単純な生活

映画・音楽・読書について、だらだらと書いている

『テルアビブ・オン・ファイア』(2018)を観る

 

▶『テルアビブ・オン・ファイア』を観る。

2018年制作のイスラエル映画

 

テルアビブ・オン・ファイア [DVD]

テルアビブ・オン・ファイア [DVD]

  • 発売日: 2020/06/03
  • メディア: DVD
 

 

イスラエルが、ガザ地区をがんがん空爆中のこの時期においては、少し不穏なタイトル。

映画のジャンル分けはコメディとなっているが、観ていてクスリともできなかった。

つまらないわけではない。

コメディとして観なければ、けっこう面白い映画なのだ。

 

主人公は、エルサレムに住むパレスチナ青年のサラーム。

パレスチナで大人気のメロドラマ「テルアビブ・オン・ファイア」の現場で、ヘブライ語の言語指導スタッフとして働いている。

と言っても、プロデューサーである伯父のコネで何とかありついた仕事だ。

 

サラームは、仕事の往復時、毎回イスラエルの検問所を通過しなければならない。

住んでいるエルサレムイスラエル領で、撮影スタジオはパレスチナ側にあるためだ。

ある日、いつものように検問所を抜けようとしたとき、ちょっとしたトラブルから軽い尋問を受けることになってしまう。

相手は、イスラエル軍の司令官アッシ、検問所の責任者である。

なんとか検問所を通り抜けたいサラームは、職業を訊かれて、「テルアビブ・オン・ファイア(TAOF)」の脚本を書いていると嘘をついてしまう。

目を輝かせるアッシ。

「TAOF」はイスラエルでも大人気で、アッシの妻も毎回かかさず観ている。

その脚本家が目の前にいるのである。

アッシは、サラームと一緒に写真を撮り、かれが持っていた次回分のシナリオを没収する。

家に帰って、妻に自慢するためだ。

さいきん夫婦仲が微妙に冷めているので、良いところを見せて、気をひきたいのである。

 

毎日冴えない日々を生きるサラームだったが、転機が訪れる。

メインの脚本家が降板し、その役がサラームに回って来たのだ。

ちょっとしたアイデアを話したら、それが気に入られ、伯父によって大抜擢されたのである。

しかし、脚本など書いたことがない。

パソコンの前に座ってはみたものの何ひとつアイデアが出てこない。

思い悩んだかれは、検問所のアッシに会いに行く。

「テリアビブ・オン・ファイア」というドラマは、イスラエル軍部に忍び込んだパレスチナ側の女スパイと、イスラエル軍将校の恋愛を軸にしたメロドラマである。

イスラエル軍に詳しいアッシなら、なにかアイデアがあるはずだ。

相談を受けたアッシは、がぜん乗り気になり、次から次にアイデアを出してくる。

サラームは、そのアイデアをもとにシナリオを書き、スタッフにも認められていく。

 

が、徐々にアッシの要求がきつくなってくるのだ。

アッシは、イスラエル側の軍人なのでイスラエル軍の将校をかっこよくしたいし、最終的にはイスラエルの勝利で終わらせたい。

しかし、ドラマはアラブ人がアラブ人のために作っているので、製作者たちは、女スパイとその背後にいる反イスラエルの恋人(テロリスト)を良く書きたいし、最終的にはパレスチナ側の勝利で終わらせたい。

両者の思惑のはざまで悪戦苦闘するサラーム(どうやら、ここが笑うポイントらしい)。

しまいには、サラームは大事なIDをアッシ取り上げられてしまう。

「女スパイとイスラエル軍将校を結婚させろ!俺の言うとおりに書かないとIDは返さない!」

せっぱつまったサラームは、ある秘策を思いつく…。

 

サラームの、“冴えない男ぶり”が凄い。

これほど冴えない感じの主人公もめずらしい。

冴えない感じだけど、じつは裏では冴えてる、とかじゃなくて裏表なく冴えてないのだ。

元カノのことをまだ愛していて、なんとかヨリを戻したいのだが、うまくいかない。

だいたい彼女に、「君といると死海の魚になったような気分だ」とか言っちゃう奴だからなあ。

ところが、物語りが進むにつれて、この超絶冴えないサラームが少しかっこ良く見えてくるから不思議だ。

たとえば阿部寛が冴えない男をやって、途中からかっこ良くなったとしても、元々が阿部寛なので、言うなれば元に戻っただけなのだ。

たいていのラブコメとかは、主役の男や女は最初からかっこいいのだ。

かっこいい男や女が冴えない男や女を演じていいるわけだが、我がサラームくんは、ほんとうにダメな感じなんだよねぇ。

さいごまでそのダメな感じは抜けてない。

にもかかわらず、少しかっこ良くなってる(女優に、一緒にパリに行かない?とか誘われちゃうし!)。

 

