単純な生活 / 気がつけば本を読んでいる

読書日記、ときどきブックガイド、的な。

わたしはタカハシさんではない

 

 

道をとぼとぼ歩いていると、見知らぬ人から、いきなり声をかけられた。

「タカハシさん! いやあ、お久しぶりですね」

わたしは、タカハシさんではないので、丁寧に人違いですよと言うと、

「またまた~(笑)。あれからどうなったんですか? いま大丈夫なんですか?」

まったく聞く耳をもたない感じ。

いや、だから、わたしはタカハシさんではないのです! と、わりと強めに言うと、

「あっ。なるほど!  そうですよね。タカハシと名乗るわけにはいかないですよね。これは迂闊でした。でも、またお会いできて良かったですよお」

と、謎の言葉。

わたしが困って沈黙していると、

「いやあ、でも元気な姿が見れて良かったですよ。みんな心配してたんですよ。死んだんじゃないかって言う奴までいてねえ(笑)。それじゃあ、落ち着いたらまた事務所にも顔出してくださいね。」

ニコニコ笑顔で去って行った。

 

何があったんだよ、タカハシさん?

わたしまで心配になってきたよ。

 

 

 

 

妻の作った稲荷ずし(薄味)をパクつきながら、ジョン・チーヴァーの『巨大なラジオ / 泳ぐ人』を読み終わる。

巨大なラジオ / 泳ぐ人

巨大なラジオ / 泳ぐ人

 

 

本国で出版された集大成的な短編集(61編収録)から、訳者の村上春樹が20編を選んでいる。

ぜんぶ面白かった。アルバムで言えば、捨て曲なしってやつ。ベスト盤からさらにベストを選んでいる感じなので、面白い作品ばかりなのは当然ではあるのだが。

1編ずつに訳者の短い解説が付き、巻末には村上春樹柴田元幸の対談もありと、なかなか豪華な1冊である。

 

 

 登場人物のほとんどがけっこうな金持ち。閑静かつ人工的な住宅地で中の上クラスの生活をしている。

が、それぞれに闇を抱えて生きているのである。

100パーセント幸せな人などひとりも登場しない。

読んでいて、ひりひりするほどホラーだったりもする。

 

残りの作品も、すべて訳してくれないだろうか。

いくら村上春樹ブランドでも、翻訳物は人気がないから無理かなあ。

 

 

 

 

ポール・マッカートニーの『Egypt Station』を聴く。

Egypt Station

Egypt Station

 

 

凄いな。

76歳で、(いまどき)コンセプトアルバムで、しかも全米1位って…。

 

妻に言ったら、自分で買えと

 

木曜日。

2週間にいちどの、妻の通院日。

何人もの医者を渡り歩いてきたが、ここ数年はいまの医者で落ち着いている。

こちらの話をちゃんと聞いてくれて、適切な薬を出してくれる。

それで十分である。

医者として、余計なパフォーマンスをしない。患者にとって、それがなにより大事なことだと感じる。

患者に対して、強い承認欲求を持っている医者が最悪なのだ。

 

 

 

 

Katia Tchemberdji の 『Chamber Music』と『Klaviermusik』を聴く。

Chamber Music

Chamber Music

 

 

Klaviermusik / Music For Piano

Klaviermusik / Music For Piano

 

 

どちらも美しい。

この音楽のように人生をおくりたいと思ったりもするが、まあ無理だろうな。

 

 

 

 

神吉拓郎傑作選1 珠玉の短編』を読む。

神吉拓郎傑作選1  珠玉の短編

神吉拓郎傑作選1 珠玉の短編

 

 

7冊の作品集から21編を選んで収録した短編集。

劇的でもなんでもない日常をさりげなく描いて、それでいて深い余韻を残す作品ばかり。

「天ぷらの味」なんて、幼馴染の男女が電車の中で偶然出会って、昔住んでいた町で天ぷらを一緒に食べて別れるだけの話しである。にもかかわらず、そこに人生を感じさせる。見事というほかない。

生きていれば90歳。永六輔小沢昭一、クレーイーキャッツらと同世代である。なぜかあの世代はお洒落で上品なんだよなあ。

 

