単純な生活

映画・音楽・読書について、だらだらと書いている

ありふれた日常 #22 / 今朝は珈琲がことさら苦いのである

▶午前4時過ぎに目覚め、寝床のなかでスマホを見る。

ニュースでLINEブログのサービス終了を知る。

LINEがブログ・サービスをやっていたなんて知らなかったが、これがSNSの宿命だろうか?

どんなサービスだろうと、それが私企業のサービスである限り永遠ではない。

そのサービスが終わりをむかえたとき、そこに存在していた多くの“想い”が消えうせる。

 

このHatenaにおいても、かつてHatenaDiaryというサービスがあったのだが、3年ほど前に終了している。

わたしがHatenaDiaryで読んでいた日記のいくつかも、サービス終了とともに消えてしまった。

日記を公開していたひとの手元には、その原稿は残っているのだろうが、読んでいたわたしの手元にはなにひとつ残っていない。

残っているのは、面白かったという微かな記憶だけだ。

 

儚いなぁ、と思う。

実人生で経験する別れとは比較しがたいが、デジタルでの別れもやはり別れであることには変わりなく、そこにはそれなりの悲しみがある。

こころの底の方に湖があって、その湖底に0と1が積み重なっていくところを想像している。

 

 

▶妻が起きて来たので、一緒に朝食。

LINEブログ終了のニュースを言ってみるが、妻はたいして興味はなさそうで、ふーんと頷いているだけだ。

まあ、一般的な反応なんてこんなものだろう。

TwitterYouTubeが終わるなんてことになったら世界的に大騒ぎだろうけど、ちいさなブログサイトがひとつ終了したところで、そこに存在していた“想い”について考えるひとなど、ほとんどいないのかも知れない。

 

しかし、今朝は珈琲がことさら苦いのである。

 

 

▶気をとりなおして読書。

『マーダーボット・ダイアリー / マーサ・ウェルズ』の上巻を読み終わる。

 

主人公は、自らの統制モジュールをハッキングして自由意志を手に入れた警備ユニット(人工物と有機物のハイブリット)。

かつて大量殺戮事件を起こしているが、その記憶は警備ユニットを所有する保険会社によって削除されている。

ストーリーは、この警備ユニットのひとり語りで進む。

1人称は、ワタシでもボクでもオレでもなく、「弊機」である。

「弊機」は、人間が大嫌いで、ネット配信連続ドラマの視聴がなによりも好きで、人間との付き合いでストレスが高じると、配信ドラマの世界に逃げ込む癖がある。

 

長編ではなく、「システムの危殆」「人工的なあり方」「暴走プロトコル」「出口戦略の無謀」の4編からなる中編集。

「弊機」は様々な顧客に警備ユニットとして雇われながら、襲い来る敵と戦い、入り組んだ謎を解き、大嫌いな人間を守り続ける。

そして、そういうことを繰り返すうちに、やがて「弊機」のなかに人間に対する複雑な感情が芽生えてくるのである…。

 

ヒューゴー賞ネビュラ賞ローカス賞SF小説での主要文学賞3冠を獲得し、さらに2年連続でヒューゴー賞ネビュラ賞を受賞している。

おのずと読む前の期待値のハードルはかなり上がってたわけだけど、その期待値を軽く超えてきましたね。

かなり面白い。

読みながら、「いやあ、やっぱSFは面白いなあ…」と何度こころの中で呟いたことか。

下巻が楽しみ。

 

 

▶映画を1本。

2021年制作の韓国映画『モガディッシュ 脱出までの14日間』。


www.youtube.com

 

ソマリアのクーデターに巻き込まれた韓国と北朝鮮の大使館員とその家族たち。

その決死の脱出行を描く。

前半ののんびりムードから一転、後半はひりつくシーンが続く。

ラスト30分は、降り注ぐ銃弾の中を、マッドマックスばりのカーチェイスである。

 

なかなか打ち解けない北と南のひとたちが、薄暗いなかで一緒に食事をするシーンが良い。

ひとつの皿から同じものを食べるという行為が、頑なな両国のひとたちのこころを溶かしていくのだ。

朝鮮民族の食習慣に根差した、すばらしい演出だと思った。

食器に箸が当たるときのカチャカチャという音がなんとも気持ち良い。

食べると言う行為に政治思想など関係ないのだ。

 

命からがら特別機の待つ空港に辿り着いたあと、ともに力を合わせて生き延びたひとびとが、ふたたび北と南に分かれて去って行く。

その民族分断の哀しみが、両大使の顔を曇らせる。

良い映画だった。

 

 

キャノンボール・アダレイの『Quintet in Cicago』を聴きながら、眠気が訪れるのを待つ。

 

マイルス・グループから御大が抜けたメンバー構成。

キャノンボール・アダレイ(as)、ジョン・コルトレーン(ts)、ウィントン・ケリー(p)、ポール・チェンバース(b)、ジミー・コブ(ds)。

すごいメンツだ。

みんなマイルスがいないせいか、思いっきりリラックスしていて、楽しそうである。

聴いているこちらも楽しくなるのだが、そのせいで眠りはなかなか訪れてくれない。