ラストのオチは衝撃的。

ドリフのコントならセットが崩れて大騒ぎになるところ。

 

観ると、イスラエルパレスチナのもんだいも、少し知ることができる。

少しだけだけど。

 


www.youtube.com

 

 

 

▶ Eva Cassidy の『Songberd』(1998)を聴く。

 

Songbird

Songbird

  • エヴァ・キャシディ
  • シンガーソングライター
  • ¥1630

 

エヴァ・キャシディは、アメリカのシンガー。

1996年に癌により33歳の若さで他界。

生前はほぼ無名。

このアルバムは死後に編集されたベスト盤。

アルバムが出されてから約4年後にイギリスから火がつき各国でトップテン入り。

彼女も「死なないと有名になれない呪い」をかけられたアーティストのひとり。

 


www.youtube.com

 


www.youtube.com

 

 

 

▶今朝、夢のなかに5年前に60歳でなくなった友人が出てきた。

「なんだよ! 生きてたのかよ!?  癌は治ったのか?」

と驚くわたしに、かれはニコニコしながらきらきらひかる5円玉を見せてきた。

「ん? なに?」

ときいても何も答えず、ただニコニコしている。

そこで目が覚めた。

 

これはなんだ?

5円玉…?

…そうか。

日曜のオークスは5番の馬、もしくは5枠の馬が来るって言うことだな。

ありがとう友よ、想いはたしかに受け取ったぜ。

(う~ん、なんか違うような気もするが…ほかに解釈が思いつかん)

『クロノス』(1992)を観る

 

▶『クロノス』(CRONOS)を観る。

1992年制作のメキシコ映画

シェイプ・オブ・ウォーター」(2017)でアカデミー賞作品賞と監督賞を受賞したギレルモ・デル・トロ監督の長編デビュー作。

 

クロノス HDニューマスター版 [Blu-ray]

クロノス HDニューマスター版 [Blu-ray]

  • 発売日: 2016/07/06
  • メディア: Blu-ray
 

 

1536年、錬金術師のウベルト・フルカネリは、宗教裁判から逃れるためにメキシコへ渡り、そこで総督御用達の時計師となり、人間に永遠の命を与える、手のひらサイズの仕掛け細工を作成する。

内に昆虫の生命力を宿した、その精密機械をかれは“クロノス”と名付ける。

時は過ぎ、400年後の1937年、ある建物の丸天井が崩れ、ひとりの男が犠牲となる。

大理石のような肌をしたその男は、「時は永遠なり」と呟いてこと切れる。

かれこそが、クロノスを発明した時計師だった。

時計師の残した家財道具はすべて競売にかけられたが、そのなかにクロノスはなかった…。

 

そして、現代。

消えたクロノスは、古ぼけた天使象の中に隠されて、古道具屋の片隅で眠っていた。

それを店主のヘススが偶然見つける。

ヘススは、老人である。

妻のメルセデス、孫娘のアウロラとともに質素に暮らしている。

ヘススは、クロノスを手に乗せて調べていて、この奇妙な機械を起動させてしまう。

クロノスは金色のスカラベのようか形をしているのだが、その脇から昆虫の脚のような針が6本出てきて、ヘススの手に食い込んだのだ。

悲鳴をあげて、クロノスを引きはがすヘスス。

手のひらは血だらけである。

そして、その夜からヘススの身体に変化が生じる。

身も心も若返った感じではあるが、異常に喉が渇き、血への渇望が始ったのだ…。

 

ホラーと言うより、ダーク・ファンタジーといった感じの作品。

ヘススはクロノスによって吸血鬼となるのだが、ぜんぜん怖くない。

まず誰かを襲って血を吸ったりしない。

妻と孫娘を愛する、善良な老人のままなのだ。

むしろ吸血鬼的な存在になったことに対して恐怖すら感じている。

 