 

 

 

上品さの鍵は「さりげなさ」だろうな。

多くのSNSとは真逆の思考だ。

さりげないツィッター、さりげないインスタなんて、考えられない。

SNSは基本、「我も我も」だからね。

いささか疲れる。

 

それにしても、東京オリンピック公式ツィッターの下品さには、心底驚く。

例の、「七輪タトゥー」に「そこは五輪でしょ」と返したやつ。

ここは、東京オリンピックをアピールする絶好のチャンス!とでも思ったのかな。

思ったんでしょうね。

バカなのかな。

バカなんでしょうね。

事の重大さが、まるでわかってない。

ここにも、「我も我も」の思考がある。

 

 

 

 

欲しい。

妻に言ったら、自分で買えと。

 

 

 

 

美しすぎて眠ってしまいそうだ

 

今朝の通勤のお供は、Unthanks の『Mount the Air

Mount the Air

Mount the Air

 

 

いかん。美しすぎて眠ってしまいそうだ。

 

 

 

 

藤沢周平の『又蔵の火』を読む。

新装版 又蔵の火 (文春文庫)

新装版 又蔵の火 (文春文庫)

 

 

表題作ほか全6編の短編集。

著者もあとがきで書いている通り《どの作品にも否定し切れない暗さがあって、一種の基調となって底を流れている》。

すべての作品が悲劇で終わる。

主人公たちはその悲劇のなかで悄然と佇むか、あるいは死ぬ。後の藤沢作品にあらわれる上質なユーモアは、ここには欠片もないのだ。にもかかわらず、面白く読ませてしまうのは、著者の文章力とストーリーテリングの巧さだろう。

とくに「又蔵の火」の果し合いの場面は壮絶。武士として生きることの難しさと矜持と意地が伝わって来る。鴎外の「阿部一族」を思い出した。

 

 

 

 

 『深海生物大図鑑』を眺める。

ふしぎな世界を見てみよう! 深海生物 大図鑑

ふしぎな世界を見てみよう! 深海生物 大図鑑

 

 

奇妙な生物の連続に、心がぞわぞわする。

かれらからすると、人間はそうとう変な形で、「うわっ!キモ!」って感じなんだろうなあ。

それにしても、デメニギスって魚は凄いな。頭部が透明で、その中にチューブ状の目があるって…。なにがどうして、こういう進化を選んだのだろう?

 

 

《小さな説》より《物語》が好きなのだ

 

通勤電車のなかで、Beirut の『Gulag Orkestar』。

Gulag Orkestar-Limited

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わたしの、好きなジャケット・トップ10に入る。

2月1日に新作も出た。そちらも楽しみ。

 

Gallipoli [輸入盤CD] (4AD0121CD)

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ユッシ・エーズラ・オールスンの『特捜部Q -檻の中の女-』を読み終わる。

特捜部Q ―檻の中の女― 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕

特捜部Q ―檻の中の女― 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕

 

 

コペンハーゲンが舞台の警察小説。

シリーズ1作目。

重厚な作品かと思ったら意外に軽い。スイスイ読める。

主人公の中年刑事は、組織のはみ出し者(こういう設定多いね)。キャラとしての魅力はまあまあなんだけど、それよりも、助手として主人公を助ける謎のシリア人アサドが素晴らしく良いのだ。どういう経歴なのかも判然としないし、怪しい人たちとの付き合いもあるようだし、ときに主人公の刑事カールを驚嘆させるほどの観察眼を見せるし、危険な飛び出しナイフを隠し持っていたり、特捜部の部屋(地下にある)をスパイスの匂いでいっぱいにしたり、とにかく存在じたいがチャーミングなのである。

わたしは、アサドに会うためにシリーズ2作目も読むことに決めた。

 

 

 

 

村田沙耶香の『コンビニ人間』を読む。

コンビニ人間 (文春文庫)

コンビニ人間 (文春文庫)

 

 

