単純な生活

映画・音楽・読書について、だらだらと書いている

『タッチ・オブ・スパイス』(2003)を観る

 

▶『タッチ・オブ・スパイス』を観る。

2003年制作のギリシャ映画。

 

 

この映画を観るにあたって、おさえておくべき歴史的事実はひとつだけだ。

ギリシャとトルコは、めっちゃ仲が悪い!」

これだけで良い。

なぜ仲が悪いの?って疑問の答えは、歴史的、宗教的、地理的にいろいろあって、日本人にはちょっとわけがわからないとこがある。

なので、そういう難しいところは、すべてスルーで。

とにかく、ギリシャとトルコは、仲が悪いのだ。

 

舞台は、1960年代、トルコのイスタンブール(この映画はギリシャ映画なので、都市の名前もコンスタンティノープルとなっている)。

少年ファニスは、スパイス屋を営む祖父ヴァシリスの家で家族とともに幸せに暮らしている。

少し俗物の父、料理好きの母、ときどき新製品の電化製品(ミキサーとか)を持って現れる船乗りの伯父さん、などなど、賑やかで幸せな一族だ。

週末には一族が集まり、食卓を囲む。

テーブルに並ぶのは、どれもスパイスの効いたギリシャ料理

女性たちが台所でわいわい言いながら作った料理の数々。

 

ヴァシリスお爺ちゃんは、いろんなことをスパイスに絡めて教えてくれる。

空の星のこと、人のこころ、世界のこと…。

お爺ちゃんの、どこか哲学的な言葉がファニスのこころに沁み込んでいく。

そして、初恋の少女サイメ…。

ダンスの上手なサイメといるだけで、ファニスは幸せだった。

 

しかし、そんな幸せな時間も、やがて終わる。

ファニスの知らないところで、ギリシャとトルコは争い、トルコ国籍をもたないギリシャ人たちは財産没収のうえ国外退去処分となってしまう。

ファニスは父母と一緒にアテネに渡り、祖父のヴァシリスとサイメは、コンスタンティノープルに残ることになる…。

 

時は経ち、2004年、ファニスは天文学者となり、アテネで暮らしている。

そんなファニスのところに、コンスタンティノープルから祖父ヴァシリスが訪ねて来るという知らせが入る。

ファニスは、紛争で家族とともにトルコを離れて以来、いちども祖父とは会っていないのだ。

もちろんサイメとも。

 

得意の料理をいくつも作り、ヴァシリスの古い友人たちと祖父の訪問を待っていた時に、電話が鳴る。

“食事の前の電話の音は、平和なひとときを打ち砕く”

悪い知らせだった。

アテネに来るはずの祖父が倒れて入院したのだ。

ファニスは、祖父を見舞うため、何十年ぶりかでコンスタンティノープルの地を踏む…。

 

映画は、天文学者になったファニスが、祖父入院の知らせを受けるところから始まる。

そこから、現在と過去を行き来しながら、紛争の時代を生きたギリシャ人の悲劇を描いていく。

が、けして重くはない。

とくにアテネでのファニスの少年時代は、観ていて楽しくなるエピソードばかりだ。

ままごとが大好きなファニスと、マッチョに教育したい両親の争い(「ままごとばかりしてると変態になるわよ!」)とか…、売春宿の女将に気に入られたあげく補導されてしまうファニスとか…、祖父のいるコンスタンティノープルに行こうと家出して列車のなかで寝てしまって車掌に見つかるファニスとか…。

ギリシャの軍事クーデターも、さらっと描写されて終わる。

 

コンスタンティノープルに帰ったファニスは、自らの過去と向き合うことになる。

病に倒れた祖父ヴァシリス。

そして、すでに人妻となっているサイメとの再会…。

 

ラスト、スパイスが舞い、そこに宇宙が現れるラストは感動的だ。

 


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どうしても、かの『ニュー・シネマ・パラダイス』と比べてしまうが、わたしは、こちらの方が過去と現在の描き方のバランスが良いように思えた。

大人になってからの主人公にも好感が持てると言うかね(シネパラの方はあまり好きではない)。

 

良い映画です。

 

 

 

▶ Beirut の『Gulag Orkestar』(2006)を聴く。

 