グァルディアという大富豪の老人が出てくる。

病床にあるかれは、永遠の命を求めて伝説のクロノスを探している。

そして、甥のアンヘルロン・パールマン)の協力で、ついにクロノスがヘススのもとにあることを突き止める。

で、ヘススの手からクロノスを奪おうとするのだが、これが老人同士の対決なので、まったく迫力がないのだ。

グァルディアは杖をついているし、ヘススはなんだかヨタヨタしている。

多くの吸血鬼映画では、吸血鬼は人間離れした能力を示し、迫力のあるアクションを見せてくれるのだが、この作品ではそういうアクションシーンは皆無だ。

唯一元気なのは甥のアンヘルだが、かれもヘススひとりにけっこう苦戦する。

グァルディアにいたっては、ヘススを助ける幼いアウロラの一撃でかんたんにやられてしまう始末だ。

 

そういうわけで、この作品を吸血鬼映画として観るとかなり失望するが、老人映画として観ると、なかなかの出来なのだ(“老人映画”というのは、わたしが勝手に作った映画ジャンル)。

老人映画には、死への言及が不可欠なのだが、この作品にはそれがちゃんとある。

ヘススは、永遠の生命を手に入れて死から逃れられたわけだが、そのことに恐怖を覚えて苦悩する。

死は、老人であるかれにとっては救いでもあるということが、死を手放してはじめてわかるのである。

まあ、いくら永遠の命を手に入れても、吸血鬼になっちまったら、さすがに嫌だよねぇ。

肌も大理石みたく真っ白になっちゃうわけだし…。

 

ヘススの姿がどう変化しようと、最後までヘススを思い続ける孫娘のアウロラ

ひとことも言葉を発しない彼女の愛によって、ヘススは救われるのだ。

ラストシーンは、宗教画を思わせる。

 

 

 

Vashti Bunyan の『Just Another Diamond Day』(1970)を聴く。

 

Just Another Diamond Day

Just Another Diamond Day

  • ヴァシュティ・バニアン
  • シンガーソングライター
  • ¥1528

 

アシッド・フォークの名盤のひとつ。

アシッド・フォークってのが、いまいちよくわからん。

 


www.youtube.com

 

いちばん有名な曲はこれかな。

いろんなひとがカバーしている。

 

 

 

▶気になっていたスイーツを、珈琲とともに。

 

f:id:kitti55:20210518162931j:plain

 

丸いカステラ生地の間に、適度な甘さのホイップクリーム

ヤマザキパン謹製。

ぐへへっ(甘くて美味しいものを食べたときに出る満足の声)。

 

ちなみにコーヒーカップは、かなり前にスタバで購入したデミタスカップ

このカップ以外使わなくなったほど気に入っている。

 

 

『シュガーマン 奇跡に愛された男』(2012)を観る

 

▶『シュガーマン 奇跡に愛された男』を観る。

2012年制作のスウェーデン+イギリス映画。

消えたシンガーソングライターを追ったドキュメンタリー作品。

 

シュガーマン 奇跡に愛された男 [Blu-ray]
 

 

シクスト・ロドリゲス(Sixto Diaz Rodriguez)、1942年ミシガン州デトロイト生まれのシンガーソングライター。

1970年にアルバム「Cold Fact」でデビュー。

翌年にセカンド・アルバム「Coming From Reality」を発表。

作品の評価は高かったものの売り上げは芳しくなく、2枚のアルバムを出しただけで、ミュージックシーンから消える。

まあ、当時そういうひとはたくさんいたんだろうね。

誰もがボブ・ディランポール・サイモンになれるわけではない。

 

が、シクスト・ロドリゲスの物語は、ここで終わったわけではなかった。

まず、1977年にオーストラリアでかれのベスト盤が発売される。

それが、当時アパルトヘイト政策をとっていた南アフリカで大ヒット(プラチナアルバムを獲得している)。

とくに「Sugar Man」は反アパルトヘイトのシンボル的な曲として、人々のこころに深く刻み込まれる。

ロドリゲスのまったく知らないところで、かれの歌が時代を大きく動かしていたのだ。

 

南アフリカでは、ロドリゲスは2枚目のアルバムを発表した後に自殺したと信じられていた。

舞台に火を放って、拳銃で頭を撃ち抜いたと。

はたしてそれは真実なのか?

1990年代後半、南アフリカのファンがこの噂について調べ始める。

2枚のアルバムを発表したあと、ロドリゲスの人生に何があったのか…?