けっきょくわたしは、同じ小説でも《物語》が好きなのであって、《小さな説》はあまり好きではないってことだな。

読み終わった瞬間、パッと頭に浮かんだ感想は、「どーでもいい」だった(笑)。

現代文学ってそういうもんなんですよ、と言われれば返す言葉がないが。

ジジイは、19世紀文学に沈没しようかと思っている、今日この頃。

 

 

 

 

森永製菓 小枝スペシャリーゼ<タルトタタン> 5本×10個

森永製菓 小枝スペシャリーゼ<タルトタタン> 5本×10個

 

 

少々お高いのだが、なかなか美味しい。

しかし、ひと箱に5本しか入ってないんだよなあ。

 

 

 

 

 

 

短編小説パラダイス #23 / ダグ・アリンの『ライラックの香り』

 

タイトル :ライラックの香り

著者 : ダグ・アリン

収録短篇集 : 『ミステリアス・ショーケース』

訳者 : 富永和子

出版社 : 早川書房 (ポケットミステリ)

ミステリアス・ショーケース (ハヤカワ・ミステリ)

ミステリアス・ショーケース (ハヤカワ・ミステリ)

 

 

戦争に翻弄される一家を描いて、2011年のエドガー賞最優秀短篇賞を受賞した名作。

作者のダグ・アレンは、短篇の名手として知られている。

 

では、あらすじを。

 

 

★★★

 

 

舞台は1865年3月、南北戦争末期(南北戦争は1865年4月に終結する)のアメリカ、ミズーリ州

10歳になる息子とともに農場を守るポリー・マッキーのもとに、北軍の兵士たちがやって来る。と言っても、制服を着てるのはひとりだけで(騎兵隊の大尉)、あとは雇われ兵士たちである。

 

ポリーは知り合いがいることを願いながら、男達の顔を見渡し……心のなかで毒づいた。アーロン・ミーチャムが彼らと一緒だった。(中略)厄介なことになるかもしれない。

 

アーロン・ミーチャムは、戦争が始まる何年も前からカンザスで略奪や盗みを働き、奴隷廃止論を煙幕に使って強盗や人殺しや放火をごまかしてきた男である。かれは、奴隷と脱走兵を捜索する部隊に、案内役として雇われていたのだ。

家探しをしようとする男達に、ポリーは散弾銃を手に立ちはだかり、彼らを追い返す。

 

 ポリーは古いスキャッターガンを抱え、ポーチに立ったまま、一行が水を蹴散らして小川を渡り、その先の森のなかに消えていくのを待った。彼らが見えなくなっても、行ってしまったという確信が持てるまで、少しのあいだそこに立っていた。

 家のなかに入ると、彼女は注意深くいつもの場所、ドアのすぐ横にショットガンを立てかけた。それからようやく、甘い香りのする居間の静けさのなかで溜めていた息を吐きだし、震えを止めようと自分の身体をきつく抱きしめた。

 

一方、山の奥では、ポリーの夫のガス・マッキーが牧場の馬と一緒に潜んでいた。戦場に出ている息子たちが戻ってきたときに、少しでも再スタートが楽にきれるようにと馬を守っていたのだ。

ある夜、ガスは南軍の逃亡兵と出会ってしまう。

 

 その男は陰のなかから出てきた。痩せてひょろりとした、まだ二十歳にもならない若者だった。が、手にしている武器は大人が持つコルト・ホース・ピストルだった。撃鉄が起こされ、銃口はガスの腹を狙っている。

 

若者の名はミッチェル、徒歩で遠い故郷まで逃げ戻る途中だった。

ガスは、彼を助けることにする。自分の愛馬を与え、それに乗って故郷まで戻れと言う。

 

 「このままオザーク高原をイリノイに向かって歩きつづけていたら、そのうち捕まるのは、神様が緑のりんごを作ったのと同じくらい確かなこった。彼らはあんたを捕まえ、ひょっとすると俺のところまでたどってくるかもしれん。つまり、あんたがここからできるだけ早く消えてくれたほうが、俺にとってもありがたいんだよ。馬と多少のツキがあれば、一週間後には家にいられるぞ」

 

 

しかし、この判断が、ガスを無法者アーロン・ミーチャムとの闘いへと導くのだった…。

 

