単純な生活 / 気がつけば本を読んでいる

読書日記ときどき読書ガイド、的な

電車が直角に曲がることに感動する

 

2週にいちどの休日出勤。

土曜の早朝だというのに電車はそこそこ混んでいる。

東京って凄いな。

 

 

『脂肪の塊・ロンドリ姉妹 / モーパッサン傑作選』(光文社古典新訳文庫)を読み終わる。

 

 

 中編の「脂肪の塊」ほか、「聖水係の男」「ローズ」「雨傘」など全10編を収録。

「聖水係の男」はモーパッサンの最初期の名作。阿部昭が『短編小説礼賛』(岩波新書。1986年に出版され、ベストセラーになった。こういう本がベストセラーになるなんて、けっこう良い時代だったんだな)のなかで取り上げていた。

それにしても、「脂肪の塊」が完璧すぎて、他の作品の印象が薄い…。

 

 

 

The Marias の『Superclean Vol.I』と『Superclean Vol.II』を聴く。

 


The Marías - Superclean Vol. I (Full EP Listening Party)

 


The Marías - Superclean Vol. II (Full EP Listening Party)

 

フルアルバムは出さないのかなあ。

まあ、どちらのEPも純度が高いので満足なのだが。

 

 

 

油断してると(よく油断するのだが)ずーっと見ている。

 


【アメリカ】 シカゴの高架鉄道 Tジャンクション 電車の往来 Chicago 'L' The Loop T Junction  (2016.4)

 

電車が直角に曲がることに感動する。

この美しさは何だろう?

ずっと見ていたい。

 

ずっと聴いていたい

 

今朝も、朝5時半に家を出る。

明の明星が、ちょっと怖いくらいに明るい。

 

 

出勤の電車のなかで、森下典子の『こいしいたべもの』(文藝春秋 / 文庫)を読む。

こいしいたべもの (文春文庫)

こいしいたべもの (文春文庫)

 

 

タイトル通り、たべものに関するエッセイ集。

グルメなたべものはひとつも出てこない。父親が大好きだった焼きビーフンとか、鎌倉の鳩サブレとか、読書に夢中になりながら食べた柿の種とか、徹夜明けのペヤングとか。

イラストも著者なのだが、これがめちゃくちゃ巧い。エッセイの添え物の域を超えていて、イラストだけをパラパラ見ていても楽しい。

 

徹夜明けの「ペヤング」はうまかった。解放感と空腹には、ソース焼きそばの、あの味と香りでなければならなかった。麺のウェーブに絡んだ甘辛いソースの味が、青のりの風味が、空腹にガツンと応えてくれた。 ~「夜明けのペヤング

 

 心地よい歯触りと、程よい辛さに取り憑かれ、手が止まらない。やがて私は「柿の種」を抱えて縁側に腹ばいになり、缶に手を突っ込みながら読書するようになった。

(中略)

 物語が佳境にさしかかると、柿の種を一粒ずつ食べていられず、ザラザラと口に流し込んだ。一度に何十粒もの柿の種を噛む音が、頭の中で、

 ザクザクザクザク……

 と、盛大に鳴って、額にうっすら汗がにじんだ。 ~「読書のおとも」

 

たべものは容易に記憶と結びつく。

著者は、ペヤングで若い頃の徹夜仕事を思い出し、柿の種で幼い頃の読書習慣を思い出し、焼きビーフンで亡き父のことを思い出す。

それを読みながら、わたしたちもまた何かを思い出している。薄っすらではあっても、書かれているたべものについての自分の記憶を呼び覚ましているのだ。

森下典子のエッセイが優しく感じられるのは、幸福な瞬間を思い出させてくれてるからに違いない。

 

 

 

読書のおともは……

Jazz Pa Svenska

Jazz Pa Svenska

 

 ヤン・ヨハンソンは、37歳の若さで亡くなったスウェーデンのジャズ・ピアニスト。

あまりに良くて、たびたび読書の手がとまる。

 


Jan Johansson - Visa från Utanmyra (Official Audio)

 


Jan Johansson: Emigrantvisa

 

 

短編小説パラダイス #12 / トーマス・オーウェンの『黒い玉』

タイトル :黒い玉

著者 : トーマス・オーウェン

収録短篇集 : 『黒い玉 ~十四の不気味な物語~』

訳者 : 加藤尚宏

出版社 : 創元推理文庫

黒い玉 (創元推理文庫)

黒い玉 (創元推理文庫)

 

 

 トマス・オーウェン (1910 – 2002) は、ベルギーの幻想作家。経済界の重鎮としても活躍した。

「黒い玉」は、オーウェンの代表作のひとつ。読後、じわじわと怖くなる。

 

 では、あらすじを。

 