そして、ロドリゲスの物語が、再び動き始めることになるのだ。

 

月並みな感想だけど、めちゃくちゃ感動的。

ラストは、ちょっとヤバイ、泣きそうになる。

いろいろ書きたいことはあるが、ネタバレになるので、なにも書かない。

とにかく観ろ、とだけ書いておく。

 

アカデミー賞で長編ドキュメンタリー映画賞を受賞している。

 


www.youtube.com

 

 

 

▶ Simon Dalmais の『Before And After』(2014)を聴く。

 

Before And After

Before And After

  • Simon Dalmais
  • ジャズ
  • ¥1528

 

iTunesのジャンル分けがジャズになっているが、ん?って感じ。

セカンド・アルバム。

フランス人なので、サイモンではなくシモン(たぶん)。

すごく好きなアーティストなのだが、知ってるひとが少なくてちょっとかなしい。

 


www.youtube.com

 


www.youtube.com

 

デビュー・アルバムも良いのだが、どうやら廃盤。

配信でもないみたい。

こういうの、なんとかならんかね。

 

 

 

▶今日の競馬は、東京11Rの「ヴィクトリアマイル」。

いやあ、グランアレグリア強いわ~。

強い馬が強い勝ち方をするレースは良いねぇ。

馬券のほうは、いつも見ているこちらのサイトのおかけでなんとか的中。

 

www.s-johnny-garden.com

 

それにしても、今日のJRAの実況はなんなのだろう?

「18頭のウマ娘たち」ってなんだよ。

「強い! それはなぜか? それは、この馬がグランアレグリアだからです!」ってなんだよ。

飲んでたサイダー吹いたじゃないか。

フジTVとかじゃないんだから、JRAの公式はもっとちゃんとやってくれ、と言いたい。

変な煽りはいらんのじゃ。

東宝の『変身人間シリーズ』を観る

 

東宝制作の「変身人間シリーズ」3作をまとめて観る。

(暇か…)

 

「変身人間シリーズ」は、1958年から1960年にかけて作られた大人向けの特撮映画。

特技監督(特撮の監督ですね)は、3本とも円谷英二

いずれも、科学技術によって姿を変えられた人間が登場し、事件を起こす。

 

 

 

1作目:『美女と液体人間』(1958)

 

美女と液体人間  [東宝DVD名作セレクション]

美女と液体人間 [東宝DVD名作セレクション]

  • 発売日: 2015/07/15
  • メディア: DVD
 

 


www.youtube.com

 

監督は、本多猪四郎

南太平洋の水爆実験によって放射能を浴びた人間が、液体人間となってしまう。

設定が無茶だ “笑”。

液体人間になった男(やくざ者)の情婦だったジャズ・シンガー千加子(白川由美)のまわりで不可思議な事件が頻発し、刑事たちが周辺を探っていく。

途中で、放射能による生物の液体化を研究している研究員の政田(佐原健二)も捜査に参加してくる。

政田が、刑事たちに見せる実験が凄い。

ガマガエルに特殊な放射線をあてると、ガマが溶けて液体になるのである。

「液体生物に変化したんです」

って、凄い発見じゃないか!
最後は、永代橋周辺が火の海という大スペクタクルに無理やり持ちこんで終わりなのだが…。

 

最後まで観てしまったのは、白川由美が色っぽいからですかねぇ。

下着姿にもなってくれるしね。

 

 

2作目:『電送人間』(1960)

 

電送人間  [東宝DVD名作セレクション]

電送人間 [東宝DVD名作セレクション]

  • 発売日: 2015/07/15
  • メディア: DVD
 

 


www.youtube.com

 

監督は、福田純

これがデビュー2作目である(のちに、大ヒットしたTVドラマ『西遊記』のメイン監督となる)

 シリーズ3本のなかでは、ストーリーがちょっとまとも。

終戦末期のどさくさで殺されそうになった被害者が、“電送”という新しい科学技術を手に入れて復讐していく話。

スタートレックの“転送”技術よりはるかに早いじゃないか!

この作品もヒロインは白川由美

ちょっとだけ下着になるが、1作目よりは地味だ(なにを期待しておるのか?)