一家が出会う悲惨な状況に胸がしめつけられるシーンもあるが、最後は希望を抱きながら終わる。

短編の名手ダグ・アリンらしい、隙のない名品である。

 

 

★★★

 

 

 

◆収録短編集 『ミステリアス・ショーケース』 について

ミステリアス・ショーケース (ハヤカワ・ミステリ)

ミステリアス・ショーケース (ハヤカワ・ミステリ)

 

 

「ぼくがしようとしてきたこと / D・ゴードン」「クイーンズのヴァンパイア / D・ゴードン」「この場所と黄海のあいだ / N・ピゾラット」「彼の両手がずっと待っていたもの / T・フランクリン」「悪魔がオレホヴォにやってくる / D・ベニオフ」「四人目の空席 / S・ハミルトン」「彼女がくれたもの / T・H・クック」「ライラックの香り / D・アリン」 の8編を収録したアンソロジー

このなかで1冊の本としてまとめられてるのは、ベニオフの短篇だけで、あとはこのアンソロジーでしか読めない。

ぜんたいとしては、ミステリー色は弱く、普通の小説にちかいものが多い。

D・アリンの短篇のほかでは、T・フランクリンが妻と共著した「彼の両手がずっと待っていたもの」がおすすめ。

 

 

◆こちらもおすすめ

◇『ある詩人の死 / ダグ・アリン』

ある詩人の死―英米短編ミステリー名人選集〈6〉 (光文社文庫)

ある詩人の死―英米短編ミステリー名人選集〈6〉 (光文社文庫)

 

 

「ある詩人の死」「ゴースト・ショー」「レッカー車」「フランケン・キャット」「ダンシング・ベア」(←エドガー賞受賞作)「黒い水」の6編収録。日本でのオリジナル短編集。

すべて読み応えがあり、ミステリーとしての質はかなり高い。でも、絶版。って言うか、ダグ・アリンの本じたいが最近はまったく出版されてない。こんなに面白いのに…。派手さがイマイチ足りないってことかな。渋い作品は一般受けしないってことかな。

良質な短編集が読みたい人には、おすすめの1冊。

 

 

 

 

 

犬に二度見される

 

よく、散歩中の犬に二度見される。

5回に1回くらいは、されるな。

飼い主といっしょに散歩しながら、楽しそうに地面をくんくんしていた犬が、ちらっとこちらを見て、そのあと「えっ?」って感じで、わたしを凝視してくる。

飼い主がリードを引っ張っても動こうとしない。じっとわたしを見ている。

あるとき、強い視線を感じて周りを見まわしたら、かなり遠くの方から犬がじっとこちらを見ていたこともある。

なんなんだよ、いったい。

わたしの臭いが原因か?と思ったりしたが、どうやらそうではないらしい。

風の強い日に、こちらが風下に立っていても、二度見はされるのである。

 

で、考えたのだが…。

犬は、わたしを同類だと思っているのではないか。

犬の仲間であると。

にもかかわらず、生意気にも二足歩行をしているので驚いているのではないか。

そして、少し腹をたてているのではないか。

「なんだアイツは? 犬のくせに!」と。

わたし、戌年だし。

自分では人間だと思っているが、じつは犬なのかも知れない。

 

今日も、妻とスーパーに行く途中で、犬に二度見され、さらには吠えられました…。

 

 

 

 

 江國香織の『雨はコーラがのめない』を読む。

雨はコーラがのめない (新潮文庫)

雨はコーラがのめない (新潮文庫)

 

 

《雨》は、著者が飼っている犬の名前である。オスのアメリカン・コッパスパニエル。

 

 はじめて雨に会った日のことは、忘れられない。凍えそうに寒い、十二月の、雨の日だった。そのすこし前から、私はまるで幽霊みたいに日々を暮らしていて、その日もまるで幽霊みたいに、雨だというのにデパートの屋上に煙草をすいにのぼった。なにしろ幽霊なので、雨に濡れても平気だった。なにがどうなってもいいのだった。

 その屋上に、雨がいた。

 ペットショップの檻のなかで、ひたすらぴょんぴょん跳ねていた。

 

