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短編小説パラダイス #2 / トム・フランクリンの『密猟者たち』

 

タイトル : 密猟者たち

著者 : トム・フランクリン

収録短編集 : 『密猟者たち』

密猟者たち (創元コンテンポラリ)

密猟者たち (創元コンテンポラリ)

 

 トム・フランクリンは1963年生まれのアメリカの小説家。アラバマ州に生まれ、南部を舞台に良質な物語を描き続けている。これまでに発表した作品は、短編集が1冊に長篇が4冊とかなり寡作な作家。

 「密猟者たち」は、1999年度のエドガー賞最優秀短編賞を受賞した傑作。ジャンルとしてはミステリーに分類されるのだろうが、そのような枠組みを超えた名品。

では、あらすじを。

 

 

★★★

 

 ケント、ニール、ダンのゲイツ三兄弟は、アラバマの忘れ去られたような村に住み、森と川での密猟で生計をたてていた。自給自足の生活である。

 両親はすでに亡く、長兄のケントが二十歳、野蛮を絵に描いたような兄弟で、文明のルールからは外れたところで生活をしている。法律などおかまいなしで、村の住人にとって、三人はめったに見かけない夜行性のぶっそうな存在だった。

 彼らの生い立ちを知る村の人たちは、兄弟の行いを無視することにより、長らく彼らと共存してきたのである。

 

 ある日、事件が起こる。

 兄弟のことは無視するという暗黙のルールを知らない新人の狩猟監視官が、彼らの密猟の現場に出くわしてしまったのだ。

 興奮して銃を取り出した狩猟監視官は、逆に兄弟たちによって殺されてしまう。

 事件は州都に報告され、伝説の(いまや神話となりつつある)狩猟監視官フランク・デイヴィッドが登場し、三兄弟との死闘が始まる…。

 

 文明とは隔絶したような土地で行われる闘いが、とても静かで、怖い。

 フランク・デイヴィッドが、三兄弟をじわじわと追いつめていくのだが、それに立ち向かうのが、三兄弟の育ての親とも言うべき、雑貨屋の店主カークシイである。

 しかし、カークシイも癌を患っており死期がまじかに迫っている。ボロボロの身体で、はたして凄腕の狩猟監視官に勝つことはできるのか?

 

 ケレン味のある作家なら、ここでカークシイに思わぬ手を使わせて勝利させるのだろうが、トム・フランクリンは、そういう作家ではない。

 カークシイがフランクに戦いを挑む場面は、幻想的とも言えるほど静かで、深い悲しみが漂っている。

 

 ピックアップの車内から、カークシイは、フランク・デイヴィッドが納屋を出て、木立に向かうのを見守った。どろどろの水溜りをよけるのを見ていた。もう、ぼんやりとがに股の白髪の男が見えているだけだ。カークシイは、いっぽうの手で背後を探り、二二口径を取りながら、もういっぽうの手で窓をあけた。腕がふるえ、狙いをつけるのが難しかった。槓桿(こうかん)を引いた。安全装置をはずした。フランク・デイヴィッドの肩のあいだでライフルの照星が揺れた。年寄りの店主などなにが怖いものかというように歩いていた。

 目を閉じて、カークシイは引き金を絞った。 

 

 闘いが終わったあとも、残された人たちの人生は続いて行く。

 それを記した最後の一頁は、何度も読み返したくなるほど深く感動的である。

 

★★★

 

収録短編集 『密猟者たち』 について

密猟者たち (創元コンテンポラリ)

密猟者たち (創元コンテンポラリ)

 

 「グリット」「シュブータ」「トライアスロン」「青い馬」「デュアン・ファレスのバラード」「小さな過去」「ダイノソア」「衝動」「アラスカ」「密猟者たち」の10編を収録。

 いずれもアメリカ南部を舞台にした物語性豊かな作品ばかり。なによりも、自らの少年時代を回想した序文が素晴らしく、これだけでも読む価値がある。もっとも、序文を読んじゃうと後の短篇も読みたくなるんだけど。

 

 

こちらも、おすすめ

『ねじれた文字、ねじれた路 / トム・フランクリン』(早川書房

ねじれた文字、ねじれた路 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

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 ともに過去に傷をもつふたりの中年男の、贖罪と再生の物語。

 最初の数ページを読んだだけで、素晴らしい物語の予感がする。そして、その予感は見事に的中する。

 2011年の英国ゴールド・ダガー賞受賞作。

 

 

『たとえ傾いた世界でも / トム・フランクリン』早川書房

たとえ傾いた世界でも (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

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 妻のベス・アン・フェンリイとの共著。

 1927年のミシシッピ大洪水を背景に、出会うべきではなかった男と女の物語が語られる。

 

 

『ミステリアス・ショーケース』早川書房

ミステリアス・ショーケース (ハヤカワ・ミステリ)

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 「たとえ傾いた世界でも」の元となった短篇「彼の両手がずっと待っていたもの」が収録されている。

 その他には、「ぼくがしようとしてきたこと / D・ゴードン」「クイーンズのヴァンパイア / D・ゴードン」「この場所と黄海のあいだ / N・ピゾラット」「悪魔がオレホヴォにやってくる / D・ベニオフ」「四人目の空席 / S・ハミルトン」「彼女がくれたもの / T・H・クック」「ライラックの香り / D・アリン」 の全8編を収録。

 2011年度のエドガー賞最優秀短編賞を受賞した、ダグ・アリンの「ライラックの香り」も素晴らしい。