▶1本目:『お盆の弟』(2015)
脚本が「百円の恋」(傑作!)の足立紳。
渋川清彦、光石研、河井青菜、渡辺真紀子、田中要次など、出演者全員が芸達者なバイプレイヤーである。
売れない映画監督のタカシ(渋川清彦)は、親友のシナリオライター(ほぼ無名)藤村とともに再起をかけて日々もがいているのだが、なかなかうまくいかない。
妻からは別れを切り出され、しかたなく別居して、大腸癌の手術を終えたばかりの兄(光石研)と実家でふたり暮らしをしている。
そんなある日、藤村から合コンの誘いがあり、いやいや出席したタカシだったのだが、そこで涼子(河井青菜)という女性を紹介される。
そして、涼子の存在が、タカシのぐだぐだの日々にちょっとしたドラマを生むのである…。
実家で暮らす兄と弟、ふたりの距離感がたまらなく良い。
仲が極端に悪いわけでもなく、かと言ってべったりと仲良しでもない。
ふたりともけっこうな大人なので、それぞれに悩みがあり、歩んできた人生がある。
そこに踏み込んだり、踏み込まなかったり。
タカシは、けして悪い奴ではない。
いわゆるクズ男ではなく、根は真面目で優しいのだが、どこかもう一歩頑張り切れないところがあって、観ていてちょっといらいらする。
そういうキャラが、演じている渋川清彦がかもし出すキャラと合っていて、良い配役だなぁと思った。
ラスト、変なタイトルの意味がわかる。
▶2本目:『犬猿』
堅物の姉(江上啓子)とノーテンキな妹(筧美和子)。
二組の兄弟姉妹が繰り広げる愛憎劇である。
いちおうコメディってことになってはいるが、内容はなかなかシリアスで笑ってばかりもいられない。
相手への嫉妬や憧れ、愛情と嫌悪……時に罵り合い、時に笑い合う。
兄弟姉妹故の、他人とは違う面倒くささのようなものを見事にすくいとっている。
江上敬子(ニッチェ)の演技のうまさに驚く。
▶3本目:『東京兄妹』(1995)
監督は市川準。
緒方直人、粟田麗主演。
都電が走る東京の下町が舞台。
両親を亡くしたあと、ふたりきりで暮らす兄と妹の慎ましい日常を淡々と描く。
“慎ましい”とは言っても、多くのひとの人生がそうであるように、ふたりの生活にもそれなりにドラマはある。
兄は恋人にふられ、妹は兄の友達と付き合うようになり、家を出て同棲をはじめたりする。
ふたりの上を同じように流れていた時間が、少しずつ微妙にすれ違い始める。
ラスト、妹の上に流れはじめた妹だけの時間を、兄が認めるシーンが素晴らしい。
▶以上、兄弟愛をテーマにした邦画3本。
「凄い!」と叫ぶほどの大作ではないし、「映画史に残る!」と言うほどの大傑作でもないけれど、観るとちょっとだけ人生が豊かになる…そんな3本です。