主役は、なんと鶴田浩二

電送人間役の中丸忠雄が、不気味で怖い。

 

 

3作目:『ガス人間第一号』(1960)

 

ガス人間第1号 [東宝DVD名作セレクション]

ガス人間第1号 [東宝DVD名作セレクション]

  • 発売日: 2015/07/15
  • メディア: DVD
 

 


www.youtube.com

 

監督は、1作目に続き本多猪四郎

『液体人間』と『電送人間』では刑事役だった土屋嘉男が、こんどはガス人間となって大暴れだ。

マッドサイエンティストによってガス人間に変えられてしまった水野(土屋嘉男)が、自らの恋愛を成就するために、いろいろと悪事を働く話。

水野が行う犯罪も、それに対する警察の捜査も、すげー雑。

と言うか、映画の構成じたいが、ものすごく雑。

観ていて、ちょっといらいらするレベルで、思わず「もっとちゃんと作れ!」と言いたくなる。

が、そうぼやきながらも、最後まで観てしまうから不思議だ。

 

しかし、この作品での主役は、ガス人間ではなく、日本舞踊の家元藤千代を演じる八千草薫なのだ。

いやあ、美しい(撮影当時29歳)。

ストーリーの雑さなんか、彼女の美しさの前では、もうどうでも良くなるのだ。

神様が、「よーし、久しぶりに本気出してみっかな」って作ったのだが、たぶん八千草薫なんだろうね。

この八千草薫扮する藤千代と、ガス人間との恋愛がストーリーの核なのだが、惜しいかな、肝心の恋愛部分がほとんど描かれない。

だから、ちゃんと作れよ…。

ラストは、切ない…。

 

 

3作とも、ストーリーも特撮もすごくしょぼい。

でも、途中で観るのをやめる気は起きず、最後まで楽しんで観てしまった。

つっこみどころは満載なのに、いちども嫌になることなく。

なぜ観れてしまうのだろう?

別世界のような、昭和の風景のせいかな?

白川由美の妙な色気のせいか?

八千草薫の美貌のせいか?

少し真剣に考えてみたが、よくわからんのだな、これが。

 

「変身人間シリーズ」を絶賛している人たちがいることは知っているが、どう考えても“絶賛”するほどの映画ではないよなあ。

“絶賛”は、斜に構えすぎだろうと思ってしまう。

「つっこみどころを愛する」というシネフィル特有のエグミも感じる。

 

いかん、愚にもつかないことをダラダラと書いている。

結論:暇なら観るよろし。

 

 

 

▶ Shawn Colvin の『A Few Small Repairs』(1996)を聴く。

 

A Few Small Repairs

A Few Small Repairs

  • ショーン・コルヴィン
  • ポップ
  • ¥1630

 

わたしの愛聴盤のひとつ。

ときどき聴きたくなる。

 


www.youtube.com

 

この楽曲でグラミー賞を受賞している。

良い声。

 

 

 

▶さいきん、加齢のせいか物事にたいする集中力がなくなっている。

とくに映画を観たり、本を読んだりすることに集中できない。

 

たとえば1本2時間の映画を、2時間観続けることが難しい。

映画館なら強制的に観させられるわけだが、なにしろ観てるのが主にDVDか配信である。

いつでも好きな時にポーズボタンやストップボタンを押せるのだ。

そりゃあ、押すよねぇ。

2時間も集中力を保つのは、さすがにしんどい。

 

本も、長くて30分だなあ。

ちいさい頃から集中力の無さには悩んでいて、結果、読書にかんしては、数冊の本を並行して読むという方法に落ち着いた。

高校生の頃にはすでに、5冊ほどの本を同時に読んでいた。

調子の良いときには、トルストイの『戦争と平和』、ドスト氏の『カラマーゾフの兄弟』、三島由紀夫の『豊穣の海』、ロマン・ロランの『ジャン・クリストフ』、D・フランシスの『競馬シリーズ』を同時に読んでいた。

アスリート気分か?

 

いまは、この同時読みがまったくできない。

1冊30分で、1日分の読書エネルギーが枯渇する感じ。

どう考えても加齢だな。

やれやれ。

 

 

 

『胡同の理髪師』(2006)を観る

 

▶『胡同の理髪師』を観る。

2006年制作の中国映画。

 

胡同の理髪師 [DVD]

胡同の理髪師 [DVD]

  • 発売日: 2009/01/07
  • メディア: DVD
 

 


www.youtube.com

 

胡同(ふーとん)とは、地名ではなく、北京に点在する細い路地のことである。

道沿いには、四合院と呼ばれる独特の集合住宅(中庭を囲むように建物が建ち、出入りするための大きな門がある)が並ぶ。

 


www.youtube.com

 