この本は、上質のペット・エッセイ集であると同時に、素晴らしい音楽エッセイ集でもある。

 

 私たちは、よく一緒に音楽を聴きます。べつべつの思惑で、べつべつの気分で、でも一緒に音楽を聴くのです。

 音楽はたいてい私が選びます。雨の知らない時代の、雨の知らない私の時間と記憶と感情に、深く結びついた音楽たちです。

 

カーリー・サイモン、スティング、クイーン、ステイシー・ケント…などなど。

読んでいて、幸せになるエッセイ集。できればずっと読んでいたいのだが、そういう本にかぎって、すぐに読み終わってしまうのだ。

 

 

本の本 #4 / 書評の教科書 PartⅡ 10冊

 

面白い書評を書くための教科書は、けっきょく優れた書評そのものなのだ。

と言うわけで、読み応えのある書評集を10冊。

 

 

 

01. 『ビブリオパイカ / 斎藤環』(日本評論社

ビブリオパイカ---斎藤環書評集1997-2014
 

 

1997年から2014年までに著者が書いた書評のほぼすべてを収める。

巻末の書名索引によると、取り上げた本の冊数は約400冊。驚くのは、その守備範囲である。専門の精神医療関係(著者は精神科医)はもちろんのこと、トマス・ピンチョンの『重力の虹』から荒木飛呂彦の『ジョジョの奇妙な名言集』まで、著者があとがきで言う通り、じつに「無節操な雑食ぶり」なのである。

 これだけ守備範囲がひろいと、やはり書評集としてのまとまりには欠ける。質より量って感じ。

 

 

02. 『優雅な読書が最高の復讐である / 山崎まどか』(DU BOOKS)

優雅な読書が最高の復讐である 山崎まどか書評エッセイ集
 

 

著者は、2004年にも『ブック・イン・ピンク』という素晴らしいブックガイドを出している。

『優雅な読書~』は、その本以降に書かれた書評や読書エッセイから、《好きだった本、印象に残った本について書いた文章》を選んで収録。

 

編集者から『優雅な読書が最高の復讐である』という書名を提案されたとき、彼女は迷う。

 

私の読書のあり方は特に「優雅」とは言えない。そう思って躊躇していたら、「世の中には “人生の役に立つブックガイド” のような本が沢山あるんです。でも山崎さんの書いていることって、何の役にも立たないじゃないですか。実生活の足しにはならない、そういう山崎さんのブログの文章をかつて読んで、僕はずいぶん贅沢な気持ちを味わったものです」と稲葉さんに言われた。 ~あとがき

 

そうなのだ。

 山崎まどかの文章からは、ただ読書の愉しみのみが伝わってくるのだ。

 

一人で本を探し、本を読み、レコードや映画を楽しんだ時間が書き手としての私を作った。(中略)本屋で発見したものは、何でも宝物だった。どこかに私が読むべき本が隠れていると思うと、街は輝いて見える。本について書く時は紹介するだけではなく、そういう喜びも伝えたいと思っている。 ~あとがき

 

 

03. 『本よみの虫干し / 関川夏央』(岩波書店 / 新書)

本よみの虫干し―日本の近代文学再読 (岩波新書)

本よみの虫干し―日本の近代文学再読 (岩波新書)

 

 

副題に「日本の近代文学再読」とある通り、新刊本の書評集ではない。

川端康成の「伊豆の踊子」から伊丹十三の「ヨーロッパ退屈日記」まで、全59作品を再読しながら、近代日本について考察する。

 

関川夏央は、文学的素養のレンジが広い。明治期から現代までを幅広くカバーしている。

この本は、そういう著者だからこそ書けたと言える。

 

 

  日本人は、だいたい文化・文政年間に形成された生活意識を受容しつつ、その上に近代と超近代の道具を積み上げて暮らしてきた。この二百年間多くの本が書かれたが、それらの大半は橋の下をくぐる水のように流れ去って、ごく少数が名のみを残した。しかし読まれないのはおなじで、いたずらに歴史の車にたぐりこまれるばかりである。

~あとがき

 

