単純な生活

映画・音楽・読書について、だらだらと書いている

ありふれた日常 #39 / 肌寒くて目が覚める

 

▶早朝4時過ぎ、少し肌寒くて目が覚める。

やはりお彼岸を過ぎると急に秋めいてくるな。

 

 

▶いちど目覚めたらなかなか眠れないので、起きて映画を1本観る。

川島雄三監督の『幕末太陽傳』(1957)。


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20代の頃に初めて観て、そのときは面白さがさっぱりわからず、その後10年ごとに観返しているのだが(べつに10年ごとに観返すと決めているわけではなく、偶然そうなっているだけ)、年を経るごとに面白さが増している。

そして今回も、芦川いづみがひたすら可愛い。

石原裕次郎は、なんど観てもビミョー。

それにしても、居残り佐平治に哀しみの要素をプラスしたのは、川島雄三の凄いところだなぁ。

 

 

 

▶中国の若手作家、陳春成の短編集『夜の潜水艦』(アストラハウス刊)を読む。

夜の潜水艦

夜の潜水艦

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粒ぞろいの短編集だった。

表題作は、ボルヘスが海に投げ入れたコインと、少年が妄想した潜水艦が深い海の底で一瞬交差するはなし。

冒頭におかれたこの作品を読み終わった瞬間、「これは、全作品おもしろい短編集だ」と、全作品を読む前に確信した。

ごく稀にそう言う短編集に出会う。

呉明益の『歩道橋の魔術師』とか、J・ラヒリの『停電の夜に』とか、佐藤泰志の『海炭市叙景』とか。

よく出来た短編には、最後にポンと読者を置いてけぼりにするようなところがあるが、陳春成は、ラストまで読者に親切で、そういう意味ではエンタメ色が強いかも知れない。

収録されている作品のほぼすべてが、現実からはじまり、そこに幻想が入り込み、どちらも両立させたまま終わる。

いま誰かに「なにか面白い本ある?」と聞かれたら、まちがいなくこの短編集を推す。

 

 

▶Shelby Lynne の『Not Dark Yet』(2017)を聴く。

Not Dark Yet

Not Dark Yet

  • シェルビィ・リン & アリソン・ムーラー
  • フォーク・ロック
  • ¥1528


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タイトル曲はボブ・ディランの名曲。

ジャケット良いなぁ。

秋に聴くにはぴったりのアルバム。

いっしょに歌っているアリソン・ムーラーは、シェルビーの妹さん。

 

 

▶秋の気持ちの良い天気がずっと続けば良いのだが、すぐに冬になるんだろうなぁ…。

まあ、クソ暑い夏より寒い冬のほうがまだ過ごしやすいかもしれん。

そう言えば、「夏がましだと冬に言う」って川柳があったなw

 

ありふれた日常 #38 / 懐かしい場所に戻ったような感覚…

 

▶5時起床。

目が覚めて、しばらく自分がどこにいるのか判らなくなる。

ほんの数秒のことだが。

不思議なことに、怖さなどは感じず、その数秒の間どこか懐かしい場所にいるような感覚に包まれていた。

はるかむかしに居た場所に戻ったような懐かしさ…。

これは、ちょっとヤバイのでしょうかw

 

 

カズオ・イシグロの『浮世の画家』を読む。

 

第二次世界大戦後の長崎を舞台にした長編。

戦争中、時局に迎合したような、日本精神を鼓舞するような絵を描いて名声を得た主人公が、戦後の急激な価値観の変化の中で没落し孤立を深めていく様子を、主人公の一人称で語っていく。

波風のない静かな小説だなぁ…と思って読んでいたら、最後にとんでもない仕掛けが爆発する。

いわゆる“信用できない語り手”系の小説だが、最後「えっ、どう言うこと?」って、ちょっとゾワッとした。

 

 

▶Tiny Desk Concert に上原ひろみ登場。

 


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このひとは、いつもすっごく楽しそうにピアノを弾くなぁ。

聴いてるこちらまで楽しくなる。

新曲も良い感じ。


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▶昼ごはんのあと、妻と散歩に出る。

妻は、退院後の運動として1日5千歩ほど歩くことを目標にしているのだが、病院で廊下を歩いていたときと、街中を歩いているときとでは疲れ方がまったく違うそうで、今日は3千歩を達成したあたりで帰ることにする。