Gulag Orkestar

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むかしジャケ買いしたアルバム。

Spotifi や Amazon Prime Music など、サブスクで音楽を聴くようになってから、ジャケ買いってしなくなったなぁ…。

これは(おそらく)デビュー・アルバム。

不思議な音だ。

 


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トランペットとヴォーカルってのが、なんかおかしく、独特なユーモアが漂ってくる。

こういう音楽は、無条件で好きだ。

 


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▶ 腰痛がひどくて、GWはずっと寝て過ごしている。

わたしは、寝床では本が読めないので(すぐに寝てしまう…)、もっぱら Netflix や Prime Video で映画を観ている。

ただし、新作は、集中しないとストーリーが頭に入ってこないので、いささか辛く(腰痛がひどいと集中力はなくなるのだ)、けっきょく何回も観ている古い映画か、TVドラマを観ている。

これならぼんやりと観ていられるし、寝落ちしても大丈夫だ。

 

と言うわけで、今日は朝からずっと『スタートレック:The Next Generation』を観ている。

 

それにしてもベタゾイド星人ディアナ・トロイのおっぱい強調はいかがなものか。

あれではライカー副艦長がむらむらするのも無理はない。

しかもベタゾイド星人は、テレパシー能力でひとのこころが読めるので、ライカー副艦長のむらむらも読めてしまうわけでね。

なかなか罪深い女だわ、ディアナ・トロイ。

まっ、将来結婚することになるので、べつに良いのだが。

 

スタートレック・ファン以外には、なんのことやら。

 

 

 

 

『AWAKE』(2019)を観る

 

▶『AWAKE』を観る。

2019年制作の日本映画。

 

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AI将棋とプロ棋士の闘いを描いた作品。

ざっくりすぎる説明だけど。

 

いやあ、面白かった!

 

主人公の英一(吉沢亮)は現在大学生、AI研究部みたいなところに入って将棋ソフトのプログラミングに没頭している。

かつては将棋の奨励会に所属してプロ棋士を目指していたが、同世代の陸(若葉竜也)の圧倒的な強さと才能に屈して、プロ棋士の道を諦めた過去を持つ。

大学に入ってからも、将棋以外なにもやってこなかった英一は、陰キャラオーラ全開で浮きまくり、孤独な学生生活を送っていた。

たまたま父親がやっていた将棋ゲームの強さに驚き、大学のAI研究サークルに入り、将棋ソフトの開発に没頭するようになる。

 

やがて、自らが開発した最強の将棋ソフト「AWAKE」とともに、英一は将棋の世界に戻って来る。

闘う相手は、かつて自分にプロ棋士への道を諦めさせた男、陸である。

 

ほぼ実話。

じっさいの対局は、ニコニコ動画で生配信された。

(わたし、当時この対局をみたくてニコ動に会員登録しました)

その頃すでに、「AWAKE」の弱点はマニアの間では知れわたっていて、注目は、相手棋士(映画では陸、じっさいは阿久津主税)が、そしてAWAKEが、その手を指すかどうかだった。

映画も、対局の場面では、そこをメインに据えている。

結末を知っていてもドキドキする。

 

吉沢亮が良いねぇ。

超絶二枚目なんだけど、陰キャラのオタク。

ツィッターに、陰キャラは吉沢亮になれないのに、吉沢亮陰キャラになれるのズルイ、っ書き込みがあって笑った)

わたし、さいきんの日本の若手俳優の顔をまったく覚えられないのだけど、吉沢亮は憶えました。

なんならファンになりました。

まっ、この映画しか知らないのだけど。

 

人間関係の部分には深く入り込んでないところも、良かった。

英一は、父子家庭で育っているのだが、なぜ父子家庭なのかは最後まで語られない。

父親(中村まこと)との交流も最低限の描写だけど、親子の愛情の部分はきっちおさえている。

コンピュータvs人間というメインテーマと、それを邪魔しない程度の人間関係描写。

バランスの良い映画だと思った。

 

ラストも良い。

まあ、ちょっと作り過ぎな感じはあるが、終わり方としては爽やかで良い。

気分の良くなる映画だ。

 

将棋がまったくわからなくても楽しめる。

おすすめ。

 

 

 

Karen Dalton の『In My Own Time』(1971)を聴く。

 

In My Own Time

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1937年にアメリカ・オクラホマ州で生まれ、1993年ニューヨークの片隅で生涯を終えたフォーク・シンガー。