胡同と四合院の紹介映像。

10分過ぎに出てくる胡同のジオラマが素晴らしい。

番組の最初の方で、女性MCが「立体的綜合的生命体」という言葉を使っているが、それが四合院をよく表した言葉なのだろう。

日本の掘割長屋のようなものか?(たぶん違う)

 

この胡同の片隅で、93歳のチン爺さんは理髪店を営んでいる。

ひとり暮らしである。

朝、古い振り子時計の音で目を覚まし、コップに浸けてる入れ歯をカチャっと装着。

その後、小さな荷車付の三輪車で胡同を移動し、病気とかで外に出ることができない老人たちの髪を刈っていく。

午後は、たまに麻雀仲間と宅を囲む。

夜になると、入れ歯を外し、床につく。

毎日が、この繰り返しである。

その静かな日常を、カメラがドキュメンタリー・タッチで追っていく。

 

主役のチン爺さんを演じているのは、チン爺さん本人である。

台詞まわしが自然なのか不自然なのかは、中国語がわからないわたしには、ちょっと判別できないのだが、観ているかぎりでは不自然な印象は受けない。

最初は、純粋にドキュメンタリーだと思って観始めたのだが、客の家を訪ねてドアを開けるチン爺さんを、家の中から撮っていたりとか、映画的なカット割りがちゃんとされているので、ドキュメンタリーでないことはすぐにわかる。

純粋なドキュメンタリー映画ではないのだが、かと言ってストーリーがあるかと言うと、それもないのである。

映画は、チン爺さんの日常の繰り返しを淡々と映していく。

 

老人を主人公にした映画の多くがそうであるように、この作品にも遠からず訪れるであろう“死”が、ひっそりと寄り添っている。

訪ねて行った客が部屋のなかで孤独死しており、白布を被せられて運び出される。

その家の前に腰かけて静かに煙草を吸うチン爺さんの姿は胸に迫る。

麻雀仲間のひとりが、ぽつりと「みんな逝っちまう」と呟く…。

自分の遺影の準備のために写真を撮るチン爺さん…。

 

この映画の中で語られる“死”は、チン爺さんの“死”であり、胡同に暮らす多くの老人たちの“死”であり、再開発で取り壊されていく胡同そのものの“死”である。

その迫り来る“死”に対して強く抗うこともなく、チン爺さんは毎日を静かに生きている。

その穏やかな“生”の積み重ねが、映画を観ているわたしたちのこころにも、ゆっくりと沁み込んでくる。

 

“生”は、チン爺さんのように、しっかりと積み重ねていけば、やがて来る“死”と同じ重さとなり、最終的にはゼロ地点へとわたしたちを運んでいくのだ。

そういう思いを強くして、映画を観終わったとき、わたしはチン爺さんに尊敬の念を抱きつつ頭を垂れたのである。

 

ちなみに、わたしの“生”は、(もちろん)紙風船のように軽い。

 

なお、チン爺さんは、この後104歳まで生きて天寿を全うしている。

 

 

 

Yo-Yo Ma の『Plays Ennio Morricone』(2004)を聴く。

 

 

エンニオ・モリコーネの楽曲が、チェロ組曲風に再構成されている。

美しい。

ため息。

 

ヨーヨー・マは、超絶巧いのにもかかわらず、それを「超絶巧いなぁ」と感じさせないほど、超絶巧い。

 


www.youtube.com

 

 

 

 

川端康成ノーベル文学賞を受賞したときの受賞候補作家に、石川達三が入っていたことを知って、ちょっとびっくりしている。

ほとんどの作品が絶版状態で、いまや忘れられた作家のひとりである。

わたしが若い頃、つまりまだ石川達三が生きていた頃には、おそらくほとんどの作品が文庫化されて書店に置いてあったほどの人気作家だった。

映画化されたりTVドラマになった作品も多い。

とうじ古本業界の片隅で働いていたわたしは、毎日大量に入って来る石川達三の文庫本に少々うんざりしていた記憶がある(ちなみに、他には赤川次郎と和久俊三と森瑤子にうんざりしていた)。

 

死後、急速に忘れさられていったわけだが、なぜなんだろうなぁ…?

タイトルが流行語になるくらい時代の風俗とべったりな作風が原因かな、とも思うが。

作者の死とともに読者も死んだと言うことか?