 

 

▶スペイン映画『朝食、昼食、そして夕食』(2010)を観る。


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原題は「18 COMIDAS」(18の食事)。

舞台は、スペイン巡礼の聖地サンティアゴ・デ・コンポステラ

6組の人々がおりなすオムニバス群像劇。

悲喜こもごも。

すべてのエピソードが、幸福と不幸の中間あたりに着地する。

感情的に盛り上がるシーンはないが、静かに人生を見つめる感じで、良い映画だった。

こういうの、好き。

 

ありふれた日常 #37 / 聴いていると“こころが洗われる”。

▶妻、手術も無事終わり、本日退院。

1週間ぶりに、ありふれた日常が戻って来る。

…とは言っても、病み上がりの妻にいろいろやってもらうわけにもいかず、しばらくはわたしが買い物やら料理やらをやらなければならない。

まっ、健やかなるときも病めるときも、ってことで。

 

 

▶朝食のあと、久しぶりに『レイダース~失われたアーク~』を観る。

 

何回も観てる作品だが、何回観ても面白い。

とくにラストちかくのカーチェイスは素晴らしい。

ヒロインのカレン・アレンも素敵。

 

第54回アカデミー賞の作品賞・監督賞、ともに逃している。

このとき作品賞を受賞したのは、いまや語られることもない『炎のランナー』である。

炎のランナー』が出来の悪い作品とは思わないが、とうじは「選考委員の眼はふし穴か!」と思ったし、いまでもそう思っている。

『レイダース』のような完璧な娯楽作品が、作品賞も監督賞も受賞できないなんて、スピルバーグはよほど嫌われているんだな、と思った。

 

 

▶で、続けて『フェイブルマンズ』を観る(3度目)。

 

ずるいなぁデビリンw。

いいところ全部ひとり占めだ。

リンチには、演技の拙さを大声を出すことによってカバーすると言う必殺技があって、こんかいもその技を繰り出しているような気がする。

 

ラスト、カメラがクイッと動くところ、なんど観ても震える。

こんな傑作を作れるようなひとが、なぜ『レディ・プレイヤー1』のような映画も作れてしまうのか、謎だ。

 

『フェイブルマンズ』もアカデミー賞とれなかったなぁ…。

作品の風格から言ったら、『エブエブ』なんかよりぜったい『フェイブルマンズ』だと思うのだが。

選考委員たちの時代への忖度に負けったって感じがする。

スピファンとしては、いささか悔しいのである。

 

 

▶昼は、ひと口大にカットした鶏むね肉を溶かした片栗粉でコネコネしたのち茹で(いわゆる水晶鶏ってやつですね)、ネギ塩レモンダレをかけて食べる。

妻は開腹手術のあとなので、ゆっくりと、いつもよりたくさん噛んで食べている。

開腹手術のあと1カ月くらいは腸閉塞に要注意なのだ。

 

食べることのできない(あるいは食べるのに注意を要する)食材のリストを頭に叩き込んで、料理はわたしが作っている。

まずキノコ類がすべてダメ。

こんにゃくやレンコンやごぼうなどの腸に良いとされる食材はすべてアウト。

ナッツや豆類もダメ(だから納豆もダメ)。

炭酸水もダメ、麺類もできたら避けた方が良い(ずるずると吸い込むので、そのとき必要以上に空気を飲み込んでしまう)。

びっくりしたのは、果物の柿がダメってこと。

柿は胃の中で石のように固くなるらしい(“柿石”という言葉があることを初めて知った)…油断も隙もないな(季節的に柿はないので良いけど)。

しばらくは、慎重な食生活が続く。

 

 

▶食後、寝る。

2時間ほど寝るつもりが、倍の4時間も寝てしまった。

久しぶりの料理作りで疲れたのか…?

