▶すごく良い作品なのに、いまだにDVDやBlu-Rayになっておらず、配信もされてない作品を紹介する。
ぜひソフト化あるいは配信を、強く強く希望するのだ!
▶『グレイフォックス』(The Gray Fox)
1982年制作のカナダ映画。
監督は、フィリップ・ボーソス。
主演は、リチャード・ファーンズワース(63歳にして初の主演である)。
カナダのアカデミー賞であるジニー賞で、最優秀監督賞のほか7つの賞を受賞した。
史上初めて「手を上げろ!」という台詞を使ったとされる伝説の駅馬車強盗ビル・マイナーの晩年を描いた傑作。
33年間の服役を終えて、60歳で娑婆に出て来たビル。
とりあえず妹夫婦のもとに身を寄せ、牡蠣拾いの職に就くが、自由気ままに生きて来た彼に、そう言う地道な生活が長続きするはずもなく、やがて妹の元を去ることになる。
映画館で観た「大列車強盗」に触発されたビルは、再び強盗をやろうと決意するのだが、時代はすでに20世紀(ビルが出所したのは1901年)。
駅馬車強盗でならしたビルだったが、駅馬車などとっくの昔に姿を消し、爆走する汽車の時代になっていたのだ。
それでも挑んだ列車強盗には、見事に失敗。
おまけにピンカートン社の探偵に追われる身となってしまう。
ビルは、逃亡先で再び列車強盗に挑戦、こんどは成功し7000ドルをせしめる。
この事件は、カナダ史上初の列車強盗として記録されている(1903年のこと)。
追ってから逃げるために旧友がとりしきるカンルーブルという町に身をひそめることにしたビルは、そこで美しい女性写真家ケートと出会う。
やがて愛し合うようになる二人。
老いらくの恋ですね。
このまま幸せに暮らせるかと思ったビルだったが、ついに追っ手につかまり、投獄されてしまう…。
だが、しかし。
脱獄するんだよねぇ、この爺さんは(笑)。
そして、ヨーロッパのとある国で、ケートと一緒に幸せな晩年をおくるのである。
とにかく主演のリチャード・ファーンズワースの佇まいが渋い!
背中には言い知れぬ哀愁が漂っており、みていて惚れぼれするのである。
ファーンズワースは、この作品の約15年後に、デヴィッド・リンチ監督の『ストレート・ストーリー』で再び主演をつとめ、かずかずの賞に輝くが、できればもっと主演作が観たかった(主演は、この2作品だけなのだ)。
2020年に4K版がリバイバル上映されたのだが、日本ではいまだにソフト化もされず、配信もない。
▶『グレアム・ヤング 毒殺日記』(The Young Poisoner's Handbook)
1994年制作のイギリス映画。
実在したシリアル・キラー、グレアム・ヤングの少年時代から逮捕されるまでを描く、いかにもイギリス映画らしいブラック・コメディ。
監督は、ベンジャミン・ロス。
主演は、ヒュー・オコナー。
気弱な少年グレアム・ヤングの宝物は化学実験セットである。
それにより“毒”に魅せられたグレアムは、図書館に勤めるスー・バトラーを通じて、未成年者への閲覧が禁じられている毒物関係の本を次々と手に入れ、それらを読み耽る毎日。
ある日、友人のニックが、スーとデートすると言うことを知り、嫉妬に狂った彼は、ニックが口にするサンドイッチに劇薬アンチモン入りのマスタードを塗る。
ニックが、毒入りサンドを食べる様子をじっと見つめるグレアムの目が、サイコパスで怖い。
毒入りサンドを食べたニックは体調を崩し、グレアムはニックの代わりにスーとデートすることに成功。
この事件から、グレアムはさらに“毒”にのめり込んでいく。
継母に宝物の化学実験セットと隠し持っていたエロ本(笑)を捨てられたグレアムは、
彼女の食事にもアンチモンを盛る。
倒れた継母は原因不明の病と診断される。
グレアムは医者の処方する薬にも毒物を混入させて、徐々に継母を弱らせていく。
衰弱していく継母の様子を、克明に観察し記録していくグレアム。
そしてついに、無味無臭の猛毒タリウムで継母を死に至らしめる。
若きサイコキラーの誕生である。
毒殺の魅力に取りつかれたグレアムは、父や姉、伯父などに次々と毒を盛り、犯行を重ねていくが、14歳(!)のときについに逮捕される。
精神病院に収容されるが、2年後に病は完治したと診断され、社会生活に復帰する。
カメラ会社に就職して、まじめに働いていたグレアムだったが、会社のラボで大好きな毒物タリウムを見つけてしまう…。
内なる欲求には抗えず、社員を次々に毒殺していくグレアム。
犯行は、マヌケな失敗(社員が飲むお茶にタリウムを入れたのだが、どのカップに入れたのかがわからなくなり、パニックであたふたしてるところを同僚に見つかってしまう)であっさりと露見し、再び逮捕されるグレアム。
その後、彼は獄中で、実母の形見のダイヤモンドを削った粉を飲み、自殺する。
「毒を飲んだ人間が死んでいくところを見たい」と言う欲求だけで、次々と犯行を重ねていくグレアムの精神の壊れっぷりが怖い。
サイコキラー物だけど、血なまぐさいシーンは一切なく、ヒュー・オコナーの飄々とした演技も相まって、不思議な魅力にあふれている。
▶以上、2本。
なぜソフト化もされず、配信もされてないのか、謎であります。
なんか大人の事情があるのでしょうか?