ボブ・ディランも魅了されたというそのヴォーカルは、いちど聴くと忘れられなくなる。

少しかすれた、ブルージーナ歌声が12弦ギターの音と重なり、どくとくの世界を見せてくれる。

 

アルバム冒頭の曲。

 


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アーティストのなかには、「死なないと有名になれない呪い」をかけられたひとが、たまにいるよね。

カレン・ダルトンも、そういう呪いをかけられたひとのひとりだ。

 

 

 

▶カレン・ダルトンの歌声を聴きながら、ソール・ライターの写真集を眺める。

 

ソール・ライターのすべて

ソール・ライターのすべて

 

 

私が写真を撮るのは自宅の周辺だ。

神秘的なことは馴染み深い場所で起きると思っている。

なにも、世界の裏側まで行く必要はないんだ。

 

見ていて飽きない。

 

 

 

▶雨の休日。

雨降りだと、腰が痛い。

ジジイかよ。

あっ、ジジイだったわ “笑”。

 

『500ページの夢の束』(2017)を観る

 

▶『500ページの夢の束』を観る。

2017年制作のアメリカ映画。

 

500ページの夢の束(字幕版)

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主人公は、ウェンディ、21歳、自閉症

母親が亡くなったあと、姉と離れて施設で暮らしている。

毎日、決められた行動をとる。

決まった行動以外は、彼女にとっては極度のストレスとなる。

 

昼間は、シナボンシナモンロール専門店、日本にもあるね)で働き、夜は脚本を書いている。

スタートレック」の新作だ。

 

書き上げたら、「スタートレック・新作脚本コンクール」に応募する予定。

受賞して、賞金が入ったら、そのお金で家を買って姉と暮らすのだ。

それが、彼女の秘かな夢であり、計画である。

 

さて、脚本(500ページの大作)を書き上げてはみたものの、郵送していたのでは締め切りに間に合わないことがわかる。

ウェンディは直接手渡しに行くことに決める。

施設とシナボンの往復以外ほとんどしたことがない彼女が、遠くLAまで行くことを決心する。

勝手にトコトコついてきたチワワ犬のピートをバッグに入れて、ウェンディの旅が始まる…。

ハリウッドは、数百キロ先である。

 

バスに乗ることすら、彼女にとっては大変なことだ。

まったく乗ったことがないLA行のバス。

チケットを買うことすら、運転手に教えてもらわないとわからないのだ。

しかし、ウェンディは歩みを止めようとはしない。

様々な困難に遭遇しながら、一歩ずつ夢に近づいて行く。

 

ウェンディは、スタートレックのガチのファン、いわゆるトレッキアンである。

スタートレックに関する知識がハンパないのだ。

ざっくりと説明しておくと、スタートレックは1966年にアメリカでTV放映が開始されたSFドラマ。

惑星連邦宇宙艦隊に所属する宇宙船エンタープライズ号の冒険を描く。

いまなお新作が作られ続けている人気シリーズである。

 

スタートレックには、ミスター・スポックという特異なキャラクターが登場する。

バルカン星人と地球人のハーフである。

バルカン星人は、感情を持たない。

“感情”こそが災いのもとであるとして、これを抑え込みコントロールすることに成功した種族なのである。

常に論理性を重んじるため、感情でものごとを判断しがちな人間とは、ときに軋轢を生じる。

ユーモアも解さないし、怒りも恐怖も感じない。

ただし、スポックは地球人とのハーフであるため、自己の中の“感情”に悩むことにもなる。

 

ウェンディの書き上げた脚本の主人公は、このスポックである。

彼女の脚本では、ラスト、スポックは“感情”を理解することになっている。

ユーモアもわかるようになる。

これは、ウェンディの願いでもあるのだろう。

 

施設の長であるスコッティと息子のサムが、失踪したウェンディのあとを追う。

その車中でのふたりの会話。

 

スコッティ「コンテストの脚本を届けにLAに向かったらしい」

サム「それで脚本の出来は?」

スコッティ「分からなくて」

サム「何がだよ」

スコッティ「OK。そもそもスターウォーズの“カーク”って何者?」

サム「(呆れ果てた表情で)車をぶつけて、一緒に死のう」

スコッティ「サム!」

サム「まず、(スターウォーズじゃなく)“スター・トレック” ね。ジェームズ・T・カークはエンタープライズ号の船長」

スコッティ「彼らが乗っている宇宙船ね」

サム「そのとおり、よくできましたママ」

スコッティ「……何にそこまで惹かれるの?」

サム「登場人物かな」

スコッティ「つまり…」

サム「たとえば、スポックは人間と異星人のハーフで “感情” に手を焼いている」

 

 驚いた表情のスコッティ。

ここでウェンディとスポックが結びつく。

スポックの悩みは、ウェンディの悩みでもあるのだ。

 

 

はたして、彼女は、自らの夢を託した脚本を、無事届けることができるのか?