★★★

 

続きを読む

笑い死ぬところだった

 

朝、電車のなかでの女子高生どうしの会話。

「電車って、でかくね?」

「でかいでかい」

笑い死ぬところだった。油断も隙もない。

 

荒川洋治の『夜のある町で』を読む。

夜のある町で

夜のある町で

 

 

新聞や雑誌に発表したちいさなエッセイが約80編。

 

ひよっこのぼくにも文章を書くときの心がけのようなものはある。

 

1. 知識は書かないこと。

2. 情報を書かないこと。

3. 何も書かないこと。

 

ぼくは文章を書きながらこれらの条件を肝に銘じ「いい文章になりますように」と心からお祈りする。

 ~『夜のある町で』p.171

 

 3番目が凄いな。詩人だから言えることなのか。

ブログに存在する文章のほとんどは、これの逆を目指している。

 

続きを読む

すげー面倒くさい奴

 

今日思いついた言葉。

「わたしは指示待ち人間ですが、指示には従いません」

すげー面倒くさい奴。

どこかで使いたいが、使う機会がない。

 

出勤の電車のなかで、若竹七海の『暗い越流』を読み終わる。

暗い越流 (光文社文庫)

暗い越流 (光文社文庫)

 

 

 短編が5編入っている。

表題作は推理作家協会賞の短編部門を受賞している。

いずれの短編も巧い。派手などんでん返しはないけれど、最後に、メインのストーリーとは別のストーリーがすかし絵のように見えてくる感じが、少しゾワッとして良い。

ほかの作品も読んでみよう。

 

続きを読む

短編小説パラダイス #11 / アーネスト・ヘミングウェイの『敗れざる者』

タイトル :敗れざる者

著者 : アーネスト・ヘミングウェイ

収録短編集 : 『ヘミングウェイ短篇集』

訳者 : 西崎憲

出版社 : 筑摩書房 / ちくま文庫

ヘミングウェイ短篇集 (ちくま文庫)

ヘミングウェイ短篇集 (ちくま文庫)

 

 

22歳のときから7年間、ヘミングウェイは新妻のハドリーと共にパリで暮らす。パリに渡ったときにはまったくの無名だったヘミングウェイだが、パリを離れてアメリカへ戻るときには、新世代を代表する作家になっていた。

ヘミングウェイは、パリ時代に長篇『陽はまた昇る』と『武器よさらば』を書き、多くの優れた短編を書く。

「敗れざる者」は、第2短編集『男だけの世界(Man Without Woman)』の冒頭に置かれた傑作。舞台は、彼がこよなく愛した土地、スペイン。そして、後にノンフィクション(「午後の死」)を書くほど夢中になった闘牛と闘牛士の物語である。

 

では、あらすじを。

 

★★★

 

続きを読む

あの日

 

久しぶりにジョン・レノンの「Plastic Ono Band」を聴く。

PLASTIC ONO BAND

PLASTIC ONO BAND

 

 亡くなってから40年近く経つのかあ…と、しばし感慨にふける。

 

1980年当時、わたしが勤めていた古本屋では、ずっとFEN(極東放送:在日米軍のためのラジオ放送)を流していた。

12月8日の何時頃か忘れたが、FENが急にジョンの曲ばかり流し始めて、最初は「おっ、今日はジョン・レノンの特集か」とか思って喜んでいたのだが、途中で頻繁にニュースが入るし、何やら不穏な感じがラジオから伝わってきて、すごく不安になった。

その後、お客さんからジョンの死を知らされた。

人の死を聞いて膝がぶるぶる震えたのは、後にも先にもあのときだけである。

 

仕事の帰り、行きつけの喫茶店に行くと、レッド・ツェッペリンがいつもより少し大きめの音量でかかっていた。

客から、「ジョン・レノンかけてよ」と言われても、ビートルズ好きのマスターは、怒ったように客を睨みつけて、ひたすらツェッペリンをかけていた。

わたしは、店の隅で『嗚呼!花の応援団』を読みながらずっと笑っていた。

そのあと、どうやってアパートまで戻り、その夜をどうやって過ごしたのかは、もう憶えていない。 

 

あの日に感じた深い喪失感は、やがて時間が癒してくれた。いまでは、ジョンのことを思って心が重くなることもないし、彼の音楽を前ほどは聴かなくなった。

人は、ずっと悲しむようにはできていないのだろう。

しかし、ジョンの命日が巡ってくるたびに、わたしは、あの日に感じた悲しみを少しだけ思い出すのだ。喫茶店で流れていたツェッペリンと、ひたすらくだらなかった『嗚呼!花の応援団』のことを思い出すのだ。

思い出しながら、わたしは、ちょっと笑う。