▶『夜の人々』を観る。
1948年制作のアメリカ映画。
モノクロ、96分。
『理由なき反抗』などを撮った名匠ニコラス・レイ監督の初監督作品。
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DVD
フィルム・ノワールの傑作のひとつに数えられる名作だけど、ノワール的なクールさはあまりなく、どちらかと言うとメロドラマのような甘さが全編に漂っている。
どのシーン、どのショットも、すべてが美しく素晴らしい。
ちなみに、この映画にはタイトルが3つある。
原題は「They Live By Night」、イギリス公開版は「The Twisted Road」で、もうひとつが「Your Red Wagon」(わたしが観たのがこれ)。
★★★
主人公は、自らの冤罪を晴らすために仲間とともに脱獄した青年ボウイ。
演じるのはファーリー・グレンジャー。
二枚目のヤサ男である。
一緒に脱獄したのは、筋金入りの犯罪者、T・ダブとチカマウ。
T・ダブ(ジェイ・C・フリッペン)。
3人のなかではいちばんの頭脳派だが、悪党顔なので、ぜんぜん頭脳派に見えない。
チカマウ(ハワード・ダ・シルヴァ)。
根っからのクズ。
右目が見えず、それをからかわれるとキレる。
映画は、猛スピードで車を飛ばして逃げる3人の空撮で幕を開ける。
冒頭の1分間はノーカット。
カメラは、爆走する車を追い続ける。
気分がアゲアゲになる素晴らしいオープニング。
3人が逃げ込んだのは、チカマウの兄の家。
その家で、ボウイはチカマウの姪キーチと出会う。
父親にこき使われている薄幸の娘。
演じているのは、キャシー・オドネル。
薄幸の娘とは言っても、リリアン・ギッシュ的な(古い!w)弱々しさはなく、かなり芯の強い娘である。
キーチは、叔父であるチカマウらを心底軽蔑し嫌っているが、根が純朴なボウイには好感を持つ(イケメンだしね)。
ボウイのほうも、掃き溜めに鶴のキーチに思いを寄せるようになる。
いい感じのふたり♥
金が必要なT・ダブとチカマウは、銀行を襲う計画をたて、ボウイにも手伝わせることに。
襲う銀行の内部を下見したり、逃走用の車を用意したり、準備のシーンは見せるが、かんじんの銀行強盗のシーンはない。
準備から、いきなり逃走で、こういう描き方がクール。
盗んだ金でスーツを新調するボウイ。
どこが純朴なんだか(笑)。
しかし、事はそうそう上手くは運ばない。
新車も買って、上機嫌で戻る途中、事故ってしまうのだ。
なんとか事故現場から脱出するが、残してきた車の中からボウイの指紋がついた拳銃が発見され、銀行強盗の首謀者と見なされてしまう。
傷ついたボウイを看病するキーチ。
お尋ね者になってしまったボウイは、「ここから出て行く」と言うのだが、キーチが「わたしも一緒に行く」言い出す。
こうして、映画史に残る「ふたりの逃避行」が始まる。
逃げると決めてから、キーチの顔が急に大人びてくる。
逃亡の途中、激安(20ドル)の簡易結婚式場で結婚するふたり。
幸せと、やがて訪れるであろう悲劇の予感が画面いっぱいにあふれている。
すっかりハネムーン気分のふたり。
お尋ね者なんだがなぁ…大丈夫か、ボウイ&キーチ…。
隠れ家にこもったふたりだったが、悪の仲間は見逃してくれない。
チカマウに見つかり、ふたたび銀行強盗に誘われる。
必死に止めるキーチ。
しかし、ボウイは制止を振り切り「これが最後だ」と出て行ってしまう。
そして、2度目の銀行強盗は失敗。
T・ダブもチカマウも射殺されてしまう…。
疲れ果てて戻って来るボウイ。
軽率な行動を責めるキーチ。
喧嘩となり、出て行こうとするボウイ。
そんなときに、キーチが妊娠を告白する。
ふたりは、ふたたび逃避行の旅へ。
悲劇的な結末が待っていることは、ふたりにもわかっている。
しかし、なんとかその運命に抗おうとするふたり。
都会の宿に落ち着き、久しぶりにデートするボウイとキーチ。
幸せそうなふたりではあるが、終始切なさがつきまとう。
破滅は、もうそこまで迫っているのだ。
店のオーナーから、この街から出ていけと脅されるボウイ。
裏社会では、すっかり顔が知れてしまっていたのだ。
体調が悪くなったキーチを休ませるため、T・ダブの弟(服役中)の嫁マッティを訪ねるボウイ。
泊まらせないと言われるが、相手を脅して無理やりキーチのための部屋を確保する。
脅されたマッティは、夫の即時釈放を条件に、ボウイの居場所を警察に密告する。
ボウイは、メキシコへ逃げようと画策するが、うまくいかない。
逃げ場を失い、徐々に追い詰められていくボウイ…。
このままではふたりとも破滅すると悟ったかれは、金を残してキーチの元を去ろうと決心する。
キーチへの想いを綴った手紙をマッティに託すボウイ。
最後に一目キーチの姿を見ようと窓に歩み寄る…。
そこに、待ち伏せしていた警官たちのライトが当たる。
思わず懐の拳銃に手を伸ばすボウイ。
警官に撃たれ、倒れるボウイ。
駆け寄るキーチ。
お腹の子を産み育てることを決意するキーチのアップで映画は終わる。
★★★
この映画の唯一の欠点は、ボウイの性格だな。
優しくハンサムなんだけど、けっこう頭が悪い(笑)。
こんなバカな男を愛してしまったキーチちゃんが可哀想ではある。
このボウイの性格を受け入れられるかどうかで、この作品への好き嫌いも変わってくるような気がする。
わたしは受け入れました。
キーチを演じたキャシー・オドネルが美しい。
46歳の若さで亡くなっているし、その10年ほど前にほぼ引退しているので、出演作はあまりない。
最初ボーイッシュな少女として登場し、ボウイと出会うことによって、少しずつ大人の女性の顔になっていく。
ラストは、あきらかに母親の顔になっていて、そういう表情をフィルムに残したニコラス・レイ監督の凄さよ、と思う。
ちなみにタランティーノの『トゥルーロマンス』の元ネタ。
ほかにもテレンス・マリック監督の『地獄の逃避行』やアーサー・ペン監督の『俺たちに明日はない』など、“若い男女の逃避行もの”に大きな影響を与えた。