 

主演のダコタ・ファニングが魅力的。

チワワ犬のピートも可愛い。

悪人も少し出てくるが、ほぼ善い人ばかり。

ラストも、とうぜんバッドエンディングではなく、気持良く終わる。

好きだわ、こういう映画。

 

では、長寿と繁栄を。

 

 

 

Rickie Lee Jones の『Rickie Lee Jones』(1979)を聴く。

 

 

日本版のCDだと、ジャケット写真が反転していて、リッキーは右を向いている。

謎だ。

 

それにしても、かっこいい。

トム・ウェイツが惚れるのもわかります。

 

さいきんのリッキー姐さん。

 


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▶緊急事態宣言は出されたけど、街は普通に賑わっている。

電車も、べつに空いてないし。

みんな、なるようになれって感じなのかな。

 

 

 

 

『放浪の画家ピロスマニ』(1969)を観る

 

▶『放浪の画家 ピロスマニ』を観る。

 1969年制作のグルジア映画。

 

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孤高の画家ニコ・ピロスマニの半生を描いた伝記映画。

 

ピロスマニは、現在ではジョージアグルジア)の国民的画家として愛されているが、生前には富も名声も得ることはなく、正当な評価も受けないまま、56歳で貧困のうちに世を去っている。

 

田舎から街に出てきて、商売を始めるも人付き合いの下手さから上手くいかず、けっきょくは街の酒場を渡り歩きながら、生涯絵だけを描いて暮らした。

 


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 映画はほとんどが引きの絵で、アップはない。

画面ひとつひとつが、まるでピロスマニが残した絵のように美しく、ときどきホーッとため息をついてしまう。

 

画面から伝わってくるグルジアの空気感がすごい。

日本や中国の風景とは違う、乾いた孤独感のようなもの。

映画のなかでときおり聞こえる生活音が、アジアのそれとはあきらかに違う。

椅子を引く音、食器のたてる音、ワインをそそぐ音、ひとが歩く音、ドアの開け閉めの音…すべてが、どこか乾いていてる。

乾いているのに、温かい。

アジアの映画から聞こえてくる生活音は、かならずではないにしろ雑音がいっしょに聞こえてくるが、この映画から聞こえてくる生活音には、その雑音がない。

ひとつひとつの音が、その音のみで存在している感じ。

静かで、孤独で、しかし温かい。

こういう空気感のなかから、ピロスマニの絵は生まれたんだな、と勝手に思う。

 

ちなみに、この『放浪の画家ピロスマニ』が公開された1969年、遠くアメリカでは、『真夜中のカーボーイ』『イージー・ライダー』『明日に向かって撃て!』『ワイルド・バンチ』が公開されている。

アメリカン・ニューシネマの幕開け。

そして、シャロン・テートが無惨に殺害された年。

とても同じ時代に作られた映画とは思えない。

 

観終わったあと明るい気分になれる映画ではないが、ときおり無性に観たくなる。

 

 

 

 

▶ Tanita Tikaram(タニタ・ティカラム)の『ACOUSTIC』(2018)を聴く。

 

Tanita Tikaram (Acoustic)

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代表曲をアコースティック・バージョンで再録。

声が好き。

デビューから30年、地味だけど息の長いシンガー。

 

いちばん有名な曲のミュージックビデオ。

 


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その曲の弾き語り。

 


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サフランの、小さいけど大物って感じが、なんか良い。

 

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『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』(2013)を観る

▶『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』を観る。

2013年制作のアメリカ映画。

ドキュメンタリー。

 

ヴィヴィアン・マイヤーを探して [DVD]

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2007年、シカゴに暮らす青年ジョン・マルーフは、地元のオークションで、大量のネガフィルムが入った箱を落札する。

撮影者の名前は、ヴィヴィアン・マイヤー。

ネットで、調べてもまったくヒットしない。

無名のまま亡くなったカメラマンか、ジャーナリストなのかも知れない。

ジョンが、ネガをスキャンし、試しにネットで公開してみると、その素晴らしさに世界中から賞賛の声がよせられる。

これほどの写真を撮ったひとが、なぜ無名のままだったのか…?