読者が継承されなかったと。

そう考えると、古典って凄いな、と当たり前なことを思う。

 

 

 

 

競馬の映画、おすすめ3本

 

▶わたしは競馬ファンである。

馬がスタートしてからの2分間が、わたしにとっては何より至福の時間だ。

馬券が当たれば、もちろん嬉しいが、競馬の楽しさは馬券だけではない。

ギャンブルとはべつの、類まれなドラマ性が競馬にはある。

ヘミングウェイは、「競馬は人生の縮図だ」と言い、寺山修司は「競馬は人生の縮図ではない。人生こそが競馬の縮図なのだ」と言った。

まあ、どちらも何を言ってるのか、よくわからないのだが “笑”。

天才ふたりに、意味不明なことを言わせるほど、競馬には不思議な魅力があるのである。

 

これから紹介する映画は、その競馬の不思議な魅力が、競馬のことをまったく知らないひとにも伝わるような映画である。

と言うか、伝われば良いなあと思う。

そして、ひとりでも多くのひとが、競馬のどろ沼に入り込むことを願っているのである。

 

 

 

1本目 『セクレタリアト / 奇蹟のサラブレッド』

2010年制作のアメリカ映画。

 

 

世界競馬史上屈指の名馬セクレタリアトと、揺るぎない信念で、かれを23年ぶりの三冠馬へと導いた女性馬主の物語。

父親が亡くなり、売りに出される寸前の赤字牧場を引き継いだペニー・チェネリー(ダイアン・レイン)。

競馬にはズブの素人の主婦だが、父の残した牧場を守ろうと孤軍奮闘する。

そんな彼女の牧場で1頭の仔馬が生まれる。

のちに世界最強とうたわれるセクレタリアトである。

 

邦題には “奇蹟” と入っているが、奇蹟的な要素はそれほどはない。

唯一あるとしたら、短距離血統の馬から長距離もこなせる馬が生まれたことか。

サクラバクシンオーの血統からキタサンブラックが生まれたみたいな?)

そしてその馬が、負けん気の強いペニーのもとに生まれたことか。

 

三冠レースの最後、ベルモントステークスでのセクレタリアトは、まさに化け物だな。

2着馬との着差が31馬身ってなんだよ “笑” 。

 


www.youtube.com

 

映画は、偏屈な調教師(ジョン・マルコヴィッチ)や、誠実な調教助手(勝てないと言われたケンタッキーダービーの前夜、競馬場に向かって「待ってろケンタッキー!ぜったいに勝ってやるからな!」と叫ぶシーンは感動的)など、キャラもはっきりしていて、競馬を知らなくても楽しめる。

 

 

 

2本目 『ライド・ライク・ア・ガール』

2020年制作のオーストラリア映画

 

ライド・ライク・ア・ガール [DVD]

ライド・ライク・ア・ガール [DVD]

  • 発売日: 2020/12/02
  • メディア: DVD
 

 


www.youtube.com

 

舞台は、オーストラリアのメルボルンカップ

オーストラリア最大のレースで、大都市圏では祝日となるほどの国民的レース(賞金総額は約6億円)。

日本で言うと、年末の有馬記念春の天皇賞を足したようなレースかな。

 

メルボルンカップは160年の歴史があるが、そのうち女性騎手が優勝しことが一度だけある。

騎手の名は、ミシェル・ペイン。

この映画は、彼女の半生を描く。

男尊女卑の風潮が色濃く残る競馬の世界で、前人未到の記録を打ち立てた小さな巨人の物語。

 

2015年、第155回、騎乗した馬はプリンスオブペンザンス。

出走24頭中、人気は23番。

まあ、女性騎手が1世紀半も優勝したことがないレースだし、馬もそれほど強いとは思われてなかったし、この人気はしかたないか。

 

じっさいの映像はこちら。

 


Melbourne Cup 2015.........

 

彼女の馬は1枠1番(最内)で帽子は緑。

白いブリンカー(馬の視野を狭くするために顔に被せる)をつけている。

ちょっと出遅れてるね。

外枠だったら、この出遅れはひびいたかも。

終始内ラチ(内側の柵)沿いに中断を進むけど、途中で上手くすっと中に入っている。

あのまま内にいたら直線での抜け出しが遅くなったかも知れない。

直線に入る瞬間、プリンスオブペンザンスの前がフッと開くんだよねぇ。

なんど見てもぞくぞくする。

最後の直線は、勝つのがわかっていても感動的だ。

 

ゴールを駆け抜けた直後に、マイク片手のインタビュアーが馬に乗って駆け付けるのって面白いな。

 

インタビューにスティーヴ・ペインというダウン症の男性が出てくるが、ミシェルの実の兄で、映画では本人が演じている。

いやあ、いい映画でした。

 

ちなみに、2006年のメルボルンカップの優勝馬デルタブルース

2着がポップロックで、どちらも日本馬である。

デルタブルースの騎乗は岩田康誠

地方競馬(園田)のジョッキーから、メルボルンカップの勝利ジョッキーまで登りつめるって凄いな。

岩田のくせにね “笑”!

