトレイン・チェイス。
クライマックスで、追跡する列車が、高架橋から川に向かって派手に落下するショットがあるのだが、当時はCGなどないのでリアルに機関車を川に落としている。
いま観ても凄いショットだ。
もちろん一発撮り。
落ちた列車は引き上げられることはなく、第二次世界大戦で鉄として再利用されるまで川に落ちたままだったらしい。
蓮見重彦がどこかで、「バスター・キートンの動きを継承した人はいない」と書いていたが、ジャッキー・チェンが継承者ではないかとわたしは思っている。