忘れさられようとしている多くの本に、著者は光を当てる。

 

 

04. 『趣味は読書。 / 斎藤美奈子』(筑摩書房 / 文庫)

趣味は読書。 (ちくま文庫)

趣味は読書。 (ちくま文庫)

 

 

ふだん本を読まない人までがその本に手を伸ばしたとき、ベストセラーは誕生する。

本を読む習慣がある人は、ふん、そんなもの誰が読むか、となる。

そして、ろくに読みもしないで批判する。

それはいかんのじゃないか? と考えた斎藤美奈子は、五木寛之の『大河の一滴』から斎藤孝の『声に出して読みたい日本語』まで、全49冊を読み倒す。

結果、6つのベストセラーの法則を発見するのだ。

 

文章はキレがあり、笑いもふんだんに盛り込まれている。もちろん皮肉もきいている。

タイトルの「趣味は読書」からして、かなりの皮肉。

ただし、元版の発行年が2003年なので、取り上げている本がいささか古い。

 

 

05. 『ポケットに物語を入れて / 角田光代』(小学館 / 文庫)

ポケットに物語を入れて

ポケットに物語を入れて

 

「アーモンド入りチョコレートのワルツ」をはじめて読んだのは、七、八年前、私が三十歳になったころだった。読みはじめてすぐに思った。どうして私が中学生のときに、この作家に会えなかったのか! と。 森絵都の「アーモンド入りチョコレートのワルツ」の項

 

 小学生のとき、宮沢賢治の物語が好きで、卒業するまでに図書室にある童話集をすべて読もうと思っていた。布地の表紙の、ページの隅の黄ばんだ大判な本だった。すべて読めたのかどうか、思い出せないけれど、けっこうたくさん読んだ。 ~「宮沢賢治の童話」の項

 

いずれも冒頭の分部。

自分と本との関りから静かに話し始めて、やがてその本の魅力に深く入っていく。

どこまでも平易であるが、論理の破綻もなく、無駄な文章はない。

読み終わったときには、読み手に、紹介されている本の魅力がしっかりと伝わっている。

柔そうに見えて、じつは硬派な書評集である。

 

 

06. 『読むのが怖い!Z / 北上次郎×大森望』(ロッキング・オン

読むのが怖い!Z―日本一わがままなブックガイド

読むのが怖い!Z―日本一わがままなブックガイド

 

 

扉に書かれた説明文…

 

「読みたいものしか読まない大御所」北上次郎

「理論&バランスの知性派」大森望による書評対談。

互いのおすすめ本を持ち寄り、読ませ合い、判定し合い続けて幾年月、

年を重ねれば重ねるほどに、譲らなさ・同意しなさ・折り合わなさなどが加速する一方のこのふたりが、2008年から2012年春まで俎上に載せた全169冊。

 

いやあ、面白くて一気読みです。

対談は、話が噛み合うより噛み合わない方がだんぜん面白い。

大森望は、豊崎由美とも書評対談をやっているが、あちらは意見が噛み合っているのでいまいち面白くないのだ。

こちらは、微妙に噛み合ってない。どちらも良い感じに自分のわがままを出してきている。とくに北上次郎

北上次郎は、相手がおすすめしてきた本であっても、つまらないと思ったら途中で読むのやめるし、あらすじを説明しなければいけないときに平気で「めんどくせぇな」とか言うし(笑)。

いやあ、良い味出してます。

 

 

07. 『これから泳ぎにいきませんか / 穂村弘』(河出書房新社

 

 ひとつの書評を読んで、読み手がその本を読んでみたいと思ったら、書評家側のヒットである。まったく読む気が起きなかったらアウト。

穂村弘は、そういう点では、かなり打率の高い人ではないかと思う。

わたしは、この本に載っている『ほんじょの鉛筆日和 / 本上まなみ』の書評を読んで、激しく読みたいと思い、じっさい読んだ(とても良かった)。

『古書の森 逍遥 / 黒岩比佐子』も、『たんぽるぽる / 雪舟えま』も、『私は猫ストーカー / 浅生ハルミン』も、すべてこの書評集で知り、出会うことができた本である。