 

ジョンは、箱の中から住所と電話番号が書かれたメモを見つける。

電話をかけると、男性が出て来た。

「ヴィヴィアン・マイヤーと言うひとをご存じですか?」と質問すると、意外な答えが返ってくる。

「ああ、知ってる。ぼくの乳母だったひとだ」

 

乳母?

カメラマンではなく、ジャーナリストでもなく、ただの乳母?

 

ヴィヴィアンは、驚異の溜め込み魔だった。

服、帽子、還付金の案内状、抜けた歯などなど、あらゆる物が貸倉庫に遺されていた。

そして倉庫からは、かなりの数の未現像のフィルムも発見される。

 

しかし、ヴィヴィアン・マイヤーに関しては、依然として謎のままだった。

どうして乳母に、あんな素晴らしい写真が撮れたのか?

なぜ、これほど大量の写真を撮ったのか?

しかも、なぜ1枚も発表しなかったのか?

こうして、ジョンのヴィヴィアンの生涯を追う旅が始まる…。

 

とにかく、ヴィヴィアン・マイヤーの撮った写真が、どれもみな素晴らしい。

シカゴに生きた人々の喜怒哀楽が見事に撮られている。

誰であろうと、写真を見たひとは、これが乳母として生涯を生きた、いわば素人写真家の作品だとは思わないだろう。

素晴らしい芸術作品だけが持つ、人の魂の奥底を撃つ魅力が、彼女の写真にはある。

 

ジョンの調査によって、生前のヴィヴィアンの姿が徐々に現れてくる。

その過程は、良質のサスペンス映画を観ているようで、わくわくする。

彼女の生涯が明らかになったとき、われわれは、彼女の写真に込められている魅力が、彼女自身にもそなわっていたことを知る。

 

良質のドキュメンタリー作品。

第87回アカデミー賞ノミネート。

 

 

 

John Lennon の『Walls and Bridges』(1974)を聴く。

 

 

ジョンのアルバムのなかでは、いちばんよく聴く作品。

最初に聴いたのは、高校1年のとき。

とうじのFM放送には、アルバムを1枚まるごと流すという無茶な番組がいくつかあって、それで聴いた記憶がある。

もちろんカセット・テープにエアチェック(死語か?)だ。

その後、このアルバムからシングルカットされた「Whatever Gets You Thru The Night」(真夜中を突っ走れ)が大ヒットした。

 

あれ、アルバムより先にシングル盤が先行発売されたのだったかな?

石田豊さん(NHKのアナウンサー)がMCをつとめるリクエスト番組で、この曲がチャートを上がっていったのは憶えているのだが。

まあ、どちらでも良いのだが、老人はちいさいことが気になるのだ “笑”。

 


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アルバムの白眉は、なんと言っても「Steel and Glass」だ。

Aloe Blacc によるカヴァー。

 


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▶天気が良いので、ペットの亀を日向ぼっこさせる。

 

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5年ほど前、散歩していたら500円玉より少し大きめの変わった形の小石が落ちていて、なんだろうと拾ったらコイツだったのだ。

ポイと捨てるわけにもいかず、そのまま家に持ち帰って飼い始めた。

いまでは、体長が12cmくらいあり、かなり重い。

浦島太郎のような恩返しを期待しているのだが、今日の競馬もはずれたくらいなので、いまだに恩返しはされてない模様。

あっ、わたしの希望は、もちろん世界平和なんですけどね。

しかし、まあ、来週の天皇賞を当てさせてくれても文句は言わん。

そういう小さいところからコツコツと、恩返しを頼むよ。

平成ガメラ3部作を観る

▶1本目:『ガメラ 大怪獣空中決戦』(1995)

 

 

昭和時代、ゴジラと人気を二分したガメラ

制作会社の大映が倒産し、徳間グループの傘下に入ってから作られたのが、いわゆる「平成三部作」である。

 

