▶ひとつの映画のオリジナル版とリメイク版を観比べてみる。
まずは、名作『パピヨン』。
オリジナル版
1973年制作のフランス映画(フランス資本のハリウッド映画)。
脚本:ダルトン・トランボ
映画には、誰にも文句を言わせないほどの傑作が何本か存在するが、この『パピヨン』も、間違いなくそのひとつである(キッパリ!)。
身に覚えのない殺人の罪で南米ギアナの刑務所におくられるパピヨン(胸に蝶のタトゥーがある)と、天才的な贋金作りのドガ(ダスティン・ホフマン)。
失敗しても失敗しても、自由を求めてなんども脱獄を繰り返すパピヨンの行動が物語の主軸だが、それに絡むドガとの友情物語でもある。
もしふたりの間の友情が描かれてなかったとしたら、この映画は、これほどの傑作にはならずに、よく出来たアクション映画のひとつで終わっていたはずだ(キッパリ!)。
ちなみに原作では、ドガという人物は刑務所仲間のひとりとして出てくるだけで、すぐに消えてしまう(原作読んでがっかりしたわ)。
それを、パピヨンと同等の相棒として描いたところは、さすが名脚本家ダルトン・トランボ。
そして、なによりS・マックイーンとD・ホフマンの演技の凄さよ。
若い頃は、マックイーンかっけーと思いながら観ていたが、何回も観ているうちにダスティン・ホフマンの凄さに感嘆するようになった。
撮影とうじ30代半ばなのに、すでにいぶし銀感が凄い。
この傑作をまだ観てなくて、観るかどうするか迷っているひとがいたら、「観ろ!迷わず観ろ!」と耳元で100回くらい叫びたい。
リメイク版
2017年制作のアメリカ映画。
監督:マイケル・ノアー
脚本:アーロン・グジコウスキ
『パピヨン』がリメイクされると聞いたとき、マジかよ!って思った。
映画の中には、リメイクしたらいけいな映画ってのがあるんじゃないのか?
監督のマイケル・ノアーって誰だよ?
オリジナルが大傑作なんだから、どう頑張ってもしょぼい作品になるに決まってるじゃないか!
だいたいS・マックイーンとD・ホフマンに匹敵する役者がいるのかよ?
もうね、否定的な考えばかりが頭に浮かびましたね。
で、観てみた、リメイク版『パピヨン』。
これは、オリジナル版を観てるかどうかで評価はかなり違うなぁ。
観てなければ、これはこれで “あり” じゃないか。
ストーリーはそのままなので、素直に感動すると思う。
が、先にオリジナル版を観てると、違いがかなり目についてしまって、どうしても低評価になってしまう。
まず、劣悪な環境の刑務所とか、南米ギアナのジャングルとか、食器などの小物とか、すべてがきれいなので驚く。
こざっぱりとしてると言うか、オリジナル版を観たあとで、リメイク版の刑務所をみると、「おっ、意外にきれいなとこじゃん」とか思ってしまう。
オリジナル版にあふれていた、汗とか血とか糞尿の匂いを、きれいにぬぐった感じ。
主演のふたりからも汗臭い匂いは漂ってこなかった。
現代では、そういうキツイ部分はきれいにしないとダメなのかも知れない。
ハンセン病の長老と会うシーンは、まるごとカットされてたし。
で、これは言ってもしょうがないことだけど、やはり役者の技量(巧さ)が違い過ぎる(こういうことを言うと軽く老人臭が漂うのは承知している)。
ダスティン・ホフマンが演じるドガは、途中からもはやドガ以外の何者でもなくて、D・ホフマンの存在など感じさせないのだが、ラミ・マレックの演じるドガは、最後までラミ・マレックの演じるドガで、「ラミ・マレック、けっこう巧いな」とか思ってしまっていて、そういうところにD・ホフマンの凄さを感じてしまう(言ってることわかるかなぁ…)。
とくにラストシーン。
D・ホフマンのドガは、人生に対する諦念のようなものを体ぜんたいに漂わせていて、ドガの最後の台詞を聞く前から、観てるひとにはその台詞が想像できるくらいなのだが、ラミ・マレックのドガは、疲れは感じさせるがそれが諦めまでには至っていないというか、まだまだ元気なんだよねぇ。
あらためてダスティン・ホフマン巧いなあって思った。
マックイーンのパピヨンとは、また別の魅力があったような気がする。
マックイーンよりかなり陽性な感じがして、これはこれで好き。
でも、このリメイク版をさいしょに観て、それから翻ってオリジナル版を観たりするだろうか?
おそらく、大半のひとがこのリメイク版で満足してしまうのではないか。
それくらいには、面白いのだ。
オリジナル版を愛するものとしては、少しかなしいことだけど。
リメイク版は、時として、オリジナル版への道を閉ざしたりするのかも知れない。