 

穂村弘歌人なので、歌集の書評が多い。

 

 

08. 『枕元の本棚 / 津村記久子』(実業之日本社

枕元の本棚

枕元の本棚

 

 

 取り上げている本が、ほぼ理系の本である(文系も少しあるが)。

と言っても、本格的に難しい本ではなく、気楽に読める本ばかり。

理系の本の書評を、文系のノリで書くとこうなるという見本のような本である。

 

 本書は、防衛本能の強い怖がりが怖い話を好む、というもってまわった段階はすっ飛ばして、怖いこととその防衛法の剛速球のみで構築されている、大変エッセンシャルでソリッドな一冊である。もうのっけから「流砂に足をとられたとき」という、なかなかありえない状況の危険について説明してくれる。次が「ドアを蹴破って室内に入るとき」である。いつあるんだそんな機会。

~『この方法で生きのびろ / J・ペイビン、D・ボーゲニクト』の項

 

 『ゴキブリだって愛されたい』というみもふたもない邦題の本書は、人間とは全然違うようで、でも似たような部分もある、愛すべき昆虫たちにまつわる、常識や迷信を、時にひたすらアホらしく紹介し、時に専門的に検証してくれる素敵な本である。

 まずアホという点では、「シラミとともに生きるライフスタイル愛好サイト」を謳うウェブサイトにおける、人の陰毛に寄生するケジラミについての「ケジラミが股間で赤ちゃんを産んで家族を作ったらすごい楽しいじゃないですか、パンツの中にシーモンキーを飼ってるのと同じことじゃないですか」という宣言と、マダガスカルオオゴキブリを生食するというさるテーマパークのイベントに寄せられた、動物の取り扱いの倫理を問題にする団体の抗議の訴状に署名した人が六百人に満たなかった、という話が白眉である。

~『ゴキブリだって愛されたい / メイ・R・ベーレンバウム』の項

 

  ちょっともう自分でげんなりするほど付箋を貼っていて、要点の整理にすごく時間がかかった、というほどおもしろい本だった。付箋を貼らずに読める、付箋を貼っても後で整理をする必要がない人にとっては、付箋を貼りまくったわたし以上にらくに、興味深いと思える本だと思う。うらやましい限りである。

~『貧乏人の経済学 / A・V・バナジー、E・デュフロ』の項

 

やはり、良い書評は、著者の感じている “読書のよろこび” が、読んでいる人にも伝わってくる。

逆に、それが伝わってこない書評は、ダメな書評だ。

 

 

09. 『世界文学ワンダーランド / 牧眞司』(本の雑誌社

世界文学ワンダーランド

世界文学ワンダーランド

 

 

「文学こそ最高のエンターテインメント」と考える著者の、外国文学ブックガイド。

ガルシア・マルケスの『百年の孤独』からカリンティ・フェレンツの『エペペ』まで、全76冊。ほぼ現代文学で、ドストエフスキーとかトルストイとかの古典は入っていない。

1冊4ページでさくさくと紹介していく。紹介分は簡潔で面白く、すいすい読める。

が、紹介している本は、いささか敷居が高い気がする。ホセ・ドノソとか、マリオ・バルガス=リョサとか、トマス・ピンチョンとか、ポール・ボウルズとか…。

 

巻末に著者の選ぶ「最強のジャンル小説(SFとかミステリーとか)」と「最強の文学」がそれぞれ50冊ずつリストアップされている。

 

 

 

10. 『人生を狂わす名著50 / 三宅香帆』(ライツ社)

人生を狂わす名著50

人生を狂わす名著50

 

 

著者は、京都大学大学院に在学中の院生。

京都の「天狼院書店」でバイト中、書店のウェブサイトに掲載した記事が話題となり、それを元にして書籍化したのがこの本である。

 

取り上げている本がどうこうというよりは、まず、その文章の熱量に圧倒される。

お嬢ちゃん少し落ち着け、とわたしは思ったけど(笑)。

これほど、ガンガン迫ってくる書評集も珍しい。

このノリが好きな人には、たまらない1冊だろうなあ。