大量のプルトニウム海上輸送していた輸送船が、水深3000mの海域で座礁事故を起こす。

輸送船を護衛していた海上保安庁巡視船の乗組員米森(伊原剛志)は、輸送船が乗り上げた環礁が移動し始めたことに驚愕する。

その頃、鳥類学者の長峰真弓(中山忍)は、五島列島姫神島で巨大な怪鳥と遭遇していた。

ガメラとギャオスだ。

 

まず、良いところから。

怪獣出現を、国家規模の災害ととらえる視点がちゃんとある。

これは、例の「シン・ゴジラ」よりはるかに早いですね。

ガメラやギャオスのような大怪獣がじっさいに現れた場合、いったい日本はどうなるのか?という疑問を曖昧にしていない。

日本政府の対応、海外の反応、自衛隊の動き、経済や生活への影響、マスコミ報道の問題点、などなど、すべての問題を、完ぺきとはいわないまでも真摯に描こうとしている。

これは、それまでの怪獣特撮映画にはなかった視点ではないか。

そしてなにより、なぜガメラとギャオスが日本に出現したのか? そもそもガメラとギャオスとは何者なのか? という大きな疑問にきっちりと答えているのだ。

 

特撮も素晴らしい。

建物の崩壊シーンと、ガメラとギャオスの空中戦には作り物感を強く感じるけど、真っ二つになった東京タワーの上に巣を作るギャオスの逆光ショットは、怪獣映画史に残る名場面だと思う。

 

残念なのは、役者の演技だ。

とくに主役の藤谷文子がひどい。

せっかくの良くできたシナリオが、彼女の大根演技で現実感を失いボロボロである。

怪獣映画なんて、そもそもが絵空事なので、俳優の演技がちゃんとしてないと、とても空虚なものになってしまう。

もう少しどうにかならなかったのか…。

 

しかし、この第1作に続く、2と3が傑作なのである。

ここは、彼女のひどい演技には目をつぶって観てもらいたい。

『大怪獣空中決戦』で提示された世界観に沿って、2作目の『レギオン襲来』、3作目の『邪神イリス覚醒』が作られているので、これを観ないことには始まらないのだ。

 

 

 

▶2本目:『ガメラ2 レギオン襲来』(1996)

 

 

 傑作である。

この第2作と続く第3作の存在によって、平成版ガメラは、いまなお語り継がれるような怪獣映画の傑作となったのだ。

 

宇宙から飛来した謎の生命体レギオン(聖書から名前がつけられる)。

共生している巨大な宇宙植物とともに地球で繁殖を開始しようとする。

そこへ現れる我らがガメラ

ガメラは、爆発することによって種子を飛ばそうとしている宇宙植物を、いともかんたんに破壊してしまう。

そりゃあ怒りますよね、レギオン

で、こいつがやばいくらい強い。

ガメラも危うい状況に…。

 

 

これも、まず良いところから。

何と言っても特撮の凄さだ。

第1作目とは雲泥の差と言っても良い。

(もちろん1作目がダメってことではない)

とくにガメラの重量感!

街中をゆっくりと進むガメラのリアル感が凄い!

前足を翼に変形させて飛行する姿もかっこいいぞ!

しかもCGじゃなく、ほとんどがミニチュアで撮ってるってのが凄い!

建物が破壊されるときのリアル感もグッド!

前作と同じく外光を使っての撮影が、ジオラマのリアル感をあげている!

自衛隊の全面協力のもと、本物の戦車を使った陸地戦の迫力も凄い!

宇宙生命体レギオンの造形も、冷たい感じがしてわたしは好きだ!

 

いかん、びっくりマークばかりで興奮してきた。

いったん落ち着こう。

 

役者の演技も素晴らしい。

第1作目は、俳優の大根役者ぶりがひどかったが、今回は大丈夫だ。

永島敏行、水野美紀吹越満など、ちゃんと演技ができる人を揃えている。

ちなみに大泉洋がチョイ役で出ている(銀幕デビュー作。台詞もクレジットもなし)。

 

水野美紀は、全編を通してミニスカート。

北海道の雪の上で、自衛官役の永島敏行が寒そうに防寒コートを着込んでいても、かたくなにミニスカートだ。

不自然なほどに、いろんな角度からきれいな脚を見せつけてくる。

これは明らかに監督の趣味だよなぁ。

 

残念なことに、藤谷 “ドシロート” 文子は、また出ている。

まあ、第3作にも出ているのだが…。

彼女が出ているところだけ、わたしのテンションが少し下がるのである…。

ガメラが傷ついたとき彼女の握りしめている勾玉がくだけて、手のひらから血が出る。

それに気づいた水野美紀が「血が出てる。手当を」みたいなことを言うと、藤谷文子が、「大丈夫。ガメラも血を流してます」なんてことを、棒読みで言うのだ。

かましいわ!

