タイトル : 密猟者たち
著者 : トム・フランクリン
収録短編集 : 『密猟者たち』
- 作者: トムフランクリン,Tom Franklin,伏見威蕃
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2003/06
- メディア: 文庫
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トム・フランクリンは1963年生まれのアメリカの小説家。アラバマ州に生まれ、南部を舞台に良質な物語を描き続けている。これまでに発表した作品は、短編集が1冊に長篇が4冊とかなり寡作な作家。
「密猟者たち」は、1999年度のエドガー賞最優秀短編賞を受賞した傑作。ジャンルとしてはミステリーに分類されるのだろうが、そのような枠組みを超えた名品。
では、あらすじを。
★★★
ケント、ニール、ダンのゲイツ三兄弟は、アラバマの忘れ去られたような村に住み、森と川での密猟で生計をたてていた。自給自足の生活である。
両親はすでに亡く、長兄のケントが二十歳、野蛮を絵に描いたような兄弟で、文明のルールからは外れたところで生活をしている。法律などおかまいなしで、村の住人にとって、三人はめったに見かけない夜行性のぶっそうな存在だった。
彼らの生い立ちを知る村の人たちは、兄弟の行いを無視することにより、長らく彼らと共存してきたのである。
ある日、事件が起こる。
兄弟のことは無視するという暗黙のルールを知らない新人の狩猟監視官が、彼らの密猟の現場に出くわしてしまったのだ。
興奮して銃を取り出した狩猟監視官は、逆に兄弟たちによって殺されてしまう。
事件は州都に報告され、伝説の(いまや神話となりつつある)狩猟監視官フランク・デイヴィッドが登場し、三兄弟との死闘が始まる…。
文明とは隔絶したような土地で行われる闘いが、とても静かで、怖い。
フランク・デイヴィッドが、三兄弟をじわじわと追いつめていくのだが、それに立ち向かうのが、三兄弟の育ての親とも言うべき、雑貨屋の店主カークシイである。
しかし、カークシイも癌を患っており死期がまじかに迫っている。ボロボロの身体で、はたして凄腕の狩猟監視官に勝つことはできるのか?
ケレン味のある作家なら、ここでカークシイに思わぬ手を使わせて勝利させるのだろうが、トム・フランクリンは、そういう作家ではない。
カークシイがフランクに戦いを挑む場面は、幻想的とも言えるほど静かで、深い悲しみが漂っている。
ピックアップの車内から、カークシイは、フランク・デイヴィッドが納屋を出て、木立に向かうのを見守った。どろどろの水溜りをよけるのを見ていた。もう、ぼんやりとがに股の白髪の男が見えているだけだ。カークシイは、いっぽうの手で背後を探り、二二口径を取りながら、もういっぽうの手で窓をあけた。腕がふるえ、狙いをつけるのが難しかった。槓桿(こうかん)を引いた。安全装置をはずした。フランク・デイヴィッドの肩のあいだでライフルの照星が揺れた。年寄りの店主などなにが怖いものかというように歩いていた。
目を閉じて、カークシイは引き金を絞った。
闘いが終わったあとも、残された人たちの人生は続いて行く。
それを記した最後の一頁は、何度も読み返したくなるほど深く感動的である。
★★★
◆収録短編集 『密猟者たち』 について
- 作者: トムフランクリン,Tom Franklin,伏見威蕃
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2003/06
- メディア: 文庫
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「グリット」「シュブータ」「トライアスロン」「青い馬」「デュアン・ファレスのバラード」「小さな過去」「ダイノソア」「衝動」「アラスカ」「密猟者たち」の10編を収録。
いずれもアメリカ南部を舞台にした物語性豊かな作品ばかり。なによりも、自らの少年時代を回想した序文が素晴らしく、これだけでも読む価値がある。もっとも、序文を読んじゃうと後の短篇も読みたくなるんだけど。
◆こちらも、おすすめ
◇『ねじれた文字、ねじれた路 / トム・フランクリン』(早川書房)
ともに過去に傷をもつふたりの中年男の、贖罪と再生の物語。
最初の数ページを読んだだけで、素晴らしい物語の予感がする。そして、その予感は見事に的中する。
2011年の英国ゴールド・ダガー賞受賞作。
◇『たとえ傾いた世界でも / トム・フランクリン』(早川書房)
- 作者: トムフランクリン,ベス・アンフェンリイ,Tom Franklin,Beth Ann Fennelly,伏見威蕃
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2014/08/08
- メディア: 単行本
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妻のベス・アン・フェンリイとの共著。
1927年のミシシッピ大洪水を背景に、出会うべきではなかった男と女の物語が語られる。
◇『ミステリアス・ショーケース』(早川書房)
- 作者: デイヴィッド・ゴードン,ニック・ピゾラット,トム・フランクリン,スティーヴ・ハミルトン,ダグ・アリン,トマス・H・クック,デイヴィッド・ベニオフ,ベス・アン・フェンリイ,早川書房編集部,田口俊樹,伏見威蕃,越前敏弥,東野さやか,青木千鶴,冨永和子,府川由美恵
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/03/09
- メディア: 単行本
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「たとえ傾いた世界でも」の元となった短篇「彼の両手がずっと待っていたもの」が収録されている。
その他には、「ぼくがしようとしてきたこと / D・ゴードン」「クイーンズのヴァンパイア / D・ゴードン」「この場所と黄海のあいだ / N・ピゾラット」「悪魔がオレホヴォにやってくる / D・ベニオフ」「四人目の空席 / S・ハミルトン」「彼女がくれたもの / T・H・クック」「ライラックの香り / D・アリン」 の全8編を収録。
2011年度のエドガー賞最優秀短編賞を受賞した、ダグ・アリンの「ライラックの香り」も素晴らしい。