 

 

▶夕食は、餃子。

ニラは入れてない(ニラも要注意食材なのだ)。

 

 

エグベルト・ジスモンチEgberto Gismonti)の『Alma』(1986)を聴く。

 

エグベルト・ジスモンチは、ブラジルの至宝とも言うべきピアニスト(ギターも上手い)。

ジャンル分けだとジャズになってしまうようだけど、ジャンル分けが難しいアーティストのひとり。

クラシックの要素も強い。

Alma』は、ピアノソロのアルバム。

音楽が、ある種の人々にとっては救いになり得ることを証明するような作品である。

月並みな表現だが、聴いていると“こころが洗われる”。

 


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こちらは、ビアンカ・ジスモンチ。

エグベルトの愛娘。


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▶音楽にこころを洗われ、清いこころになって眠りにつく。

 

ありふれた日常 #36 / なぜヒロインがドリス・デイなんだろう?

▶5時に起き、寝床のなかでだらだらとスマホYouTubeの動画を観る。

ほとんどがつまらないのだが、たまに「おっ!」って動画に出会う。

たとえばコレ。


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「用心棒」のこのシーンは何回か観ているのだが、この動画の解説を見るまで逆手抜きとは気づかなかった。

うーむ、なるほど、足を一歩下げてるわけね。

で、柄を持つ手を逆手から順手に素早く持ち替えてると。

勉強になりました。

それにしても三船敏郎の抜刀の速さがハンパない。

 

 

▶朝食のあと二度寝をしようと思ったのだが、なかなか眠れず、けっきょくノソノソと起き出して読書。

 

ポプラ社の百年文庫という叢書の1冊。

全100冊のシリーズ。

1冊1テーマで、1冊に3編ずつ短編が入っている。

17巻目の「異」に収録されているのは…「人でなしの恋 / 江戸川乱歩」「人間と蛇 / A・ビアス」「ウィリアム・ウィルソン / E・A・ポー」の3編。

すべて読んだことのある作品だが、このシリーズを全冊読むと決めているので、読む。

 

乱歩の作品は、内容をすっかり忘れていた。

容姿端麗な男に嫁いだ娘が目撃する夫の異常な行動と悲劇。

名人芸の語り口。

 

ビアスの作品は、オチが理に勝ちすぎていてイマイチ。

ビアスは、傑作「アウル・クリーク橋の一事件」が有名だが、ビアスってこの作品以外はたいして面白くないんだよなぁ。

たしか筒井康隆もおなじことを言っていて、禿同(死語)である。

 

ポーの「ウィリアム・ウィルソン」は、小説を読む前にアラン・ドロン主演の映画で観た。

世にも怪奇な物語』というオムニバス映画で、ロジェ・ヴァデム、ルイ・マルフェデリコ・フェリーニ(豪華!)の3人が、ポーの原作を元に1編ずつ撮っている。

ウィリアム・ウィルソン」の監督は、ルイ・マル

主人公のウィリアム・ウィルソンアラン・ドロンが演じている。

何不自由なく甘やかされて育った主人公W・ウィルソンが徐々に破滅していく過程を描いているのだが、彼の人生の節目々々に自分と瓜二つ(名前も生年月日も顔もいっしょ)の男が現れ、主人公を一歩ずつ破滅へと追い込んでいくのである。

ドッペルゲンガー物の傑作。

この映画でのアラン・ドロンが、わたしはいちばん好きだ。

映画と原作では、ラストが少し違うが(まあ、原作はちょっと理屈っぽくて絵にはしにくい)、映画の方がホラーっぽくて好き。

 

 

▶本を読んでも眠りは訪れてくれず、昼までぼんやりと過ごす。

やがて終日ぼんやりと過ごす日が来るのかもしれない。

 

昼はカレーうどん

現在、妻が入院中なので、自分で作る。

と言っても、茹でたうどんにレトルトのカレーをぶっかけただけである。

それにしても、ひとりで食べる食事のなんと味気ないことか。

味気ないというか…ほとんど味がしない。

なにかの餌を無理やり口に運んでいる感じである。

 

 

ヒッチコックの『知りすぎていた男』を観始めるが、30分くらいで挫折。

 

かなりむかしにTVの洋画劇場で観て、ドリス・デイが必死で「ケセラセラ」を唄っているシーンだけ覚えている。

30分で挫折したのは、こまっしゃくれたガキが出て来たせいである。

その子供が物語を動かす主役ならともかく、物語りとは直接関係もないくせに、まわりの大人をひっかきまわす感じが、観ていてイライラするのである。

 

それにしても、なぜヒロインがドリス・デイなんだろう?