 

そして、この傑作での最大の特徴は、なんと言っても自衛隊の活躍である。

多くの怪獣映画においては、自衛隊は、刺身のツマというか、居酒屋で最初に出てくるどうでも良いお通しみたいな扱いなのが普通である。

勝てやしないのに巨大怪獣に戦車砲を放ったり、戦闘機でミサイルを撃ち込んだり、なんとか頑張って、しかし簡単にやられてしまう。

あとはヒーローなり、怪獣どうしの闘いで決着がつく。

怪獣出現→自衛隊出撃→かんたんに負けるまでが、序盤のお約束なのだ。

 

しかし、『レギオン襲来』は違う。

かなり頑張る。

リアルに頑張る。

なので、レギオンが現れてからガメラが登場するまでが、通常の怪獣映画よりも長く感じる。

ここが不満な人も多いのではないか。

さっさとガメラ出て来いよ!といらつく人もいるのではないか。

でも、わたしはこの感じが好きだ。

理屈っぽく手順を踏んでる感じが、じつにSFっぽい。

 

 

 

▶3本目:『ガメラ3 邪神<イリス>覚醒』(1999)

 

 

 いよいよ3部作のラスト。

 

『レギオン襲来』の紹介文が、水野美紀のミニスカートに興奮して、いささか長くなってしまったので、3作目はサクッと紹介だ。

 

ストーリーは1作目の続編である。

1作目のガメラ対ギャオスの闘いで、ガメラによって両親を殺された少女・比良坂彩奈が主人公。

彼女の「ガメラ憎し」の想いが、ギャオスの亜種である<イリス>に乗り移り、シリーズ史上最強の敵となる。

 

怪獣が街中で大暴れすると、とうぜん街は破壊され、住民には少なからず被害が出るはずである。

怪獣が敵役であろうと味方であろうと、死ぬ側からすれば、その区別に意味はない。

残された者は、相手がガメラだろうとギャオスだろうと、親族や友人を殺した相手を恨むことになるだろう。

怪獣映画としては、なかなかきわどいところを突いてきたって感じだ。

人類の味方であるガメラが、状況によっては敵にもなり得るという指摘は鋭い。

 

映画が始まって20分過ぎた頃、突然ギャオスとガメラが渋谷の街に現れ、暴れまくる。

このときの特撮が素晴らしい!

ミニチュア模型によって完全に再現された渋谷の街が、ガメラの吐く火球によって燃え上がる。

ギャオスの放つ超音波メスによって渋谷109のビルが切断される崩れ落ちる。

人々はパニックとなり逃げまどう。

ある人たちは瓦礫の下敷きとなり、ある人たちは炎とともに空に舞い上がる。

阿鼻叫喚の世界である。

いくらガメラが正義の味方とはいえ、すぐ近くにくれば、それは恐怖であり災いでしかないのだ。

子供も観るであろう怪獣映画で、よくやったなぁと感心する。

 

 決戦の舞台は京都だ。

京都駅周辺を派手にぶっ壊すぜ!

 

ラストの悲壮感が凄い。

このラストの引きの映像によって、いまなお平成版ガメラは、日本の怪獣映画の頂点に存在し続けているのだ。

しかし、こんな終わり方、良い子のみんなを号泣させる気か!

ジジイも号泣するわ!