 


www.youtube.com

 

 

 

3本目 『シービスケット

2003年制作のアメリカ映画。

 

シービスケットBlu-ray

シービスケットBlu-ray

  • 発売日: 2016/09/21
  • メディア: Blu-ray
 

 


www.youtube.com

 

舞台は、1930年代、大恐慌真っただ中のアメリカ。

過酷な調教と数多くのレースにより本来の素質を生かせなくなった馬。

愛する者を亡くし、生きる希望を失った大富豪(ジェフ・ブリッジス)。

有刺鉄線の登場によりカウボーイ生活にピリオドを打たれた男(クリス・クーパー)。

そして、不況のため両親と別れ天涯孤独の身となり、人生を投げてしまった若者(トビー・マグワイア)。

3人の男たちと1頭の馬が、奇蹟のように出会い、生きることに喘ぐ多くの人たちに希望と勇気を与えていく…。

 

人と馬の、奇蹟の物語。

競馬映画の王道ですね。

 

全米を沸かせた、三冠馬ウォーアドミラブルとのマッチレースの映像。

スタートがかっこ良い。

 


www.youtube.com

 

 

 

▶「競馬映画のおすすめ3本」は、これがパート1で、パート2も(なんならパート3も)準備しているのだ!

 

『聖者たちの食卓』(2011)を観る

 

▶『聖者たちの食卓』を観る。

2011年制作のベルギー映画

60分のドキュメンタリー。

 

聖者たちの食卓

聖者たちの食卓

  • 発売日: 2016/10/21
  • メディア: Prime Video
 

 

 インド・パンジャブ州のアムリトサル(インド最北端の都市)にシク教の総本山「ハリマンディル・サーヒヴ」(黄金寺院)がある。

ここでは、毎日10万食の食事が巡礼者や旅行者のために、すべて無料で提供される。

毎日10万食…。

眩暈がするほどのスケール。

 

映画は、仕込みから調理、食事風景、そして後片付けまで、この驚異のシステムの一部始終を見せていく。

BGMはない。

聞こえてくる音は、鍋やフライパン(でかい!)、そして食器がたてる音、調理の音(大量の薪とガスボンベ!)、人々の喧騒、祈りの声、すべて自然の音のみ。

説明的なナレーションもない。

ただ見せるだけだ。

わたしたちは目撃者となって、かれらの一日を追うことになる。

 

食事を作っている人たちは、すべてボランティアだ。

かれらの、あまりの手際の良さにうなる。

そして何より、すげー美味そうなのだ!

観終わったら、ぜったいカレーが食べたくなる。

 

注意:夜遅くには観ないほうが良いです。

 

 

 

▶ Fruit Bats の『Absolute Loser』(2016)を聴く。

 

 

脱力系ポップ。

熊かわいい “笑”。

 


www.youtube.com

 

スタジオ・ライブ。

MCのおばちゃん、たまに見かけるんだけど……有名なひとなんだろうか?

 


www.youtube.com

 

 

 

▶『小川洋子と読む内田百閒アンソロジー』を読む。

 

小川洋子と読む 内田百閒アンソロジー (ちくま文庫)
 

 

名作の「件」「旅順入城式」、渋い「琥珀」「桃葉」など、全24編収録。

それぞれに小川洋子の短い解説(と言うか感想)が付く。

 

たとえば同時代の作家、芥川龍之介の短編を読むと、100年以上前に作られた工芸品を鑑賞しているような気分になる。

けして芥川龍之介の短編が古臭いという意味ではなく、かっちりと出来上がった名作を読んでいる感じに、どうしてもなるのだ。

が、内田百閒の短編を読むと、なぜか、昨日書かれた作品を読んでいるような感覚におそわれるのである。

なんだか、つねに生々しい。

すごく怖い作家だと思う。

 

「冥府」という作品では、かんぜんに向こうの世界を覗いちゃってるもんなぁ…。