単純な生活

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芥川龍之介の『おしの』 / 神父の踏んだ地雷

 

芥川龍之介の『おしの』を読む。

芥川龍之介全集〈5〉 (ちくま文庫)

芥川龍之介全集〈5〉 (ちくま文庫)

 

 

 いわゆる「切支丹もの」の1編。

有名な作品ではない。

芥川の切支丹ものだと、『奉教人の死』や『きりしとほろ上人伝』などが有名だけど、

それらの傑作と比べると読みごたえはかなり落ちる。

 

舞台は、16世紀後半くらいの日本。

南蛮寺と呼ばれていた教会に三十代の武家の女が入ってきて、西洋人の神父に話しかける。

女の名前は、しのといい新之丞という息子がひとりいる。

いま、その息子が大病で臥せっており、治そうといろいろ試してみたが効果はなく、ついには西洋の神にすがろうとやってきたのである。

 

神父は、しのの願いをきき、新之丞を見舞うことを約束する。

そして、(とうぜんではあるが)キリスト教の素晴らしさ、イエスや神の偉大さをしのに語り始める。

 

 神父は厳かに手を伸べると、後ろにある窓の硝子画を指した。ちょうど薄日に照らされた窓は堂内を罩(こ)めた仄暗がりの中に、受難の基督を浮き上がらせている。十字架の下に泣き惑ったマリヤや弟子たちも浮き上がらせている。女は日本風に合掌しながら、静かにこの窓をふり仰いだ。

「あれが噂に承った南蛮の如来でございますか? 倅の命さえ助かりますれば、わたくしはあの磔仏に一生仕えるのもかまいません。どうか冥護を賜るように御祈祷をお捧げ下さいまし。」

 女の声は落ち着いた中に、深い感動を蔵している。神父はいよいよ勝ち誇ったようにうなじを少し反らせたまま、前よりも雄弁に話し出した。

 

神父は、しのにイエスの生涯を語っていく。

その誕生から、東方の博士たちのこと、ヘロデ王童子殺し、ヨハネの洗礼から山上の教えなど…。

そして、イエスの最後…十字架での死を熱っぽく語ったとき、それまで眼を輝かせて神父の言葉に聞き入っていたしのの顔つきが一変する。

 

 神父は思わず口をとざした。見れば真っ蒼になった女は下唇を噛んだなり、神父の顔を見つめている。しかもその眼に閃いているのは神聖な感動でも何でもない。たた冷やかな軽蔑と骨にも徹(とお)りそうな憎悪とである。神父は惘気(あっけ)にとられたなり、しばらくはただ唖のように瞬きをするばかりだった。

 

神父も、とんだ地雷を踏んだものだ。

少し同情する。

神父からしてみたら、「ええっ? マジでそこがダメなの?」ってことだろうな(笑)。

最後は、しのの(と言うか、日本の)武士道精神が大爆発で、神父の唱えるキリスト教精神を断固拒否するのだ。

 

全集を読んでいるからこそ出会えたような作品である。

 

 

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クライヴ・バーカー原作のスプラッター・ホラー。

前作以上にエグイ血まみれシーンが続出だが、まったく怖くない。

むしろ楽しい(笑)。

おなじみの魔導士ピンヘッドも健在だが、今回は、マッドサイエンティストの魔導士化した姿が爆笑もんだった。

それにしても、ピンヘッドはけっこう良い奴だな。

女に弱いって言うか、これからヒロインを殺そうかというときに、「ちょっと待って!」って言われたら、ちょっと待っちゃうし。

けっこう可愛い。