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短編小説パラダイス #9 / マルセル・シュウォッブの『少年十字軍』

タイトル :少年十字軍

著者 : マルセル・シュウォッブ

収録短篇集 : 『少年十字軍』

訳者 : 多田智満子

出版社 : 王国社

少年十字軍 (海外ライブラリー)

少年十字軍 (海外ライブラリー)

 

マルセル・シュウォッブは、1905年に37歳の若さで世を去ったフランスの小説家。

「少年十字軍」は、かれの天才が存分に発揮された傑作。

 

★★★

 

西暦1212年、北フランスのロワール河流域ヴァンドーム地方と、ドイツのケルンに、まったく別々にではあるが、ほぼ時を同じくして、のちに“少年十字軍(Children's Crusade)”と呼ばれることになる集団が現れた。

フランスではエティエンヌという羊飼いの少年が神の啓示を得、リーダーとなって聖地エルサレムの奪還をめざし行進を開始した。これに賛同した各地の少年たちがエティエンヌのもとに集まり、その総数は3万人ちかくにのぼったと言われる。

“聖地奪還”といっても、かれらは何の武器も持たず丸腰であり、なにより平均年齢が13歳前後の少年たちである。ボロをまとっただけの少年たちが、ぞろぞろとエルサレムをめざしたのである。

親たちは、子供たちのこの異様な行動を必死になって止めようととしたが、止めることができず、事態を憂慮した国王も少年たちに帰宅を命じたが聞き入れるものは少なかった。

 

やがて彼らはマルセイユに到着する。

ここから七艘の船に分乗して聖地をめざした。

が、この輸送を請け負った回船業者は、少年たちの聖なる行動に感動して船を用意したわけではなかった…。

回漕業者の親玉は、少年たちをアレクサンドリアに連れ去り、そこで奴隷としてイスラム圏に売りとばしてしまったのである。

  

シュウォッブの短篇は、この中世の異様な史実を、当事者の少年たちをはじめ、乞食の僧侶、ローマ法王、癩者、回船業者の秘書、回教僧など、さまざまな立場の視点から語っていく。

歴史小説といった感じはなく、ぜんたいに美しい詩情が漂う。

 

 

★★★

 

収録短編集 『少年十字軍』 について

少年十字軍 (海外ライブラリー)

少年十字軍 (海外ライブラリー)

 

「黄金仮面の王」「大地炎上」「ペスト」「眠れる都市」「〇八一号列車」「リリス」「アヘンの扉」「卵物語」「少年十字軍」の9篇を収録。

シュオッブの作品が読める数少ない本のひとつ。

 

 

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この短編集に入っている「海と夕焼け」の語り手が、アンリ・エティエンヌである。三島の小説では、エティエンヌは奴隷として売られたあと、紆余曲折を経て、鎌倉の建長寺に流れ着いたことになっている。すでに信仰は捨てており、寺男として余生を生きている。

寺の裏山に上り、夕焼けに染まる海を眺めながら、アンリはマルセイユで奇跡を待っていたときのことを思い返す…。

三島由紀夫らしい端正な短編。