どう考えてもヒッチコック好みのブロンド美人じゃないんだけどなぁ。

大人の事情なのかな…?

 

 

▶ニュースで、アスクビクターモア(牡4歳)の死亡を知る。

2022年の菊花賞馬である。

放牧先での熱中症だそうだ。

すべての動物が暑さで死んでいくのではないか…?

地球は、ゆっくりと氷河期に近づいているらしいが、にわかには信じがたい。

 


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最終コーナーで先頭にたって、直線で後続を突き放す感じがかっこ良い。

天皇賞有馬記念あたりで復活すると思っていたが…。

 

 

▶寝る前に、妻に頼まれている観葉植物たちの水やりをやる。

変なかたちのものがけっこうあって、ひとつひとつ水のやり方が違うので気をつかう。

「String of Pearls」という葉が球形の植物に関しては、下に伸びてる葉を1本でも切ったら“ぶち〇ろす”と言われているので、たいへんなのだw


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まあ、我が家のパールちゃんは、こんなにりっぱではないけど。

ありふれた日常 #35 / ラストまで一気読み

 

▶アンディ・ウィアーの新作『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を読む。

 

昨夜、寝る前に何気なく読み始めたらやめられなくなり、けっきょく午前5時過ぎまで読み耽ってしまった。

読書で徹夜なんて久しぶりである。

 

ストーリーは、何をどう語ってもネタばれになるので、なにひとつ喋れない。

謎の宇宙船のなかでひとり目覚めた主人公が、人類滅亡の危機を救うために悪戦苦闘する話である。

上巻の160頁あたりに大きな爆弾がしかけられていて、そこからとんでもない展開がラストまで続く。

爆弾(ストーリー上のね)がさく裂したとき、主人公が「うっそだろ!」と叫ぶが、その叫びは読者の叫びでもある。

わたしは、その時点でいったん本を閉じて、珈琲を飲みこころを落ち着かせた。

そこからは、胸熱な展開がこれでもかと続き、ラストまで一気読みである。

 

主人公やストーリーのポジティブさとか、科学理論を基にした描写とか、SF的想像力の飛ばし方とか、どこかアーサー・C・クラーク御大の作品を彷彿とさせる。

ここにクラークが持っていた深遠さが加味されれば、著者はあっと言う間に巨匠になるにちがいない。

 

ライアン・ゴズリング主演で映画化が決定している(24年初頭に撮影開始)。

楽しみ。

 

 

▶朝食を食べたら、さすがに眠くなり、昼までうつらうつらと眠る。

起きて、外へ。

暑い!

思わず、ガンバレルーヤよしこ並に「クソがっ!」と叫びたくなるほど暑い。

夏だから暑いのは当たり前、なんてことを通り越してる気がする。

 

谷中の台湾カフェ「狐月庵」で涼む。



台湾コーラなるものを飲む。

独特の香り。

どこかで嗅いだ香りだと思いながら飲んでいたら、ひと口飲んだ妻が「あっ、あなたが腰に貼ってる湿布薬とおなじ匂い!」と言い、そうなるともう湿布薬を飲んでるとしか思えなくなったw。

まあ、不味くはなかったのだが。

 

いっしょに写っている本は、図書館で借りた阿部謹也の『ハーメルンの笛吹き男』。

 

 

▶夕食後、ヒッチコックの『サイコ』を観る。

 

わたしが完璧だと思う映画のひとつ。

妹が登場して謎解きが始まる後半より、ジャネット・リーアンソニー・パーキンスに殺されるまでの前半が好き。

 

今年はヒッチコックの主な作品をすべて観直そうと思っていて、これがその3本目。

 

 

Brad Mehldau の『Your Mother Should Know : Brad Mehldau Plays The Beatles』(2023)を聴く。

 

「Baby's in Black」とか「She Said, She Said」とか「If I Needed Someone」とか、超有名どころをはずした選曲がしびれる。

みんな「Let It Be」をやりたがるw


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チック・コリアが亡くなり、キース・ジャレットが活動休止中ではあるが、リリカル・ピアノ派は永遠に不滅なのだ。

ありふれた日常 #34 / 今年のベストアルバムは、もうこれで良いのだ

 