 

ちなみに、中山忍は、ミニスカートではなくパンツ姿が多い。

 

 

▶平成版ガメラ3部作は、それぞれテイストが違う。

1は、国家規模の災厄を描いたパニックSF。

2は、宇宙生命体の闘いを映画いたハードSF。

3は、日本古代史を絡めた伝奇SF。

 

3作続けて観ると、どっと疲れるので注意が必要。

(わたしは数時間死んだ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『メアリー&マックス』(2009)を観る

▶『メアリー&マックス』を観る。

2009年制作のオーストラリア映画

クレイアニメ

 

メアリー&マックス(字幕版)

メアリー&マックス(字幕版)

  • 発売日: 2015/03/27
  • メディア: Prime Video
 

 

オーストラリア、メルボルンの郊外にひとりの少女が両親と暮らしていた。

メアリー・ディンクル、8歳。

冒頭、少女が窓から外を覗いている場面で、ナレーションがかぶる。

「メアリーの目は、泥の水たまり色。ひたいのアザはウンチの色だ」

ひどいな “笑”。

 

父親は工場でティーバッグを作っていて、拾ってきた鳥の死骸で剥製を作るのが趣味だ。

母親は、アル中で万引き癖がある。

「あんたは、たまたま生まれた子よ」と、メアリーは母親に言われて育った。

メアリーには友達はいない。

学校ではいじめられている。

最悪である。

 

ある日、メアリーは、ニューヨークの電話帳から適当に選んだ名前に手紙を出す。

相手の名前は、マックス・ホロウィッツ。

手紙は海を越えて、マックスの元に届く。

かれもまた孤独な人間だった。

 

マックスは、44歳で独身、190cm/160kg、ニューヨークのちいさな部屋にひとりで住んでいる。

アスペルガー症候群を患っており、人とのコミュニケーションが苦手だ。

相手の表情が読めず、表情と意味との対照表を作ったりしている。

過食症でもあり、かなり肥満している。

にもかかわらずチョコドッグ(ホットドッグのウィンナーの代わりに板チョコが挟んである。マックスのオリジナル)が大好きだ。

突発的な、予期せぬことが起きるとパニックになり、部屋の隅で震えて過ごす。

そしてチョコドッグを大量に食べる。

メアリーからの手紙が突然届いたときも、部屋の隅で震えた。

18時間窓の外を見続けたあと、かれはメアリーに返事を出そうと決心する…。

 

こうして、孤独な者どうしの文通が始まる。

ふたりにとって、お互いは、アニメのキャラや空想の友人やペット以外で、初めてできた人間の友達であった。

 

ここから温かな友情物語がはじまるのかな、と思って観てると、話はとんでもなく重く暗い方向へとすすんでいく。

メアリーの行動により、ふたりの友情にひびが入る。

メアリーは、どん底の気分を味わい、自殺すら考えるようになる。

なぜそうなったかは書かないが、観ていると、「まぁ、そうなりますよねぇ」と思ってしまう。

 

しかし、いくら重く暗い話ではあっても、粘土の人形がうにゃうにゃ動いているので、どこか可愛くいじらしく、生の人間が演じるよりも、重さや暗さを受け入れやすいと言うか、それほど沈鬱にならずに観ていられる。

ラストは、感動的だ。

まさか、粘土の人形に泣かされるとは、思ってもみなかった。

 

わたしは、最初吹き替えで観て、2回目を字幕で観た(Amazon Prime Video には字幕版しかないが)。

ナレーションの声は吹き替えの方が好き。

字幕版のマックスの声を、フィリップ・シーモア・ホフマンがやっていて、これはこれで、なんだか切ない。

 

傷つきやすい魂が傷つき、しかし、やがて救いが訪れ、傷ついた魂が癒される。

そういうお話。

どこにでも転がっているようなお話ではないが、いまでも、世界のどこかで起こっているお話のような気もする。

 

ちかくに板チョコ、あるいは甘いクッキーなどを置いてから観始めるべし。

 

 

 

Hayden の『Everything I Long For』(1995) を聴く。

 

Everything I Long for (20th Anniversary Edition)

Everything I Long for (20th Anniversary Edition)

  • 発売日: 2016/04/01
  • メディア: MP3 ダウンロード
 

 

 Hayden (ヘイデン)は、カナダのミュージシャン。

これはデビュー・アルバム。

 

 


www.youtube.com

 

冒頭の曲。

代表曲でもある。

心つかまれる。

 

 

 

▶このところ身体がだるい。

まるで水の中を歩いている感じで、身体が重い。

動くのが億劫。

なにをしてもすぐに疲れて動けなくなる。

春先と秋口には、10日ほどこういう状態が続く。

むかしからのことで、わたしはかってに、“Spring Disorder” “Autumn Disorder” と呼んでいる。

原因は謎。

そのうち治る。

妻も、「今年も来たね」とか言って、たいして心配はしていない。

 

わたしも心配はしてないのだが、いささか辛いのだ。