▶午前5時、新聞配達のバイクの音で目が覚める。
若いとき(20歳前後)に新聞配達のバイトをしたことがある。
その頃、柳町光男監督の『19歳の地図』と言う映画が公開された。
中上健次の短編小説が原作の作品だが、主人公が新聞配達をしながら予備校に通う青年ということで、配達仲間の何人かで観に行った。
いやあ、これはキツかったなぁw
新聞配達青年が抱え込んでいる鬱屈のあれやこれやがリアル過ぎて、映画としてぜんぜん楽しめなかった。
映画館を出たあと、しばらくは全員無言。
ひとりが大きなため息をついて、それでみんな笑いだした。
尾崎豊は、この映画を観て「17歳の地図」を作ったらしいが、とうじのわたしたちにそんな芸術的感性はなかったのだ。
音楽は板橋文夫(ジャズ・ピアニスト)。
いちど代官山の「晴れたら空に豆まいて」というライブハウスでかれの演奏を聴いたことがある。
適度に前衛的で面白かった(“適度”なんて言ったらファンに激怒されそうだけどw)。
ライブが終わって、周辺をぶらぶらしていたら、わたしと妻の横をママチャリに乗った板橋文夫が颯爽と駆け抜けていった。
あの頃、一緒に世間への不満を愚痴り合った奴らは、いま頃どこで何をしているのだろう?
そういうことを1年に1度くらい、ちらっと考えることがあるが、考えたところで具体的に知る術はなく、思いはそのまま霧の彼方に消えてしまう…。
まあ、どこかで頑張ったり頑張らなかったりしてるんだろうな。
今朝の珈琲は、なんだかいつもより少し苦く感じるのである。
年を取ると、すぐに感傷的になっていかんな。
▶朝食を食べた後、例によって二度寝。
寝すぎると早々にボケるらしいが、そうなったらさらに寝るだけなので無問題。
▶起きて、『必殺仕掛人 #1 仕掛けて仕損じなし』(1972)を観る。
大ヒットしたテレビドラマ。
放送時、わたしは高校1年だった。
とうじは緒形拳扮する針医藤枝梅安のかっこ良さに目がいったが、いま観ると殺しの元締め音羽屋半兵衛門を演じる山村聰の渋さが良い。
監督は、深作欣二である。
後にトレードマークとなる手持ちカメラでの撮影をすでに駆使している。
ラスト、雨の降る昼下がりに、元締めの半兵衛門がある男を殺すのだが、その場面を上から撮っている。
映っているのはふたつの番傘。
その傘がすれ違うとき、ブスッと言う刃物が人を刺す効果音が聞こえるだけで、殺しのシーンは映さない。
うーん、カッコ良くてシビレますね。
監督は、1話と2話が深作欣二で、3話と4話が(座頭市シリーズの)三隅研次である。
ふたりとも、テレビドラマと言うよりは、映画を撮ろうとしているようで、そういうところも面白い。
▶コートニー・パイン(Courtney Pine)の『Closer To Home』(1992)を聴きながら、蒸し暑さをやり過ごす。
カラッと晴れ渡った、爽やかな青空のような音だ。
夏が近づくと、このひとのサックスを無性に聴きたくなる。
▶夕食後、『小津安二郎新発見』(講談社刊)をぱらぱらとめくる。
志賀直哉と一緒に写っている写真があって、志賀直哉のダンディーぶりに驚く。
▶今週末の競馬は、春競馬の締めくくり「宝塚記念」である。
もう勝ちはイクイノックスと決まっているのだ(なにしろ現時点で世界一強い馬なのだし)。
そして、G1馬が8頭も出走するレースには、穴馬など存在しないのだ。
穴党のわたしとしては、馬券的面白さはまったくない。
しかし、それで良いのだ。
世界一の馬の走りを、この目で見ることができる幸せをかみしめながら、春競馬を終わりたい。