▶午前4時起床。

“起床”と言うか、午前3時頃に目覚めてしまって、その後寝床でグズグズ過ごし、結局しかたなく起き出したかんじ(いつものことだが)。

苦い珈琲を飲みながら、(ぼんやりとした頭のまま)ヒッチコックの『裏窓』を観る。

 

1955年制作。

ヒッチコックの代表作のひとつ。

始めて観たのは中学の頃で、おそらく淀川長治解説の“洋画劇場”で観たと思う。

面白かったという記憶がない。

およそ50年ぶりに観たわけだが、サスペンスとしては、やはり面白くない。

 

足を骨折して身動きがとれないカメラマンのジェフ(ジェームズ・スチュワート)が、向かいのアパートの住人の生活を覗き見ている。

で、彼は、そのうちの一室で殺人が行われたのではないか?と疑いをもち、友人の刑事や恋人リザ(グレース・ケリー)を巻き込んで、ドラマが展開していく…。

 

が、どうもこの映画のキモは、向かいのアパートで行われたかも知れない殺人ではなく、それを覗いている主人公と恋人の恋の行方のようなのだ。

ジェフは、リザから結婚を迫られているのだが、ジェフの気持ちは煮え切らない。

ファッション関係の仕事で生計をたてているリザと、カメラマンとして世界を飛び回っている自分とは住む世界が違い過ぎるとジェフは感じているのである。

(とうじ付き合っていたイングリッド・バーグマンに対して「僕は戦場で死ぬ男だ。君とは結婚できないよ」と別れを告げたロバート・キャパを思い出す)

ジェフは、なんだかリザとの結婚問題を先延ばししたいがために殺人事件の推理に没頭していくようにも思える。

純粋にサスペンス映画ではないんだよなぁ…。

 

 

▶気になったので、原作であるウィリアム・アイリッシュの『裏窓』を読んでみる。

 

予想したとおり、こちらはサスペンス以外なにもない。

主人公の職業もわからず、なぜ足を骨折したのかもわからない。

恋人も出てこない(通いのハウスキーパーと友人の刑事は登場する)。

映画では、全編にわたって映されていたアパートの住人の日々の生活など、ほとんど語られることはない。

語られるのは、窓からアパートの住人を覗く主人公と、殺人犯との戦いのみ。

じつにスッキリとしたサスペンスである。

ここにヒッチコックは、ジェフとリザの、結婚にまつわる葛藤を付け足したわけである。

ヒッチコックがほんとうに語りたかったのは、おそらく付け足したエピソードの方だろう。

 

 

▶朝食を食べたあと、至福の二度寝

二度寝は気持ち良いのだが、さいきんは二度寝ですらうつらうつら状態になりつつある。

年をとると、気持良いことがひとつずつ消えていく。

 

 

▶起きて、熱い黒玄米茶を飲みながら、Meshell Ndegeocello の『The Omnichord Real Book』(2023)を聴く。


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すっごく控えめに言って、傑作である。

聴いていると、魂が、どこか遠くの楽園にまで飛んで行ってしまう。

音楽を好きで良かったと思う。

今年のベストは、もうこれで良い。

 

 

▶昼食の後、妻と外へ。

ちかくのサンマルクカフェに入り、夕方まで読書など。

と言っても、むかしのようにひたすら読書するほどの集中力はなくなっているので、途中スマホで「刑事コロンボ」を観たり、「必殺仕掛け人」を見たり、ぼんやりとアイスコーヒーをすすったり、いちゃついているカップルを睨みつけたり、なにやら難しい勉強をしている妻をからかったりして、夕方までの時間をつぶす。

 

涼しくなった頃にカフェを出て、谷中銀座で買い物をして帰る。

 

 

▶夕食に豆腐ハンバーグを食べ、食後に珈琲を飲み、しばらくぼんやりした後、たいして眠くはないが床に就く。

早く寝ようが、遅く寝ようが、どうせ眠れないのである。

寝床の中で、だらだらとYoutubeのショート動画などを見る。

ふと、「お前の人生、これで良いのかい?」と言う声が、どこからともなく聞こえてくるが、いまさらどうすることもできないので、「これで良いのだ!」。

 

 

 

 

ありふれた日常 #33 / 年を取ると、すぐに感傷的になっていかんな

 

▶午前5時、新聞配達のバイクの音で目が覚める。

 

若いとき(20歳前後)に新聞配達のバイトをしたことがある。

その頃、柳町光男監督の『19歳の地図』と言う映画が公開された。

中上健次の短編小説が原作の作品だが、主人公が新聞配達をしながら予備校に通う青年ということで、配達仲間の何人かで観に行った。

十九歳の地図

 

いやあ、これはキツかったなぁw

新聞配達青年が抱え込んでいる鬱屈のあれやこれやがリアル過ぎて、映画としてぜんぜん楽しめなかった。

 

映画館を出たあと、しばらくは全員無言。

ひとりが大きなため息をついて、それでみんな笑いだした。

尾崎豊は、この映画を観て「17歳の地図」を作ったらしいが、とうじのわたしたちにそんな芸術的感性はなかったのだ。

 

音楽は板橋文夫(ジャズ・ピアニスト)。

いちど代官山の「晴れたら空に豆まいて」というライブハウスでかれの演奏を聴いたことがある。

適度に前衛的で面白かった(“適度”なんて言ったらファンに激怒されそうだけどw)。

ライブが終わって、周辺をぶらぶらしていたら、わたしと妻の横をママチャリに乗った板橋文夫が颯爽と駆け抜けていった。

 

あの頃、一緒に世間への不満を愚痴り合った奴らは、いま頃どこで何をしているのだろう?

そういうことを1年に1度くらい、ちらっと考えることがあるが、考えたところで具体的に知る術はなく、思いはそのまま霧の彼方に消えてしまう…。

まあ、どこかで頑張ったり頑張らなかったりしてるんだろうな。

 

今朝の珈琲は、なんだかいつもより少し苦く感じるのである。

年を取ると、すぐに感傷的になっていかんな。

 

 

▶朝食を食べた後、例によって二度寝

寝すぎると早々にボケるらしいが、そうなったらさらに寝るだけなので無問題。

 

 

▶起きて、『必殺仕掛人 #1 仕掛けて仕損じなし』(1972)を観る。

大ヒットしたテレビドラマ。

 

放送時、わたしは高校1年だった。

とうじは緒形拳扮する針医藤枝梅安のかっこ良さに目がいったが、いま観ると殺しの元締め音羽屋半兵衛門を演じる山村聰の渋さが良い。

監督は、深作欣二である。

後にトレードマークとなる手持ちカメラでの撮影をすでに駆使している。

 

ラスト、雨の降る昼下がりに、元締めの半兵衛門がある男を殺すのだが、その場面を上から撮っている。

映っているのはふたつの番傘。

その傘がすれ違うとき、ブスッと言う刃物が人を刺す効果音が聞こえるだけで、殺しのシーンは映さない。

うーん、カッコ良くてシビレますね。

 

監督は、1話と2話が深作欣二で、3話と4話が(座頭市シリーズの)三隅研次である。

ふたりとも、テレビドラマと言うよりは、映画を撮ろうとしているようで、そういうところも面白い。

 

 

▶コートニー・パイン(Courtney Pine)の『Closer To Home』(1992)を聴きながら、蒸し暑さをやり過ごす。

Closer to Home (Remixed)

Closer to Home (Remixed)

  • コートニー・パイン
  • ジャズ
  • ¥1935


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カラッと晴れ渡った、爽やかな青空のような音だ。

夏が近づくと、このひとのサックスを無性に聴きたくなる。

 

 

▶夕食後、『小津安二郎新発見』(講談社刊)をぱらぱらとめくる。

 

志賀直哉と一緒に写っている写真があって、志賀直哉ダンディーぶりに驚く。

 

 

▶今週末の競馬は、春競馬の締めくくり「宝塚記念」である。

もう勝ちはイクイノックスと決まっているのだ(なにしろ現時点で世界一強い馬なのだし)。

そして、G1馬が8頭も出走するレースには、穴馬など存在しないのだ。

穴党のわたしとしては、馬券的面白さはまったくない。

しかし、それで良いのだ。

世界一の馬の走りを、この目で見ることができる幸せをかみしめながら、春競馬を終わりたい。